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二人だけの甘い時間

 自分の部屋に戻った茉乃は、さっきの出来事をまだ現実として受け止めきれていなかった。ふわふわとした頭のまま、じゃあ帰りますと言って部屋に戻り、ソファーに飛び込んだ。


「キス、しちゃった・・・」


 指で唇に触れ、重ねられた柊の冷たくて柔らかい唇を思い出してしまう。


「ううう、どうしよう!?」


 茉乃はしばらくの間、何も手につかず、一人でただひたすら呻きながらソファーに転がっていた。





 柊は、寝室のベッドの上で、ぼーっと天井を眺めていた。


(言ってしまった。・・・それに、彼女も俺を好きでいてくれた)


 これからの二人に想いを馳せながら、あの甘い余韻に浸っていたが、不意に大事なことを何も話していないことに気付く。


「あ、鷹宮の話してなかった!!」


 あまりに嬉しすぎて彼女に思わずキスをした。その唇の甘さに、驚くほどの柔らかさに頭がおかしくなりそうで、つい忘れてしまっていた。


(だからってあんな大事な話をしそびれるなんて!)


 自分の寝ぼけた頭を無理やり覚まさせ、立ち上がった。





 玄関のドアのノックの音で、茉乃は慌ててドアを開けた。


「ごめん、茉乃、まだ起きてる?」

「柊さん?」


 柊は少し申し訳なさそうな顔でそこに立っていた。


「さっき、大事な話をしそびれてた。明日、休みだよね?」

「は、はい。大事な話って・・・あ!」

「・・・鷹宮のこと。」

「中に入りますか?」

「いいの?」

「はい、どうぞ。」


 はい、とは言ったものの、自ら部屋に彼を招き入れるのは初めてだった茉乃は少しだけ緊張していた。



「ソファー、どうぞ!」


 茉乃は柊にソファーを勧め、自分はラグの上に座った。


「茉乃、こっちに座って。」


 柊が愛おしそうに茉乃を見つめる。そんな風に気持ちを隠さずにぶつけられることに戸惑い、ドキドキしながら隣に座る。


「うん。なんかいいね、こういうの。」

「柊さん、また話を忘れちゃいますよ!」

「ごめんごめん!」


 柊は一つ大きく息を吸って、吐き出した。


「鷹宮は・・・確かに前も言ったように幼馴染みで、まあ友達としては普通に仲も良かった。研究所では、後から入ってきたあいつと一時期同僚でもあったよ。俺の方が先に出世しちゃったから、本当に短い期間だったけど。」


 茉乃は手を上げて話を止め、席を立って冷蔵庫からペットボトルのお茶を出した。


「ありがとう。・・・鷹宮のお父さんは、この研究所の創設に大きく関わった人で、佐藤さんも俺も凄くお世話になったんだ。今こうして俺の力を使って君をこの世界に連れてこられたのも、彼の尽力があってこそだった。」

「そうだったんですね。」

「だけど、そのことをちらつかせて鷹宮との結婚を迫るような人じゃない。権力を持ってる人ではあるけど、志は一緒なんだ。鷹宮は・・・もしかしたら俺のことを好きでいてくれるのかもしれない。そう感じたことが無いと言ったら嘘になる。でも俺は一度もそういう目で彼女を見たことは無いんだ。」


 柊は、茉乃の手を思わず握りしめる。見つめ合った。


「だから彼女は俺の許嫁なんかじゃないし、彼女でもましてや婚約者でもない。そういう関係にも雰囲気にすらなったことはないよ。」

「柊さん・・・私、その話は信じることにします。」

「茉乃!嬉しい、よかった、ほっとした・・・・」


 緊張していたのか、柊は本当にほっとしたかのようにソファーの背もたれにグッと寄りかかった。


「柊さんでも緊張するんですね!」

「あ、なんか俺は緊張しない変な人みたいな言い方だなー?」

「だって、一度も見たことないですよ、そんな姿。」

「さっきは死ぬほど緊張したよ?」

「え?」


 柊は体を起こしてゆっくりと、今度はそっと、茉乃を抱きしめた。


「ずっと言えないと思ってた。江口があんなことしなければ、こうはならなかったかもしれない。沢木のことでも焦ったし、俺はそれはもうずっとハラハラしっぱなしだった。」

「柊さん・・・」

「茉乃は違う誰かを好きになっちゃうんじゃないかって思ったら、もう駄目だった。本当に好きなんだ。どうしようもなく。」


 柊の温もりと茉乃への想いが、ふわふわと茉乃を包み込んでいくようだった。


「私も不安でした。ずっと。私なんかってさっきまでずっと思ってました。今でも夢かなって思うくらい。」

「お互い臆病過ぎたかな。」

「わ、私はまだ初心者ですから!」

「あはは、何それ、何の初心者?」


 柊の笑い声が近くで響いてドキドキする。


「もう、すぐそうやって笑う!」

「だって茉乃が可愛いことばっかり言うから!」

「!!」


 可愛い、と言う言葉をこんなに甘く伝えられることがなかった茉乃は、顔を真っ赤にして黙り込んだ。


「ほら、やっぱり可愛い。駄目だ、もう一回キスしたい・・・」

「駄目!せめて一日一回でお願いします!!」

「なんで!?そんなの無理だよ!!」

「無理じゃない!!」

「無理だって!!」


 茉乃が必死で柊の口を手で押さえる。柊はその手のひらに優しくキスをした。


「ちょっ・・と!?」

「茉乃、俺に惚れられちゃったのが運の尽きだよ。もう絶対逃さないから、覚悟しておいて。」

「・・・ううう、恥ずかしい・・・。」


 そして柊は力の抜けた茉乃にもう一度ゆっくりと近付き、唇を奪っていった。


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