あんしんして!
ポストを開けると、チラシやDMに紛れて、白い封筒が一枚入っていた。
『北川 アイ 様』
裏を返すと、夜爪 鞠 と名前があり、北川はおおいに慌ててしまった。
「え? なんで??」
保育園へとアイを迎えに行くとき、シートベルトをしたアイに手紙を渡した。
「マリちゃんからのおへんじだあ!」
後部座席のチャイルドシートでびよんびよんと跳ねる。その度に、車体が左右に揺れた。
「アイ車が壊れるから! ねえ、なんで夜爪さ……マリちゃんから手紙なの? 返事ってことは、アイもマリちゃんに手紙でも渡したの?」
「うん。まあね。いぃひひひ」
その笑い方に、ぞっと背筋が凍る思いがした。なんだか嫌な予感しかしない。アイがいひひひと笑うときは、なにか行動を起こしたときだ。
「え……なになになになにこわいこわい」
家に到着すると、手紙を握りしめながら、アイはおもちゃ部屋へと駆けていった。倉庫にこもって読むつもりだろう。
「こらあ、先に手を洗えよー」
倉庫のドアに向かって言葉を投げかけるが、返事は返ってこない。数分待ったが、うんともすんとも言わないので、痺れを切らしてドアを開けた。
そこにアイの姿。手紙を握りしめて、立ち尽くしている。震える肩と背中。頭がゆらゆらと揺れていた。振り返った拍子に、うええっと嗚咽が漏れた。
「ど、どうした、アイ?」
「うわぁぁん、わあぁん」
大きな瞳に涙が溜まり、次から次へとぼろぼろぼろぼろと、こぼれていく。大粒の涙はやがて、滝のようにだばーっと流れていった。泣き声の大きさが、MAXだった。
「アイ。大丈夫だから泣きやんでくれ。どうした? なにがあったんだ? パパに言ってごらん?」
掬い上げるようにして抱っこする。アイは両手を首の後ろに巻きつけて、北川の肩に顔を埋めてしまった。
「わあぁあん、いやだあぁ、マリぢゃあん、いやだぁ」
どうやら原因は夜爪からの手紙らしかった。
「マリちゃんがなんだって? アイ、ちょっと見せてごらん」
北川はアイを首に巻きつけたまま、リビングへと戻った。抱っこしたまま、ダイニングテーブルへと座る。
アイから封筒と便箋を受け取ると、目を通していく。そこにはパンダマンや可愛らしいファンシーシールが、散りばめられていた。精一杯、手作りしてくれた。気持ちが伝わってくる手紙だった。
あいちゃんへ
『あいちゃん、おてがみありがとう。とてもじょうずにかけていましたよ。あいちゃんはひらがながかけるようになるために、がんばってれんしゅうしていたものね。とてもよくがんばりました!』
きっと。ここまでは喜んで読んでいたのだろう。けれど、ここからは。
『あと、あいちゃんのおねがいごとについてです。ざんねんですが、さんたさんでもかなえるのはむずかしいかなぁとおもいます。ごめんね。でも、あいちゃんのことだいすきです。これからも、あいちゃんとあそんだり、おはなししたりしたいな』
泣きたい気持ちになった。これからのアイとの仲良しな未来を謳う内容に。人間関係を一歩下がった場所から傍観する。そんな風にとらえていた夜爪の心境に、なにか変化があったんじゃないかと思えるような、手紙。
どの部分がアイの琴線に触れたのかはわからないが、十分に前向きなんじゃないかと、北川は嬉しく思った。
「わかったわかった。大丈夫だからもう泣き止むんだよ」
アイの短い黒髪を丁寧に撫でる。ひっくひっくとしゃくり上げる背中も、ぽんぽんと優しくさすった。
アイが次第に落ち着きを取り戻してから、北川は訊いた。
「で、アイはマリちゃんになにをお願いしたの?」
抱っこの体勢でアイが身体を離す。そして、上目遣いに北川を見ると、眉間に皺を寄せてから、言いにくそうな感じで言った。
「……えっとお……マリちゃんにね。アイのママになってほしいって、おてがみかいたの」
「え。え?」
絶句。その後、爆発。
「ええぇ!!」
「パパ! パパだいじょうぶよ。あんしんして! マリちゃんがアイのママになったらいいのですって、さんたさんにおねがいしたんだって!」
「って、マリちゃんへの手紙に書いたってことだろ?」
北川の真っ青だった顔が、今度は上気し赤くなっていく。
「……アイあのね。クリスマスは夏じゃなくて冬のイベントだし、しかも……それ告白する前に結果がわかっちゃったっていう、パパがめちゃくちゃ可哀想なやつ……」
「コクハク?! アイもそれ食べたい!!」
「ああぁぁあぁ……」
その場で悶絶した。




