表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空間に綴る  作者: 三千
32/37

あんしんして!


ポストを開けると、チラシやDMに紛れて、白い封筒が一枚入っていた。


『北川 アイ 様』


裏を返すと、夜爪 鞠 と名前があり、北川はおおいに慌ててしまった。


「え? なんで??」


保育園へとアイを迎えに行くとき、シートベルトをしたアイに手紙を渡した。


「マリちゃんからのおへんじだあ!」


後部座席のチャイルドシートでびよんびよんと跳ねる。その度に、車体が左右に揺れた。


「アイ車が壊れるから! ねえ、なんで夜爪さ……マリちゃんから手紙なの? 返事ってことは、アイもマリちゃんに手紙でも渡したの?」

「うん。まあね。いぃひひひ」


その笑い方に、ぞっと背筋が凍る思いがした。なんだか嫌な予感しかしない。アイがいひひひと笑うときは、なにか行動(アクション)を起こしたときだ。


「え……なになになになにこわいこわい」


家に到着すると、手紙を握りしめながら、アイはおもちゃ部屋へと駆けていった。倉庫にこもって読むつもりだろう。


「こらあ、先に手を洗えよー」


倉庫のドアに向かって言葉を投げかけるが、返事は返ってこない。数分待ったが、うんともすんとも言わないので、痺れを切らしてドアを開けた。


そこにアイの姿。手紙を握りしめて、立ち尽くしている。震える肩と背中。頭がゆらゆらと揺れていた。振り返った拍子に、うええっと嗚咽が漏れた。


「ど、どうした、アイ?」

「うわぁぁん、わあぁん」


大きな瞳に涙が溜まり、次から次へとぼろぼろぼろぼろと、こぼれていく。大粒の涙はやがて、滝のようにだばーっと流れていった。泣き声の大きさが、MAXだった。


「アイ。大丈夫だから泣きやんでくれ。どうした? なにがあったんだ? パパに言ってごらん?」


掬い上げるようにして抱っこする。アイは両手を首の後ろに巻きつけて、北川の肩に顔を埋めてしまった。


「わあぁあん、いやだあぁ、マリぢゃあん、いやだぁ」


どうやら原因は夜爪からの手紙らしかった。


「マリちゃんがなんだって? アイ、ちょっと見せてごらん」


北川はアイを首に巻きつけたまま、リビングへと戻った。抱っこしたまま、ダイニングテーブルへと座る。


アイから封筒と便箋を受け取ると、目を通していく。そこにはパンダマンや可愛らしいファンシーシールが、散りばめられていた。精一杯、手作りしてくれた。気持ちが伝わってくる手紙だった。




あいちゃんへ


『あいちゃん、おてがみありがとう。とてもじょうずにかけていましたよ。あいちゃんはひらがながかけるようになるために、がんばってれんしゅうしていたものね。とてもよくがんばりました!』


きっと。ここまでは喜んで読んでいたのだろう。けれど、ここからは。


『あと、あいちゃんのおねがいごとについてです。ざんねんですが、さんたさんでもかなえるのはむずかしいかなぁとおもいます。ごめんね。でも、あいちゃんのことだいすきです。これからも、あいちゃんとあそんだり、おはなししたりしたいな』


泣きたい気持ちになった。これからのアイとの仲良しな未来を謳う内容に。人間関係を一歩下がった場所から傍観する。そんな風にとらえていた夜爪の心境に、なにか変化があったんじゃないかと思えるような、手紙。


どの部分がアイの琴線に触れたのかはわからないが、十分に前向きなんじゃないかと、北川は嬉しく思った。


「わかったわかった。大丈夫だからもう泣き止むんだよ」


アイの短い黒髪を丁寧に撫でる。ひっくひっくとしゃくり上げる背中も、ぽんぽんと優しくさすった。


アイが次第に落ち着きを取り戻してから、北川は訊いた。


「で、アイはマリちゃんになにをお願いしたの?」


抱っこの体勢でアイが身体を離す。そして、上目遣いに北川を見ると、眉間に皺を寄せてから、言いにくそうな感じで言った。


「……えっとお……マリちゃんにね。アイのママになってほしいって、おてがみかいたの」

「え。え?」


絶句。その後、爆発。


「ええぇ!!」

「パパ! パパだいじょうぶよ。あんしんして! マリちゃんがアイのママになったらいいのですって、さんたさんにおねがいしたんだって!」

「って、マリちゃんへの手紙に書いたってことだろ?」


北川の真っ青だった顔が、今度は上気し赤くなっていく。


「……アイあのね。クリスマスは夏じゃなくて冬のイベントだし、しかも……それ告白する前に結果がわかっちゃったっていう、パパがめちゃくちゃ可哀想なやつ……」

「コクハク?! アイもそれ食べたい!!」

「ああぁぁあぁ……」


その場で悶絶した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ