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1-6. 2つのしもべ

 身体強化を覚えてから配達時は常時使ってみた。

 ヒューダマインからフルアーマーの話を聞いた時、パワーアシストみたいだと思った。

 魔力で筋力の動きを補完。

 確かにバリアで体を動かすとパワー、スピードが増すが、体が一瞬遅れているみたいで違和感がある。サイズの大きい靴を履いて走っているみたいな感覚だ。


 しかも疲れないし乳酸がたまらないので長く走れる。

 あまり速く走ると約束の時間より早くなってしまうので今は調整してる。


 夕方の配達を終えられるようになったので1つ仕事を増やした。

 冒険者ギルドに併設されている酒場でのホールだ。

 この世界では仕入れが安定しないので毎日同じものは作れない。酒以外は毎日できるのを5、6種類用意している。

 そして支払いはキャッシュオン方式。テーブルには小銭が積んであって注文の品とお金を交換。


 だが客は荒っぽい冒険者、酒が入れば「注文してねえぞ」とか「値段が違う」「金を誤魔化した」とか言い出すのも多い。

 飯はここで食べていたのでそんなトラブルを見ていた。


 改善策を持って雇ってもらう交渉をした。

 ただし冒険者ギルドを通していない、金を受け取っていないからだ。報酬は飯、食の向上が今回の目的。朝と夜、賄いが食えた。


 改善方法は木札を作ったこと。

 メニューは大きな黒板に書かれている。これに番号をつけた。

 同じ番号のついた木札を持って各テーブルにいって、注文時に選んでもらう。

 支払いは全部鉄貨。木札にマークがありその高さの鉄貨と交換すればいい。全部客の前で行う。

 俺は話せないので厨房への連絡も木札を使った。注文用の木札とセットになっていれば間違えようがない。


 客が嫌がったがミスが減った。店長の一声でこの仕組みに統一された。

 ぐだぐだ言う客もいたが、オーガ潰しの二つ名を持っていた店長が黙らせていた。


 日々の会計もどんぶり勘定だったので、腹式簿記を教えたが覚えようとしない。なので諦めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 冒険者ギルドに鉄貨を渡し数えてもらう。

「確かに。これでオリの借金なくなりました」

 26日もかかってしまった。

「何で駆け出しが金もってんだよ」ダロンに意外なことを言われた。


「普通駆け出しの9級以下なんで、借金してて当たり前。7級になってやっと返し終わるのが普通」とカリナさんが補足。

「オリは武器まで最安値コースだものね」

 俺のメイン武器は槍で、穂先は角飛び(グッカーラ)のツノ。サブに中古のナタ、先が折れていたのを研いで使っている。


「冒険者は武器に金をかける、それこそ借金してもな」ダロンは不思議そうに俺をみる。

 俺街出ないし、それほど危険はない。

「自分の武器を自作する10級初めて見た」

「もう少し先に行くとそこそこいますよね」

「必要とする質の売値と自分の収入が合わなくなるからな。お前は気をつけろよ」


「副マス。忠告なら最後までしてください。オリが不思議そうにしてますよ」

「あぁそうか、よく聞け。仕事を選んでいると収入が足りなくなることがある。色んなこと出来るようになっとけ、討伐ばっかりしてる連中がハマる罠だな」

「もう一段いい武器になると消耗が減るから収支が逆転する。それがだいたい6級だ」

 なるほど。


 宿を変えた。

 最低限の安宿、本当に寝るだけのスペースしかないが完全個室だ。

 一泊鉄貨2枚、前払い8枚で5日泊まれる。

 ここでは週が5日単位、4日働いて1日休む。こちらの言い方で片手(トボロ)

 曜日は親指の第1指曜日から小指の第5指曜日と数える。

 休む曜日は決まっていない自分で決める。俺は一応商業、冒険者双方のギルドに伝えてある。


 毛布だけある自分の部屋にボトリスとシュリーゲンを呼び寄せる。

「ここが新しい拠点だ」と2匹に宣言。

 2匹も嬉しいと返してくる。


 ボトリスは相変わらず昼間は俺と離れて言語学習をしている。語彙はかなり溜まっている。

 まだカタコトレベルだがだいぶ良くなったはずだ。それでも聞き取ってもらえない。

 聞く分には何故か相手の言っているのを理解できている。多分魔法が絡んでいると思うのだが想像できない。


 シュリーゲンも俺の周りをうろうろして危険を前もって避けている。

 ただこいつは、冒険者ギルドで従魔登録したほうがいい。街の中でちょくちょく目撃されている、いずれ騒ぎになるかもしれない。


 寝る前にクリーニングするか。

 身体強化を発動させているので汚れを落とす。

「あ~風呂入りて〜」

 元日本人としての切実な願望だ。

 探したがこの街に風呂はない。

 魔力で清潔さと健康が保たれているなら要らないのかもしれない。そう気づいた時は絶望した。


 そういえばギルドの魔物使い、自分の従魔に対しても身体強化できるって言ってたな。

 もしかしてこいつらにも出来るんじゃないか。

 そう思ったら今すぐ試したくなった。

「ボトリス俺を包め」そう言うと俺を薄く覆う。顔は出してくれた。


 イザ。


 魔力をボトリスに流した瞬間、例の声が聞こえた。


 *パス強制接続。レベル3でのリンクを開始*


 突然、意識と知識が頭に強制的に濁流となって流れ込んでくる。声も上げれず気も失えない。

 打ち上げられた魚のようにピクピクとしているだけ。

 この意識と記憶がボトリスのものだと気づけたころには少し落ち着いていた。

 意識を取り戻せたので魔力の流れを切った。


 * リンク解除 *


 俺は仰向けに倒れて、ボトリスはベッタリ平に伸びている。

 小一時間ハアハア息をした後、頭がはっきりしてきたので今起きた事を整理。


 いま俺たちは完全に1つになった。記憶や自我さえ混じり合っていた。

 ボトリスの感覚機関の入力をダイレクトに感じた。

 それが今まで持っていなかった感覚なので混乱が大きかったのだ。


 記憶を見れて理解できたことも多い。

 ただ残念ながら一番知りたかった、俺が誰なのかとボトリスが何なのか、そしてどうしてあそこに居たのかはわからなかった。


 シュリーゲンが仰向けになった俺の上に乗ってきた。

 言わないが期待している。

 死にはしないだろう。知りたいという欲求もあったし覚悟を決めた。


 気合いを入れて

 *パス強制接続。レベル3でのリンクを開始*


 キツイが、2回目な分余裕がある。

 シュリーゲンの視覚が人に似ていたのも幸運だったかも。

 十分同化してリンクを切る。

 やっぱり俺の知りたかった事はわからないままだ。


 分かったことといえば2匹の能力。


 ボトリスは分裂合体、変形。今でも隙間を通り抜けるために形が大きく変わっている。


 シュリーゲンは火炎と凍結そして魔眼。

 いま開いてない6つの目にはそれぞれ別の能力が割り当てられる。何の魔眼になるかは目が開くまでわからない。


 そしてこれらの能力は俺のレベルアップで解放・進化する。

 レベル有るんじゃないか、これだと見えないだけで絶対経験値もあるよな。


 この世界の攻略方法を考えるのも楽しそうだ。それにレベルが有るんなら上げたほうがいい。

 その方が自由に生きるのに無理を通しやすいはずだ。


 そしてもう1ついい事が有った。

 ボトリスは異常に記憶がいい。一度覚えたら忘れない。

 ひたすら蓄えた言語知識が、融合した俺のものにもなった。

 そのボトリスと同化したおかげで、一気に語彙が増えた。発音がカタコトでなくなった。


 翌日「俺が何を言っているかわかります」とヒューダマインに試す。

「え、何だって」

 ダメか。

「話せるようになったと思うんですが、何がダメなんでしょうね」


「もっと話してみろ」

 理解しているみたいだ。

「今までもカタコトで話してはいたんですが誰も聞き取れなくて、でも俺ちゃんと発音してますよね」

 難しい顔をされる。


「ん~、音は合ってるが、何で魔力が乗ってない。オリは魔力も持ってるし制御も出来るのは身体強化で確認済みだしな。それに今は俺に真剣に話しかけている。それで何でだ」

 不思議そうに俺を見る。

「言葉って相手に伝えようと思って話すだろう、そう思ってれば自然と魔力が声に乗るだろう」

 言葉にも魔力かよ。


 相手に伝えるつもりで話すから魔力で補完されている。俺が言葉を知らなくてもみんなが何を言っていたのかが理解できていた理由がこれだ。

 そうか、また魔力か。


「何で音だけ真似ようと思った」

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