エピローグ「やっぱり戻って!!」「諦めろ」
見上げると突き抜けるような青空と輝く陽光が頭上から降り注ぐ。
彼と初めて会った時とは反対な光景に目を細める。
周囲には視界を遮るような物は何も無く、季節的にもうすぐ秋になるせいか少し涼しく感じる風が草原の草花の間を駆け抜け髪を揺らす。
変わりつつある季節の空気を思いっきり吸い込み伸びをすると、傍にいる彼が声をかけてきた。
「良かったのか、これで」
「良いのよ、これで。それにもう済んじゃったことだし」
遠くに見える王都を眺めながら答える。
周辺の大地には未だ戦いの爪痕が多く残り、王都内は市壁と王城を残し、それ以外は物の見事に焼け野原になっている。王都の臣民は全て王城に非難していた為幸いにも犠牲者は出なかった。だが、魔物達から彼らを守る為とはいえ彼らの住む王都を焼き払ってしまったことは今でも罪悪感を抱かずにはいられない。
あれから――魔王率いる魔物軍との戦いから、もう3ヶ月経っていた。
魔王との戦い(と、思いもしない追加要素で)瀕死の重傷を負って倒れたエイスは、駆け付けた騎士団によって王城に担ぎ込まれた。
彼の怪我の具合は更に悪化していたが3ヶ月に及ぶ宮廷魔導士と治療師の集中治療の末一命を取り止め、古傷も含め見事に全快するに至った。
~数時間前~
完全に回復したエイスと私は国王――父様に呼び出され王城内の謁見の間に向かっていた。きっと褒賞の話だろう。
これまで治療でずっとベッドの上だったエイスはまともに話し合いもできなかったのだ。
横に目をやると、そこにはもう何の不自然もなく歩くエイスの姿があった。
本人の気力もあったせいなのかエイスの回復は目を見張るものであった。宮廷魔導士たちの高度な回復魔法の効果もあったが十数年にわたって負ってきた古傷を僅か2か月半で完治させ、その後の歩行訓練等の生活行動の訓練も数日で終わらせてしまった。
だが、全快したにも関わらずエイスは落ち込んでいるように見える。
周りの人達からしたらいつもと変わらないように見えるが、視線が僅かに下を向き、周囲の空気はどんよりしている。
一体彼が何について落ち込んでいるのか。これまでの彼との間にあった出来事から察するにその答えは何となくだが、わかる。
そして、彼との旅を終えてからずっと考えていたことがある。
その二つを踏まえ、私はある一つの大きな決断をした。
そうこうしているうちに謁見の間に到着した。
「父さ――国王様、エイス、ソニア両名参上しました」
「入りなさい」
父様の返事を聞き、扉の取っ手に手をかけようとした時、エイスが私より先に扉に手をかけた。突然の行動に疑問を口にしようとすると空いているもう一方の手で私の口を塞いだ。
「……扉の前に誰かいる。僅かだが殺気も感じる……俺に開けさせてくれ」
声を潜めながらそう言い、私を背にして扉を開けると――
「くたばれ、このクソ男ぉおおおおお!!」
長剣を振りかぶった父様がエイスに襲い掛かってきた。
父様の王族でありながら剣術も嗜んでおり、その腕はは中々のもの。その為一国の国王でありながらガタイもよく、以前練習試合だが訓練を積んだ本気の騎士団員相手に勝ったことさえある。
しかし、異世界、この世界両方で戦い抜いてきたエイスには遠く及ばず、二秒で取り押さえられたのだった。
「エイス殿。この度は姫にして娘ソニアの奪還、そして王都を襲った魔王とその軍勢の討伐見事であった」
「なに今起こった事を無かった事にして話進めようとしてんのよ」
床に倒され、腕を捻り上げられたまま話を進める一国の王。何だかシュール。
「貴殿の働きに応じて――」
「エイス、そのまま肩外してやって」
「了解した」
「イタタタタ、ちょちょ待って肩外れる、ホント肩外れる!分かった、話すから離してくれ!!」
最初からそうすりゃいいのに。
父様の懇願にようやく捻り上げていた腕を開放するエイス。
父様は肩の調子を確かめるように肩を回しなが話始めた。
「城内の侍女達が話していたのを聞いたのだ……この男がお前を押し倒したとな!!」
「何の話よそれ……」
呆れて頭を抱えてしまう。
話が様変わりしすぎているが恐らくは『アレ』のことだろう。
王都に到着した直後に異世界にいたころの古傷や、北の大森林で負った怪我が原因でエイスは倒れた。その後治療を受け目を覚ました彼は目の前にいた私を抱きしめ、その一部始終を侍女達と母様に見られてしまっのだ。
魔王との戦いが終わった後、覗き見ガールズ(一名既婚者含む)を全員もれなく説教したのだがどうやら時既に遅かったようだ。
そして、彼女たちが吹聴した話に尾ひれがつく――どころか羽やら手足やらが生え、父様の耳に入った、ということだろう。
最近城内ですれ違う人間からやたら視線を感じると思ったらそういうことだったのか。
「え、えーっとその話は――」
「大事な一人娘が襲われたと聞いたら黙っちゃおれん!しかも、ソニアは最近エイス殿の病室に足繁く通っていたそうではないか!父様は許しませんよ!そんなの!!」
「エイス。やっぱ肩外してやって」
「了解した」
再び腕を捻り上げられた父様の悲鳴が謁見の間に響き渡る。周囲には衛兵達や母様がいたが皆一様に呆れた顔をしており、誰一人としてその光景を止めることなかった。
ちなみに、エイスの病室に通っていたのは看病のためだ。
先の戦いで大勢の負傷者が出た為に王都中の治療師や、回復魔法の使える魔導士が治療に駆り出されていた。その中には当然城の治療師や宮廷魔導士も含まれており、エイスの身体が回復に向かうと彼らは他の重傷者の治療へと向かってしまった。そして、彼らに代わり回復魔法の使える私がエイスの治療に当たっていたのだ。
暫くして父様は右腕が外れる寸前で解放されようやく本格的に話し合いと相成った。
「オッホン、では改めて。エイス殿。この度は姫にして我が娘ソニアの奪還、そして王都を襲った魔王とその軍勢の討伐、誠に見事であった」
玉座でわざとらしく咳ばらいをした父様が話始める。
「この二つの働きに父として、国王として最大限の感謝の言葉を送りたい。ありがとう。そして、貴殿は依頼達成時には望むだけの褒賞を与えると約束したが。これだけの働きをしたのだ、貴殿の望みならば我が国が総力ををもって叶える所存だ。貴殿は一体何を望む?金銭か?領地か?それとも地位か?」
一度はエイスに断られたが、やっぱり父様は褒賞を出したいらしい。
「いや、必要ない。もう既に貰っている」
「何?いつの間に……一体誰に何を貰ったというのだ?」
彼の報酬。それは『私が魔王との戦いを見届ける』こと。それは魔王を討伐した際に成されたのだ。
しかし、その契約私達二人の間で秘密裏に行われた為他の人達は知る由もない。
「それは――」
父様の問いに『言ってもいいか?』とエイスが許可を求めるように視線を向けてくる。
だが、私はその視線を断ち切るように一歩前に出て、少しだけ胸を張った。
「私よ!!」
「「「は?……はあああああああ!?」」」
疑問を含む一瞬の沈黙の後、その場にいた全員の絶叫が謁見の間を震わせた。
エイスは声こそ上げなかったが、驚愕のあまりその目は見開かれ、僅かに口をあけながら固まっている。
「一体どういうことだソニア!?なぜお前が――ハッ!まさか、エイス殿に!?」
「エ、エイスは関係ないわよ!私が、一人で勝手に決めたことなんだから」
「ど……どういうことだ。報酬のことなら――」
硬直から抜け出したエイスの言葉を遮り、私は続ける。
「私だって何も考えずに決めたわけじゃないわ。私なりに色々考えた結果、そう決めたんだから」
「ならば、どう考えた結果なのだ!?」
「そうね……でもその前にまず父様はエイスにどんな報酬を与えようとしてたのか具体的に知りたいんだけど」
「それは先ほど言ったであろう。エイス殿が望むだけの金銭的報酬、もしくはわが国内での爵位、領地等を――」
「それ、本当に与えられると思ってるの?」
私の言葉に父様はギクッと肩を揺らす。
やっぱりか。
「今の王都を立て直すのに人件費、資材費、王都民に対する補償とその他諸々。一体どれくらいすると思ってるの?」
「そ、それは……」
魔物軍を倒すため王都を丸ごと焼き払ってしまった為王都の臣民は住居を失ってしまった。住む場所を失った彼らは王都が完全に復興するまでの間、近くの領地に避難したり、王城で生活することになった。
しかし、彼らの住居を再建すれば良いというわけではない。物流の再生、王城を守る結界や市壁等の王都の防衛機構の見直し、そして、住民への補償。
今の焼野原状態から王都を復興するにはきっと途方もない時間と国庫が空になっても足りないくらいの費用が掛かるだろう。
「ならば、代わりに領地や爵位を――」
「コイツに領地経営ができるとでも?」
母様や周りの衛兵たちが渋い顔をする。
皆なんだかんだエイスの人となりは心得ているようだ。
「だ、だがこれだけの功績を成し遂げた者に何の報酬もないというのは……」
父様の言うことも一理ある。
こっちの都合で勝手に呼び出して戦わせておいて、何の報酬も無いというのもおかしい話だ。
「だから、私ってわけ。それに私じゃ王位は――」
「だからと言って、そんなこと認められるわけないだろう!!」
怒気をはらんだ叫びをあげる。
だが、その目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。
その時、これまで父様の傍に控えていた王妃の母様が前に出る。
「あなた、もういいでしょ。この子が決めたことよ」
「な、お前まで何を言うんだ!?ソニアはまだ15だぞ!?」
父様が訴えると母様の額に特大の青筋が浮かび、スパーンと気持ち良いくらいの音と共に父様の後頭部を引っ叩いた。
「アンタがそんなんだから、この子はいつまでも苦しい思いをするのよ!いい加減子離れしなさい!!」
母様の一括が広めの室内に響き渡る。母様の怒りは凄まじく、その様子怒り狂った魔王にすら匹敵するだろう。小さい頃から怒られてきた私は自然と胃の奥がキュッと引き締まる感じがした。
辺りを見渡せば衛兵達の姿勢も先ほどよりシャキッとしている。
「ありがとう。母様」
「いいのよこれくらい。でも、彼について行くってことはどういうことなのか、ちゃんと覚悟はできてるんでしょうね?」
「大丈夫。そんなのとっくにしてきたから」
私の答えを聞いた母様は微満足そうに笑む。
私は父様の方に向き直る。
母様に窘められ勢いは落ちたもののその顔は未だに納得がいかないという様だった。
そんな父様へ私は深く頭を下げた。
「父様……これまでいっぱい大切に、大事に育ててくれて、ありがとうございました。王族に生まれながら何の責務も果たせず、何にも返せず勝手に出ていくこんな親不孝な姫で、娘でごめんなさい。でも……」
「ソニア……」
涙目の父様の顔と共にこれまでの思い出が頭の中を駆け抜けていく。
小さい頃、忙しい公務の最中時間を見つけて遊んでくれたこと。
許可無くこっそり城下に降りて本屋巡りしていたのがバレて母様に怒られていた時、庇ってくれたこと。
最近は恥ずかしくて昔みたいに甘えられなくなってしまい、かなりキツく当たってしまったこと。
それなのに攫われた私を救い出すためにわざわざ遠い西の荒野まで軍隊を派遣して、異世界召喚までしてくれたこと。
他にも数えきれない程の思い出が蘇ってくる。
鼻の奥がツンとし、目の辺りが熱を持ち始めるが、それをぐっと堪えて、今できる一番の笑顔を作り、告げる――
「私、父様の娘に生まれて幸せでした」
その瞬間、父様の大きい腕が私を抱きしめる。
父様は何も言わなかった。だが嗚咽と共に僅かに震えるその大きい手から伝わってくるその想いに、私も父様の背に手を回すことで返した。
~現在~
そよ風に吹かれながら私はこれまでずっと聞けなかったことを口にした。
「……アンタこそ本当にこれで良かったの?その、元の世界に帰れなくなっちゃったけど」
そう、彼はもう元の世界には戻れない。
戻る為の方法――異世界召喚陣――を破壊してしまったのだから。
魔物軍を討伐の為エイスの世界の武器を召喚した際、彼は一つの考えに至った。
魔王の狙いは『異世界召喚陣』ではないか、と。
『ずっと引っかかっていた、何故魔王はわざわざ山脈の反対側にあるこの王国に攻め込んだのか。人間に害を与えるなら山脈の両端に位置してる北か、南の国の方が余程良いはず。なのに魔王はこの国を選んだ。ということは魔物でさえ越えるのを躊躇う様な障害を越えてでもこの国を攻め落とす要素がこの国にはある』
エイスは私を奪還する前、私の人となりを知る為に私の部屋を調べていた。その一環として私が国内だけではなく北や南の国から集めていた大量の伝承、物語、歴史書を読み漁りある事に気付いた。
それは、この王国で書かれた物語以外に異世界人が出てくる話が無いということ。
北の国の書物にも、南の国の書物にもそれ以外の国の本にも、異世界人の『い』の字も出てこない。まるでその発想が元から存在していないかのように。
火の無いところのに煙は立たないように、伝承や物語が実在した歴史を元に作られるということは間々ある。現に私たちの世界でも彼の世界でもそうやって創られた話は少ないくないという。
だとするなら王国を中心とした周辺一帯の国々には異世界召喚の歴史、異世界人を召喚するという方法すら無いということになる。
『そして、魔王をはじめ魔物達は魔法の使用に必要な魔素を溜め込める魔力石を持っており、魔王は強固且つ複雑な王城の結界を突破できるほど魔法の扱いに長けている』
そんな奴が大きい危険を冒してまで狙うものがあるとしたら、それはきっと魔法に関係のあるモノ。
他の国には無く、この王国にだけ存在する特大の魔法。
それこそが、異世界召喚陣。
暴力と破壊の化身である魔王が、超常の力を持つ異世界召喚陣を手に入れたらどうなるか、そんなこと考えるまでも無かった。
そのことに気づいたエイスはすぐさま父様に魔法陣の破壊を進言したのだ。これから行う作戦が失敗に終わった場合、魔王に召喚陣が渡らないようにと。
その話を聞いた父様や大臣達等と紆余曲折の末、作戦開始前に彼の手によって異世界召喚はを破壊されたのだ。
彼はバイクにもたれながら答える。
「問題ない。あの世界にそこまでの思い入れは無いからな。金を得る為の……生きていく為の糧を得る方法さえあれば住む世界にこだわりはない」
「そういえば、謁見の間でお前は何か言いかけていたな」
「そうだっけ?」
「そうだ。『それに私じゃ王位は――』と」
「ああ、その事ね」
私は少し息を吐き出して話し始める。
「この国の王位は代々男児が継ぐ決まりになってるの。だから、本来なら王位を継げる男の子を生まなきゃならなかったのに、父様があんまりにも私のことを大事にするもんだから中々次の子作りが進まなくてね。それに、もし男の子が生まれると私の立場が無くなっちゃうからって……」
青空の下、強めの風が私たちの間を駆け抜けていく。
「本当ならもっと早く、それこそ10歳くらいには他の国にお嫁に行かなきゃいけなかったの。これまで何回かお見合いもしてきたけども、父様がこの年まで全然子離れできなかったせいで気が付いたらこの歳よ」
「それは……何というか……」
「そうね、父様のそう言うところは王として失格ね」
少し苦笑いが零れる。
「だから、さっさと私の方から離れてあげないといけないのよ」
「あれほど……想われていてもか?」
「……そうよ。だからこそよ……」
陽が雲に隠れ、少し冷たくなった風が駆け抜ける。
「でも、それだけじゃないの」
「どういうことだ」
少ししんみりした空気を切り替えようと声を張り上げるとエイスは怪訝そうに少し首を傾げた。
「私ね、これまで王都の外に出たことなかったの。市壁の中なら何回も見て回ったけど、それより外を知らなかった。だから、本を読んでいっつも外の世界の事考えてたりしたの。もちろん、お話自体も好きだったけどさ。
でも、アンタと旅して初めて外の世界を見て、触れて、体験してわかったの。世界ってのは私が想像してる以上に厳しくて、素敵で、でっかいんだって!
でもこの世界にはまだまだ私の知らない物や景色がいっぱいある。もっともっと私の知らない、心躍らせる刺激があるって知ったらいてもたってもいられなくなって、だから、アンタと一緒に行きたいって、思ったの」
ああ、やっぱり私はどこまでも我儘で身勝手だ。
あれだけエイスにも、父様達にも迷惑かけたのにそれでもまだ自分の欲求を満たそうとしてる。
その為に自分の立場を利用し、彼の了承も取らず勝手に決めたのだ。
声を張り上げた傍から徐々に不安と後悔が湧き上がってくる。
でも、彼にだけは知っていて欲しかった。
込み上げてくる思いを押し込めてもう一度声を張る。
「聞くのが後になってゴメン。
私も一緒に連れて行って!!」
「わかった。いいぞ」
「軽!!」
私の悶々と考えていた想いをぶった切るかの様な即答に唖然としてしまう。
「当たり前だろう。お前の笑顔をこれからも見られるのなら俺の方に断る理由はない」
「うっ……なんでそう、恥ずかしいこと平然と言えるのよ……」
「治療中、お前がいない時に王妃が見舞いに来てな『貴方は何を考えているか全く分からないから思ったことはそのまま口に出した方がいい。特にあの子に対してはね』と言われた」
おのれ母様め……!!
「実際にお前とは何度も考えのすれ違いがあった。俺としてはそんな事もう御免だ。故にこれからはそうさせてもらう。王妃も『そうでもしないとあの子との仲も縮まらない』と言っていた」
頰が熱を持ち始める。きっと太陽が雲から顔を出して気温が上がったせいだ。
「それに、お前が言ったのだぞ『刺激のない人生は死んでいるのと同じ』だと」
「……言ったわねそんな事」
「俺にとっての一番の刺激は、お前と共にあることだ」
「もう……!!」
エイスの告白紛いの言葉に更に顔が熱くなる。
だが、お陰でさっきまであった不安やら後悔やらは完全に吹っ飛ばされてしまった。
「そろそろ行くか」
「……そうね」
私の気も知らずにエイスはバイクに跨る。その後ろに未だ顔の熱が取れない私も乗るとバイクの駆動音が鳴り始めた。
最後にもう一度王都の方を見る。
瓦礫の片付け、区画の整理、公的機関の再建等々、街の至る所で臣民達が各々の作業に勤しんでいる。
更に王都に続く街道には周辺の領地から送られてくる復興物資を積んだ馬車の行列が長々と並んでいた。
「国王は随分慕われているんだな」
「まあね。私が言うのもなんだけど」
あんなのでも父様は一国の国王で、『民あっての国』を本気で行なうような人だ。
不作であった領地からは税を免除し、騎士団を各領地に常駐させたりするなど国民を守ろうと様々な施策を行っている。おかげで領民は飢えることも無く、治安も維持され魔物からの被害も大幅に減った。
そんな王の危機を知った国内の領主達が『今こそ恩義を返すとき』と言ってこぞって物資と人員を派遣してきたのだという。
未だ復興は市壁内に留まっており、壁の外には一切手が回っていない。だが、これだけの物資と人員があれば王都の復興もそう遠くはないだろう。
戦いの跡は大きく、深い。だが、あの出来事から徐々に人々は立ち直りつつあった。
もう心配はいらないだろう。
「行こう」
エイスにそう言う。
ブォン、と駆動音を響かせると私達を乗せたバイクは王都に背を向け走り出した。
「これからどうする。どこか行きたい所はあるのか」
「そうねー。西、北、東ときたから次は南に行ってみない?確か、南の国には『冒険者』って言うヤツがあるんだって」
「なんだそれは」
「私も本で読んだくらいだから詳しいことはわからないんだけど、人から色んな依頼を受けて、その依頼を達成した時に貰えるの。そうやってお金を稼ぐ職業だったはず」
「……それは傭兵とどう違うんだ」
「んーまあ、行ってみればわかるわよ!」
彼の身体に手を回すとバイクは進路を南に変え、少し速度を上げる。
密着した事で心臓は更に強く早く鼓動を鳴らす。だが、今はそれさえもどこか心地良く感じた。
私は昔から物語に出てくる魔王にさらわれるお姫様に憧れていた。
だってそのお姫様はステキな王子様や騎士に助けられ色んな冒険を繰り広げ、最後は幸せになる。
そんな出会いをしたいと思っていた。
でも私を助けに来たのは、イケメンだけど王子様じゃなくて、強いけど騎士じゃなくて、異世界から来たけど無双の力を持っていない。
不器用で恋に不慣れだけど、自分の想いに真っ直ぐな黒いバイクに乗った傭兵様だった。
走り出して暫くすると、ふと思い出したようにエイスが問いかけてきた。
「そういえばお前、祭りで買った小説読んだのか」
「あ…………読んでない」
第一部 完
ここまで読んで頂いてありがとうございます。これにて一応完結です。
ここまでのお話を第一部とし、その後の話である第二部を現在構想中です。
更新がいつになるかわかりませんが、良かったら読んでいただけると幸いです。




