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第85話 戦いの前

 ショーイとサルヴァトールの決闘から三日後。


 魔法学校の中央広場に、多くの生徒が集まる。

 群衆の視線の先には、輝く黄金の特設決闘場が据え付けられ、まるで伝説の舞台のような重圧を放っていた。


 その壮大な闘技場の中心で、フェン・ニルヴァータとスクロース・サルヴァトール————二人の魔法使いが対峙する。

 互いの間には、これから繰り広げられる壮絶な戦いへの予感が電流のように走っていた。


「てっきり、怖気付いて逃げるのかと思ったぞ。のこのこと出てきおって、愚かな奴だ」


 会って早々、こちらを見下すように罵ってくるサルヴァトール。

 相手は生徒序列第三位。

 去年は『ロード・オブ・ウィザード』だった男だ。


 戦う前から、魔法使いとして圧倒的に格が違うということは最初から分かっていた。


 フェンの内面では、緊張と不安が渦を巻く。


 ついにこの日が来た。

 これまで準備してきたすべてを出し切れるだろうか。


 すると、サルヴァトールが三日前と同じ尊大な態度で、フェンに指を差す。


「貴様のような奴と戦っても、こちらには何のメリットもないのだ。感謝するのだな————少なくとも、先日の()()()()のようなつまらん結果にならないようにすることだな」


 サルヴァトールが、嘲笑混じりに挑発してくる。


 友人を貶す物言い。

 その偉そうで、礼儀も何もない態度に————フェンはむしろ安堵すら覚えた。


 その調子だ。

 あいつが僕をどれだけこちらを見下しているかで、この勝負は決まる————


 フェンの心のうちに、だんだんとやる気が芽生えてきた。


「————そうだな、これはチャンスだ」


 フェンは、薄く笑みを浮かべる。

 その様子に、サルヴァトールは眉を(ひそ)めていた。


「まさかとは思うが、僕が友達の仇討ちのためにここに来たと思ったのか?」


 静かに、しかし揺るぎない闘志を込めて言葉を紡ぐ。


「そんなんじゃねえ。僕が目指しているのはこの学校の頂点、『ロード・オブ・ウィザード』————お前はただの踏み台だ。」


 フェンの真正面からの宣戦布告に、会場はざわめきに包まれた。

 火花の散る両名に、観客達の興奮は加速する。


 そして、対戦相手のサルヴァトールの顔は、みるみると怒りに歪んでいった。


「身の程知らずが……二度と学校に来られないような体にしてやろう……!」


 互いの意志とプライドが、黄金の決闘場でぶつかり合う。


 サルヴァトールは明らかに怒りで沸騰していた。

 誰の目にもその感情は明白だった。


 一方、フェンは内心、計画が順調に進んでいることを確信する。

 緊張と不安はどこかに行き、自信に満ち溢れていた。


 絶対に倒す。

 ミーハーな観客達には悪いが、この試合は一方的なものになるだろう————



 *



 冷たい雨粒が、魔法学校の中央広場に静かに降り注ぎ始める。

 まるで今から始まる壮絶な決闘を予感するかのように、空気に緊張感を纏っていた。

 Aクラス同士の対決など滅多に見られない。

 学校中の生徒が高レベルの魔法戦を見ようと、広場に集まっている。


 サルヴァトールは、眉間に深い皺を寄せ、鋭い視線で目の前の相手を見据え続けていた。

 その瞳には、怒りと徹底的な侮蔑が浮かんでいた。


「ゴミ虫が……」


 低く吐き捨てるように言う。


「この私を差し置いて、『ロード・オブ・ウィザード』を目指すだと? 魔法使いの面汚しめ……私が負けるわけがないだろう……!」


 決闘だの何だの知ったことか。

 徹底的に潰して、二度とそのような減らず口が叩けないようにしてやる。


 冷たい目で相手を見下ろしながら、サルヴァトールは杖を構える。

 負ける要素など、何一つ存在しない。


 ただ少し、気になることがないでもなかった。

 今日の対戦相手————確かニルヴァータと言ったか————その格好が異質だ。


 学校のローブではない、鮮やかな緑色の雨合羽のような服装で、頭巾(ずきん)を目深に被って顔が見えにくくなっている。

 そして、手には傘を持っていた。


 雨が降り出しているからといって、傘を差しながら戦うつもりか?

 これから決闘をしようとしている格好ではない。


 なんだ、こいつは……?

 決闘する気があるのか……?


 そんな疑問が頭をよぎったが、すぐに気を取り直した。


「まあいい————そんな訳の分からない格好で来たことを後悔させてやる」


 怒りに満ちたサルヴァトールは、目の前の違和感を無視し、勝負に集中する。


 決闘の時間が刻一刻と近づき、空気が張り詰めていく。

 ついさっきまでざわついていた観客達も、段々と静寂に包まれていった。


 そして、校舎から審判の教師が現れ、両者の間に立つ。

 厳粛な面持ちで、決闘のルールを宣言した。


「魔法無制限、どちらかが戦闘不能になれば勝敗を決する」


 決闘者は、審判の説明を聞き、頷いて了承の意を示す。

 それが決闘に参加するという意思表示。


 審判はそれを確認すると、少し離れ、右手を天高く掲げた。


 一瞬の静寂。


 そして、力強く振り下ろされた右手————



「それでは、はじめ!」



 戦いの火蓋が切って落とされた。

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