鷹宮との出会い
柊の見せてくれた滝は素晴らしく、茉乃はしばらくの間何度もそれを思い出してはにやけていた。
「茉乃、顔が緩みっぱなし!あははは!」
楽しそうに笑う柊を見て、ちょっとむくれながらもやっぱり嬉しくて楽しくてまた顔が緩む。
そうして街の方に戻ってきた二人は、車をパーキングに駐めて少し歩いた。手を繋ぎながらいかにも恋人っぽく歩くことにドキドキしながら、柊の手の温もりを感じていた。
夕方になりだいぶ暗くなってくると、「実はいいお店を予約してるんだ」と言って柊が笑顔を向ける。茉乃がその言葉に「楽しみ!」と答えた瞬間、後ろから声がかかった。
「鈴村くん?」
振り返り、柊の顔が真顔になる。
「鷹宮・・・」
(え、この人があの、柊さんの・・・綺麗な人・・・)
鷹宮と呼ばれたその女性は、黒く長いサラサラの髪が美しい、スラっとした美人だった。女優さんですと言われてもおかしくないほどの美貌に、茉乃ですら見惚れてしまう。
「お久しぶり!元気にしてた?」
「ああ。」
鷹宮は柊に笑顔を向けて挨拶をした後、茉乃の方に目を向ける。
「初めまして、鷹宮と申します。もしかしてあなたが噂の藤堂さん、かしら?」
「は、初めまして!藤堂茉乃と申します!研究所には二、三カ月前からお世話になっています!」
「お会いできて嬉しいわ!うちの父も会いたがっていたの。よかったら今度遊びにきてね。」
優しい表情で茉乃に微笑みかけてくれる彼女は、本当に美しく、その笑顔に嘘はないように茉乃には感じられた。
「あ、はい。ありがとうございます。」
鷹宮はまた柊に目を向ける。
「来月からって話だったんだけど、事情があって少し早まったの。来週からお世話になります。よろしくお願いしますね。」
「ああ、所長から聞いてる。市村も一緒なんだって?」
「ええ。彼女は私のこと一番よく理解しているから、仕事がしやすいのよ。魔法術の構築に関して私が関わってきた仕事が役立ちそうだし、江口君も少しずつ成果を出してるみたいだから、早めに仕事に取り掛かれるのはありがたいわ。」
二人は茉乃にはわからない話を続けている。嫌な気分になるということはないが、ああ、やっぱり目の前の二人は違う世界の人達なんだと見せつけられているような気がした。
「そうか。・・・悪い、今デート中なんだ。仕事の話はもういいか?」
鷹宮は一瞬驚いたような表情を見せたが、その裏にある感情は全く見えなかった。
「そう、ごめんなさい、お邪魔しちゃったわね。じゃあ、来週からよろしくお願いします。藤堂さんもまた!」
「はい!よろしくお願いします。」
そうして鷹宮は颯爽とその場から去っていった。後ろ姿まで本当に美しい。見れば見るほど素敵な女性だと感じた茉乃は、少し落ち込んで俯き始めていた。
「茉乃!」
柊に頬を両手で挟まれる。これで三度目だ。
「むむむ」
「ププッ・・・ほら、顔を上げて!茉乃の考えていることは手に取るようにわかるよ!どうせあいつを見て自信がなくなったとか、そんなんでしょ?」
「むうう」
挟まれたままむくれた顔で柊を上目遣いに睨む。
「俺は茉乃がいいの。他の誰も、茉乃といる時みたいにドキドキはしない。幸せな気持ちになるのも、話をしたり触れたりするだけで嬉しくなるのも、君とだけなんだ。だから俺を信じて。」
茉乃はその言葉と柊の真っ直ぐな想いに心を打たれた。柊の手が離れる。
「柊さん。私どうしよう、もう柊さんと離れたくないよ。」
「茉乃!うん、そうだね。俺も。」
二人はもう一度しっかり手を握って、目的のレストランに向かって歩き出した。
すっかり暗くなってから、美味しい創作料理を楽しんだ二人はマンションに帰ってきた。三階の廊下は、また新たな花が植えられている。
「柊さん、今日は一日ありがとうございました。すごく、すごく楽しかったです!」
「うん。俺も!・・・ねえ、茉乃。昨日俺が言ったこと、覚えてる?」
茉乃は全く思い当たらず首を傾げる。
「家に帰ったら、二人で過ごそう、って言ったんだけど。」
「え?」
「あ!別にそういうあれじゃないよ!その、二人っきりで、一緒にうちのソファーで、喋ったりとか、ちょっとだけほらうん・・・」
最後の方の言葉は茉乃にはよく聞き取れなかったが、柊が顔を赤くするのを見て茉乃の顔も赤くなる。
「えっと、おしゃべりは、したいです。」
「う、うん。じゃあミルクティーを淹れるよ。」
「・・・はい!」
そうして二人は部屋に入り、約束通りミルクティーを淹れてくれた柊と一緒にソファーで寛いだ。あれから柊は少しずつ家具を揃え、ソファーだけだったリビングには小さなテーブルが置いてある。そこにカップを置き、柊は茉乃のカップもそこ置かせた。
「茉乃。俺は君とここでこうして過ごしたかったんだ。ずっと。だから今日夢が叶って嬉しい。」
「柊さん・・・」
柊は茉乃にぐっと近付き、肩を寄せた。
「はああああ。本当に君が好きなんだ。」
「はい。」
「今日はいっぱい・・・キスしていい?」
「え!?駄目です一日一回です!!」
「何その縛り!?おかしくない?」
「だって・・・ドキドキし過ぎてまだそんな、いっぱいなんて無理です!!」
柊は顔を片手で押さえる。
「それ、俺を煽ってるだけなんだけど。」
「そ!?そんなつもりはなくて・・・」
茉乃の顔はもう柊の手の中にあった。
「ごめん、今日だけ無制限で。」
「ん!?」
・・・そして二人は少しの時間、甘く静かな夜を過ごした。




