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3 魔法学院

魔法については魔術の先生に魔力制御を徹底的に教えて貰った。

魔力量が莫大なので普通に発動すると威力が大きすぎるらしい。

1年後、初めて使えるようになった役立つ魔法は風魔法で埃を集めて窓の外に捨てる掃除魔法。

魔力制御に失敗すると厩舎を壊してしまうので先生の許可が出るまでに1年掛かった。

掃除魔法で綺麗になった馬房を見て、魔法が使えるようになって良かったと心から思った。

残念なことに重い馬糞は相変わらず手作業で集めるしかなかった。

厩舎で役立つ魔法と言う事で土魔法の先生も来てくれるようになった。

馬場を平らにする土魔法を教えて貰った。

広い馬場の殆どは馬に器具を引かせ平らにするが、深く抉れたところは手作業。

魔法を使えば簡単に抉れたところが平らになる。

役立つ魔法なので習うのがめっちゃ楽しい。


受験が近づいた。

入学試験には魔法実技がある。

魔法の先生方の判断で、試験は土魔法のストーンバレットで受ける事になった。

小さくて弱いウィンドカッターを撃つのは魔力制御が難しい。

小さくすると逆に威力が上がって魔法学院の訓練場だと的の後ろの壁を壊しかねない、というのが理由らしい。

ストーンバレットは凝縮すれば小さくしやすい。

「ストーンバレット。」

小石が林に飛んで行く。

バスッ。

木にめり込んだ。

無詠唱では悪目立ちすると言う事で、短詠唱に見えるよう魔法名を叫ぶ練習もしている。

最初はタイミングが合わなくて、魔法名を言う前に撃ってしまったりと苦労した。

軌道が少し山なり。

小石に回転を付ける。

少しマシ。

小石を丸から砲弾型に変える。

真っ直ぐに飛ぶのでコントロールが良くなった。

受験では5発撃って2発以上当てれば良いと聞いたので頑張って練習した。

朝早く起きてクロの世話、朝食を済ませてお屋敷で受験勉強。

夕方に厩舎へ戻ってクロの世話、寝る前に魔力コントロールの練習。

目の回るような忙しい1年ちょっとだったが、前世の受験勉強に比べれば睡眠時間が十分に取れるのだから遥かに楽。

「暫くお別れだけど、夏休みには帰って来るから元気にしていてね。」

“マヤも達者でな”

「絶対に40位以内で合格するからね。」

“楽しみにしているぞ”

歯茎を出して笑うクロに別れを告げ、侯爵様たちと一緒に王都へと旅立った。



前世では幼稚園のお受験に始まって小・中・高・大、そして大学院、幾多の国家試験。

いつか自分の生き方を見つけた時にやっておけば良かったと後悔しない為に色々な資格を取った。

結局俺の人生は受験で終わった。

何もやりたいことが見つからないまま交通事故で死んだ。

受験勉強はとうとう何の役にも立たなかった。

今回は違う。

目に見える成果がある受験勉強、40位以内ならクロが貰える。

俺は馬丁になってこれがずっと探して来た生きる道だと実感した。

前世で学んだことは全く役立たないが、馬の為に生きる、これぞ人生。

馬丁は天職だと確信した。

めっちゃ頑張りました。


「お前なあ~。」

アタゴ様にジト目で睨まれた。

やらかしてしまいました。

入試成績は首席の第2王子と18点差。

18点差で俺がトップ。


合格発表の時に学院長室に呼ばれた。

「新入生代表挨拶の関係で入試の主席は最高点の高位貴族と決まっている。申し訳ないが、次席と言う事で納得してもらいたい。」

新入生代表挨拶なんて口下手な俺には絶対無理。

即答で了承した。

偏差値も判らないし、過去問もいい加減。

確実に40位以内に入れるようにと頑張ったのが失敗だった。


アタゴ様は俺と43点差の第5位。

もう一人の従者であるタカオは86位。

「俺は5歳から勉強してきた。マヤは1年ちょい、少しは遠慮しろ。」

無茶を言われる。俺は何とか40位以内に入りたくて頑張っただけ。

この世界に転生して初めて前世の技術が役に立った。

まあ受験のテクニックという人生ではまるで役立たない技術だけど。


従者が主人より目立つのは論外。

ましてや王子殿下よりも目立ったら目も当てられない。

「次からは気を付けます。」

素直に謝った。

俺としても目立つのはまずい。

学院在学中は貴族と平民は平等と言うことになっているが、それは建前。

貴族と平民とでは寮にせよ食堂にせよ明白な違いがある。

平民が目立てば貴族の子弟達から嫌がらせされるとタカオが言っていた。

とにかく目立たないようにしようと肝に銘じた。


「アタゴ様の従者をしているマヤです。父はペガス侯爵家の馬丁で俺も馬丁をしています。将来は父の跡をついで立派な馬丁になりたいと思っています。」

「馬丁?」

「魔法学院を出て馬丁になるのか?」

「バカか?」

「いや魔法の試験で後ろの壁まで貫通させた奴だぞ。」

「そうなのか?」

「5発全てが的の中心だけを撃ち抜いて、後ろの壁を貫通した。的は微動だにしなかった。」

「嘘だろ、馬丁志望だぞ。」

「どんな馬丁だよ。」

本人は小声のつもりかもしれないが、広い屋敷に住んでいる貴族は総じて声が大きい。

俺には丸聞こえだった。

生徒だけでなく担任の教師もポカンと口を開いたまま。

将来の目標を馬丁と言った生徒は魔法学院では初めてらしい。

それがどうした。

大切なのは役立つ魔法を学ぶ事、俺は意欲満々だった。

俺にとって幸いだったのはアタゴ様の従者なので、座学も実習も食事もアタゴ様と一緒。

嫌がらせをされる機会も無かった。



アタゴ様の従者なので、部屋はアタゴ様の部屋に繋がっている従者部屋。

一緒に受験勉強してきたタカオと同室だ。

もっともタカオは子爵家の3男で騎士の家柄。

俺とは生まれも育ちも全く違う。

剣は凄いが、掃除も洗濯も手伝いも苦手。

アタゴ様の世話は必然的に俺の仕事になった。

「マヤ、いつものをやってくれ。」

「クリーン!」

アタゴ様の体が薄っすらと光る。

「ああ、さっぱりした。お休み。」

「お休みなさい。」

アタゴ様は寝る前にいつも俺に“クリーン”を掛けさせる。

受験勉強の時に教えて貰った馬房掃除用“クリーン”の改良版。

図書室の本を参考に俺が開発した体の汚れ落とし専用魔法。

まるで暖かいお湯で体を洗ったように綺麗になる。

部屋の掃除も“ルームクリーン”であっという間。

洗濯は“クロスクリーン”


従者は待ち時間が多い。空いた時間には厩舎で使えそうな魔法を色々と開発している。

今開発途上なのは、調教用の馬場を柔らかい均一な土にする土魔法。

馬の水桶に水を入れる水魔法。

馬房の馬糞を集めたり飼葉を飼葉桶に入れる転送魔法。

刈り取った飼料を運ぶための亜空間倉庫。

馬の怪我を治す回復魔法。

勿論授業はしっかり聞いているし、課題もこなしている。

まだまだ精度は低いし、従者部屋ではあまり実験が出来ないので開発途上だが、卒業までには出来るだけ沢山の魔法を実用化したいと思っている。


“クリーン”のようにアタゴ様やタカオにばれてしまったものもあるけど、魔法実習の先生から俺の魔法は本流から外れているので出来るだけ秘密にしておけ言われた。

勿論魔法学院で教えて貰った魔法も沢山ある。

剣術実習で教えて貰った身体強化は凄く役に立っている。

身体強化による俊足と空間魔法を組み合わせた縮地はまだ研究段階。

魔法実習で教えて貰った探査魔法も面白い。

今は素材や魔力、追跡などのバリエーションを考慮中。

授業で選択した防御魔法も従者としてアタゴ様を守るには最適。

バリアの強化と展開速度の迅速化を練習中。

色々と楽しみが盛り沢山だ。

「全くいつ休んでいるんだ?」

タカオに呆れられたけど、受験勉強と厩舎の仕事を掛け持ちしていた時よりは楽なので問題無い。



冬休みになった。

年末年始は社交シーズンなので寮を出て王都の侯爵屋敷に詰めている。

社交シーズンとはいえ、3男であるアタゴ様の出番は殆ど無い。

俺はこれ幸いと侯爵家の蔵書庫に入りびたり。

ペガス家は魔法系の家柄だけあって魔法関係の蔵書が山盛りある。

課題解決に役立ちそうな記述を抜き出してノートを作っていく。

王都では魔法を試すのは難しい。夏休みに領地に帰ったら色々と実験するつもりなのでそのための参考ノートを作った。


冬休みが終わると、前期試験。

「マヤ、手抜きはするなよ。」

王子殿下から釘を刺された。

「馬丁ですから目立つのはまずいです。」

正直に言う。

貴族の子弟が殆どの中で大商人の子弟ですら学院では肩身の狭い思いをしている。

成績を抜きにしても馬丁である俺への風当りは強い。

アタゴ様の従者なので殆どの時間はアタゴ様と共にいる。

さすがに侯爵家であるアタゴ様の前で嫌味を言う者はいないが、たまたま一人になると絡んで来る輩もいる。

なるべく目立たぬようにはしているが、今は我慢の一手だ。

「学院では貴族も平民も平等だ。遠慮する必要は無い。」

建前はそうだけどね。王子殿下は実際の所が判っていないらしい。

「従者の職務に差しさわりが出ては侯爵様に申し訳が立ちません。」

「マヤはこういう奴だから。」

アタゴ様が助け舟を出してくれた。

「優秀な成績で卒業すれば貴族になれるかも知れないぞ。」

「馬丁の仕事が好きですから。」

「馬丁ではせっかく学んだ魔法を生かす事も出来まい。」

「馬の世話や馬場の整備、乾草の製作、色々と役に立ちます。」

「はぁ。」

殿下がため息をつく。

「マヤは人間よりも馬が好きですから。」

「全く欲の無い男だな。」

「欲はあります。」

「どんな欲だ?」

「もっと馬と仲良くなりたい、馬が楽しく生活できるようにしたい、怪我で解体される事が無いようにしたい。色々とあります。」

「だそうです。」

「はぁ。まあマヤだからな。」

「はい、マヤですから。」

殿下とアタゴ様は仲が良い。

前期末試験の結果は16位。うん、上出来だ。

上位40名が1組だが、従者の場合は順位に関係なく主人と同じ組になれる。

順位はどうでも良かった。

タカオは62位だったが学年末で留年しない限りアタゴ様と同じ組に入れる。



短い春休みが終わり、後期の授業が始まった。

春休み、俺はめっちゃ頑張った。

なんとか使える程度まで仕上がったのは隠蔽魔法。

気配を薄め、注意して見なければ気付かれない程度の存在感になる魔法。

完全に気配を消す方が簡単だが、それでは不審者と疑われかねない。

効果の微妙な調節に春休み中掛かってしまった。

今日もいつも通りに教室の最後列でアタゴ様の横に座っている。

アタゴ様の向こう側は王子殿下。

俺とタカオは学院生なので机があるが、殿下の護衛達は後ろの壁際に立っている。

隠蔽魔法のおかげで授業中に教師と目が合うことが無くなった。

当然指名されることも無い。

良きかな、良きかな。


殿下に絡まれることも無くなったかと思ったが。

「マヤ、それは魔法か?」

バレたらしい。

「ちょっとだけ気配を薄めてみました。」

「気配を薄めたら良い事があるのか?」

「貴族に絡まれなくなりました。」

「・・・、マヤは魔法の使い方を間違っていないか?」

「日常生活で役に立ってこその魔法です。日常生活で何の役にも立たない攻撃魔法には興味がありません。」

「うん、一理ある。馬丁は戦わないからな。」

アタゴ様は納得顔、殿下は微妙?

攻撃魔法こそ魔法の神髄と思っているらしい。

攻撃魔法を使わずに一生を過ごせた方が幸せだと俺は思っている。


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