003 スクイール、売店の品物を食べる。
「わっ!!?わぁ〜っ!!」
現れた民宿の建物を見てリスの尻尾を持つ少女スクイールが肩の上で歓声を上げている。
「こういう建物。初めて見たぁ〜」
現れたのは昭和に建てられた古い民宿の建物、屋根には瓦があり柿渋で黒く防水処理をした板壁の古めかしいものだ。漆喰の部分もあり、間近で映さなければテレビ時代劇の背景としても十分に使えるくらいだ。実際にかつて…昭和の時代には年末だか年始に放送されていた大型時代劇に背景の建物として使われた事があるらしい、祖母がそんな思い出話をしていた事を思い出す。
「ねえっ!ねえねえ!」
シャツの胸元あたりからボルダリングのように肩まで登ってきたスクイールが好奇心を抑えきれないといった感じで呼びかけてくる。
「お店が見たい!お店が見たい!」
「ん?あ、ああ…」
スクイールが見せて見せてとせがむ、俺も俺で召喚後に民宿わたらいがどうなっているかを確認したいとも思った。そのまま建物へと向かう。
「おおっ!!おおう〜っ!!」
両開きのガラス戸を開けて中に入れば中はやはり見慣れた室内。入って正面から左手にかけては宿泊スペースに入っていく為の玄関スペース、そして右側には六畳間程度のスペースがある。そこにいくつかの陳列棚を配し品物を並べている。奥にはガラス張りの冷蔵棚、そして冷凍庫もある。
「すごい、すごーい!!」
ぴょんっ!!
スクイールは俺の肩からコンクリート張りの床に飛び降りる、そしてすぐに棚の支柱を登り棒の要領で器用によじ登って陳列されている品物を眺める。
「あっ!あっ!白い木の実があるぅ〜」
支柱にしがみついた状態でスクイールの視線が並んでいるピーナッツを見つけナッツだ、木の実だと騒いでいる。
「それは木の実じゃないぞ、畑で取れるんだ」
「え〜?木じゃないのぉ〜?」
「ああ、畑で取れるピーナッツって言うんだ。豆に近いのかもな」
ピーナッツは落花生と言ったりするが南京豆と言ったりするもんな、特にこのあたりの年配の人ほどそう言ってたりもする。そんな事を考えているとよく動き、よく喋るスクイールが黙り込んだままジーッとピーナッツの袋を凝視している。
「どうした?ピーナッツが気になるのか?」
「う、うん…」
俺が尋ねるとスクイールはモジモジしながら応じた。
「ナッツの木が折れちゃったから今年は木の実が少なくなっちゃって…、それで一日ひと粒で我慢しなきゃならないから…」
森のあちこちでさっきの猪とゴリラが暴れる。その結婚、ナッツの木が折れてスクイールは食糧に困るようになった。さっきは彼女の頭部とナッツが同じくらいのナッツが同じくらいだったから一日ひと粒でも大丈夫だと思ったがどうやら本来は足りないらしい。
「なあ…」
「なぁに?」
スクイールが顔をこちらに向けた、見上げるような体勢。表情がコロコロ変わる彼女だが今はどこか頼りなく、そして寂しそうに思えた。
「さっき、袋を開けたピーナッツならあるから少し食べてみるか?」
「えっ!?いいの?」
「ああ」
「わあああっ!」
スクイールは商品棚の支柱から飛び降りると床を走ってくる。俺の靴から足を伝って上半身、そして肩に登ってきた。
「食べたい!食べたい!」
俺はスクイールを肩に乗せたまま受付に向かう。受付といってもホテルのカウンターのような立派なものじゃない、宿泊客に宿帳を書いたり誰もいない時は俺が座って茶を飲んでいるような机である。
その机の天板の上には色々な物が置いてある、その中のひとつにお茶うけを入れているお盆があった。洗濯バサミで口を閉じたピーナッツの袋を開けて小さな皿に何粒か出してやった。
「ほれ、食べな」
「う、うん!!」
手を皿の近くに伸ばしてやるとスクイールは肩から腕を伝って小皿の近くに降り立った、そのままピーナッツを両手に持つと前歯を使って噛みついた。
カリッ!!
「…ッ!!?」
気持ちの良いピーナッツを噛み砕く音、そしてスクイールの動きが一時停止ボタンを押した時のようにピタリと止まった。
「お、おい、どうした?」
体に悪い成分でも入っていたのか心配になり俺は声をかけた、するとスクイールは油が切れかかったカラクリ人形のようにぎこちなくこちらを向いた。
「あ、味が付いてる…、おいしいっ!!」
そう一声叫ぶとスクイールはものすごい勢いで食べ始めた。
カリカリカリカリカリッ!!
両手で持って一心不乱、スクイールはピーナッツを噛み続ける。ピーナッツが粉砕機に吸い込まれていく木材のようにスクイールの口の中に消えていく。食い溜めができるタイプなのかその食欲は止まらない、あっと言う間に平らげてしまった。
「おいしかったぁ〜!!」
スクイールは机の上にお尻をつけて座り大きく膨れたお腹を撫でている。満面の笑み、幸せを噛み締めている。
「美味かったか?」
「うんっ!うんっ!!」
そう尋ねるとスクイールはパッと立ち上がり大きな声で言った。
「ねえねえっ!!人間さん、里に来て!あたしと一緒に来てお店屋さんになってよ!みんなお腹を空かせてるんだ!」




