4 キンちゃん
嬉しかったのは後期から乗馬実習が始まった事。
アタゴ様が俺に気を遣って馬と触れ合う時間を作ってくれている。
馬達のリーダーはハヤテ。
久しぶりに馬と会話が出来て嬉しかった。
ハヤテが歯茎を出して笑いながら馬丁や厩舎の馬達の事を話してくれる。
俺も自分の事や公爵領の馬達の事を話した。
念話なので傍目には俺が馬を撫ぜているだけのように見えるが、ほんの数回で馬達の特徴を覚えてしまった。
“向こうにいる牝馬の具合が悪いんだ。”
“どんな具合?”
“糞が出ない”
どうやら便秘らしい。
俺は牝馬の腹を触りながら精密探査で腹の中を探ってみる。
“大丈夫。糞が詰まっているだけだから、すぐに治るよ”
声を掛けながら腕を捲り、肛門に腕を突っ込んだ。
“堅い所をほじるから少し我慢をしてね”
指先で硬い糞をほじり掻き出してやる。
ブバッ!
大きな音と共に馬の尻から一気に糞が噴出した。
先端の固まった糞が取れたので、腹に溜まっていた大量の糞が一気に噴き出したのだ。
俺は頭から大量の糞を被ってドロドロの糞まみれ。
「ガハハハハ!」
「バカか。」
「馬丁だけあって糞まみれが似合うな。」
周りから大笑いされた。
“もう大丈夫だよ。運動を増やせば詰まり難くなるからね”
馬を安心させてやる。
大勢の前で“クリーン”を使いたくなかったので厩舎の井戸に行って水浴びをした。
馬場に戻るとハヤテと牝馬が近づいてくる。
“どう? お腹は大丈夫”
“ありがとう、元気になった。糞を掛けてごめんね”
嬉しい感情も伝わって来る。大丈夫になったらしい。
“何度も掛けられたことがあるから気にしないでいいよ”
“そうなの?”
“馬丁だからな。調子の悪い馬がいたら俺に言ってね”
“うん”
“感謝するぞ。皆にも言っておく、これからもよろしく頼む”
“こちらこそよろしくね”
2頭の鼻面を撫ぜながら会話を交わした。
「凄くなついているな。」
殿下が声を掛けてくる。
「馬丁だからね。」
「馬術も得意なのか?」
「調教で乗っているからそこそこ? 父さんには全然敵わないけどね。」
「剣と魔法が使えて馬にも乗れる、何で騎士にならないんだ?」
「馬を戦場に出したくない。怪我をしたら可哀そう。」
「・・・・。」
殿下が呆れている。
「まあマヤだからな。」
アタゴ様がフォローしてくれた。
アタゴ様は良馬の産地である侯爵領の生まれなので馬術実習の後の馬の手入れも時間をかけてきちんとする。
タカオも騎士の家柄なので馬の手入れは丁寧。
お陰で馬術実習の度に楽しい時間を過ごせた。
学年末試験が終わると待ちに待った夏休み。
無事に進級出来た3人は侯爵様と一緒に領地に帰った。
“クロ~、元気にしてた?”
“勿論、マヤも元気そうだな”
“うん”
今日からは厩舎の仕事。
時間はたっぷりあるのでクロと学園生活や学園の馬達について話した。
クロと旧交を温めると、さっそく馬場に出て土魔法の実験。
馬場の中央は器具を馬に牽かせて均すが、柵の近くは手作業で均す。
柵ギリギリを走る事もあるので堅い所と柔らかい所があると馬が骨折してしまう。
競馬場並みの広さがあるので内側と外側の柵沿いだけでもかなりの重労働。
俺は夕方になると、土魔法を使って柵沿いに歩きながら均していく。
馬に牽かせた所と同じ柔らかさにしておかないと危ないので加減が難しい。
「魔法と言うのは便利なものだな。」
父さんに感心された。
「うん、魔法学校に行って良かった。」
まだまだ歩く速さでしか出来ないが、夏休みの終わりころには走りながらでも均せるようになろうと頑張っている。
乾草は魔法の絨毯で運ぶ。
亜空間倉庫を作ったが、よく考えるとばれたら危険。
兵糧や武器の運搬で戦争に駆り出されることが目に見えている。
代わりに作ったのが重力魔法の魔法陣を縫い込んだ大きな布。
魔力を通してやると地上から4~50㎝浮き上がる。
重力魔法なので魔力を送れば乗せている物の重さも無くなる。
山と積まれた乾草を小指1本で軽々と運んだ。
魔力消費量が大きいので魔法の先生でも無理だったけど魔力の多い俺は問題ない。
今年も馬神様の日がやって来た。
領主の侯爵様達と一緒に神殿に向かった。
領主様や父が祈りを捧げている間に俺は神殿の裏に行った。
山頂に向かって祈りを捧げる。
「お陰様で魔法学院に入学出来ました。学院生活は本当に楽しいです、ありがとうございました。」
“心から楽しんでおるようじゃの”
頭の中に言葉が飛び込んで来た。
見上げると前回と同じ木の枝にお狐様が座っている。
“はい、学ぶのも楽しいですし、馬も沢山います”
“そうかそうか”
学院生活をお狐様にお話しした。
お狐様も嬉しそうに聞いてくれた。
“そろそろ時間じゃ。もっとゆっくり話がしたかったのう。また会おう”
お狐様は俺が見ている前で姿が薄くなり、消えた。
お狐様も喜んでくれたようなので俺も嬉しくなった。
帰りの馬車では終始ニコニコしていたので父に気持ち悪いと怒られた。
夏休みが終わり、新年度。
面白いのは召喚術と錬金術。
召喚術はまだ基礎理論や魔法陣の描き方だけだが、色々な召喚獣の話が聴けて面白い。
錬金術は鉱石から金属を製錬する実習が面白い。
鍛冶師は鉱石を高熱で焼いて金属を取り出すが、それを魔法で行うのだ。
属性や魔力の問題があるので習うのは基礎理論と錬金術師による実演。
たまたま俺の属性との相性が良かったようで、教師に教えて貰いながらだが鉱石からほんの少しだけ鉄を取り出すことが出来た。
珍しい事らしく、教師が喜んで大きな鉱石を練習用にくれたので寝る前に鉱石と睨めっこするのが俺の日課。
年が明けると前期末試験。
召喚術は前期で終わりなので試験は召喚実習。
危険な魔獣を召喚する場合もあるので補助教員が3名立ち会っている。
俺のクラスは40名。1年時の成績が上位の者から召喚実習を始めた。
俺は16番目。
相性があるのか成功したのは4人だけ。王子殿下もアタゴ様も失敗した。
いよいよ俺の番。
あらかじめ描いておいた魔法陣の紙を部屋の中央に広げる。
“我の願いを叶えたまえ”
心を込めて魔力を送り込んだ。
魔法陣が金色に輝く。
「「「おおう!」」」
周囲から歓声が上がる。
眩い光が収まった魔法陣の中央には、・・・・。
どゆこと?
お狐様が鎮座なされていた。
何故か尻尾は1本。
だが感じられる魔力はまさしくお狐様のもの。
「お狐様ですよね。」
「コン!」
鳴き声と同時に頭の中になじみのある声が届く。
“早く名をつけるのじゃ”
「えっと、金色だから、キン。」
“安直な名じゃな、まあ良い”
「コン!」
キンちゃんが魔法陣から出て来た。
「宜しくお願いします。」
「コン!」
“マヤの学院生活を見せて貰うのが楽しみじゃ”
どうやら先日話をしたので魔法学園に興味を持ったらしい。
”尻尾が少なくないですか?“
“自在に数を変えられる。いきなり九尾では皆が驚く”
“ごもっともでございます”
キンちゃんは軽々とジャンプして俺の肩に留まる。
流石は神獣様、全然重くない。
背中を撫ぜるとツルツルフワフワ、驚く程の手触り。
「ええと、狐のキンちゃんです。よろしくお願いします。」
皆にも紹介した。
「触ってもいいか?」
「まだ慣れていないので、もう少し慣れてからお願いします。」
触りたがるクラスメイトを何とか躱した。
キンちゃんが嫌がっていたから。
なんとなく気持ちが判るのは動物と一緒?
可愛いし綺麗だし、みんなに羨ましがられた。
召喚中は魔力を消費するが、俺の魔力量なら全く問題は無い。
キンちゃんが送還を嫌がったのでそのまま一緒に暮らすことにした。
学院の厩舎に行くと、馬達が一斉に後に下がっていく。
”大丈夫だよ、俺の召喚獣だから“
“神獣様を召喚したとはさすがはマヤだ”
“うん、俺に魔法を教えてくれた神獣様がみんなに会いたいって来てくれたんだ”
馬達が恐る恐る近づいてくる。
“我はキンちゃんなり。マヤと友になってくれた事、嬉しく思うぞ”
「「「ヒヒン!」」」
人間の言葉にすると、有り難き幸せ?
キンちゃんがハヤテの頭に飛び移る。
ハヤテは凄く喜んでいる。
他の馬達もキンちゃんに頭を差し出す。
キンちゃんが次から次へと飛び移っていく。
何の儀式?
みんな喜んでいるからいいか。
キンちゃんを頭に乗せた馬が猛スピードで走っている。
馬もキンちゃんも嬉しそう。
「俺の思っていた召喚獣とイメージが違うんだが。」
殿下がブツブツ言っている。
乗馬を楽しむ召喚獣は文献にも無いらしい。
「召喚獣は個体によって全然違うって先生が言っていたよ。」
「それはそうだが、・・・。」
殿下は納得していない様子だった。
キンちゃんは物知り。
俺に色々な事を教えてくれる。
金属の抽出もキンちゃんに教えて貰った方法なら今までよりずっと楽に製錬出来るようになった。
製錬した鉄を成形する方法や刃を立てる魔法も教えて貰った。
“これでナイフを作ってみろ”
キンちゃんが空中から取り出したのはミスリル鉱石。
キンちゃんは亜空間倉庫も持っていた。
製錬に1日、成形と刃立てで1日。二日でナイフが出来上がった。
ナイフの強度を上げる魔法と魔法を物質に付与する魔法も教えてくれた。
付与魔法が実際に使えるようになるには1か月ほど掛ったが、早い方だと褒められた。
キンちゃんといると楽しい。
ますます人間と話さなくなっていた。




