雨音を連れて舟へ戻った俺
雨音を連れて舟へ戻った俺は、望遠鏡の要となるレンズの製作に取り掛かっていた。
テーブルに型となる椀や、レンズの材料となるゲルを準備する。
まずは対物レンズとなる両凸レンズだ。
これは要するに虫眼鏡であり、昨年の工程を繰り返せばよい。
型となる椀の底に少量のゲルを入れ、電子レンジで加熱して、片方だけが丸みを帯びて膨らんだ平凸レンズを作る。
昨年と同じようにレンズの縁に不均衡が生じたりもしたが、いくつか作るうちに左右上下が均等な直径五センチほどの平凸レンズができていた。
昨年より明らかに手際よく、うまくなっていると思う。
平凸レンズがいくつか完成したので、次に椀にゲルを入れ、その上に完成した平凸レンズを静かに乗せ、電子レンジで加熱し、二つを合わせて両凸レンズに加工する。
端や中心の膨らみがずれるなど失敗を繰り返したが、最終的には納得のいく左右対称の両凸レンズを三つ作り上げた。
その中から最良のものを一つ選ぶ。
ひと息つきたくなり、冷蔵庫から冷やした麦茶を取り出し、物語が彫刻された長椅子に腰かける。
飲みながらレンズを手に取り眺めると、その出来栄えに一人、満足していた。
完成した望遠鏡を想像して、そこから紡がれる物語に胸が膨らむ。
ひと休みを終えた俺は再びテーブルに向かい、今度は型として円形にくぼみをつけた立方体の材とゲルを手元に揃える。
望遠鏡の覗き口に据える小さな接眼レンズは、片面だけを膨らませた平凸レンズだ。
三面にそれぞれ一つずつ刻まれた直径一センチほどのくぼみは、深さがほんの少しずつ違っている。
そのくぼみに少量のゲルを流し込み、表面を整え、電子レンジで加熱して平凸レンズを作る。
俺は厚みの異なる薄いレンズを何枚も作り、その中から左右対称で形の美しいものを選び取った。
あとは、これらのレンズを収めるための筒を用意する。
両凸レンズと厚みの異なる平凸レンズを順番に組み合わせ、望遠鏡としてもっとも相性の良い組み合わせを選ぶ。
筒は視界を確保しつつ、焦点距離に合わせて長さを調整できるものにする。
俺は竹を利用し、竹筒二つを組み合わせて伸縮させる方法を考えていた。
明日は竹林に、レンズに合いそうな太さの竹を切りに行かなければならない。
ソファベッドに横たわると、両手にレンズを一枚ずつ持ち、重なるように明かりにかざす。
二枚のレンズ越しに向こうを 覗いてみるが、焦点は定まらず、ぼやけたままだった。
それでも、二枚のレンズの遥か彼方には、銀河を旅する俺がいる。
まだ何も見えないが、形にならない夢だけは、確かに心に膨らんでいく。
気づけば、俺は小さく口ずさんでいた。
♪そうさ君は 気づいてしまった
やすらぎよりも 素晴らしいものに
地平線に 消える瞳には
いつかまぶしい 男の光
雨音はここまでは届かず、深い眠りに沈んでいく。
いつの間にか想いを膨らませたまま、夢の中を巡っていた。
誰かが俺をこの世界の旅に連れ出している。




