ひらがなによる告白
計らずも、5歳の生意気女子にむざむざ先を越され、告白という壁をぶち抜かれたと言っていい案件だった。
「はあーあ、まじかあぁ」
北川はアイを寝かしつけるため、アイのベッドで横になっていた。隣には、すうすうと寝息をたて、ぐっすりと眠っているアイの寝顔がある。だらしなく口を開けては時折、もぐもぐしているのを見ると、怒る気持ちもすんと消えていった。
大事な告白を、違う惑星から豪速球で投げつけられたんだから、かなりの冷や汗ものだ。
(夜爪さんの中では、俺が言わせたみたいになってるかもしれないけどなあ……いやいや違いますよっ! アイが勝手にやったことでーす! と声を大にして言いたい……はあぁ情けな)
眠りこけているアイの頬をこいつめ〜と指でつんつんする。
しかも、返事はどうだ。アイの願いでも、いやサンタさんでも叶えるのは難しい、とあったよね!
「ふわっとオブラートに包んではいるけど、あれ結果的には断られてるってことだよなあ……はあぁ」
深いため息が出てしまう。
断られた理由はなんなのだろう?
好きな男がいるのだろうか。それとももともと結婚願望がないのだろうか。いやいや付き合ってもいないのに、結婚だなんてなにを言っちゃってんだ、俺。俺のいる手前、ママになるよ! なんてこと言えないか……はっ! だからか!
ぐるぐる考えは巡り巡るが、行き着くところはただひとつ。
「やっぱ、病気のことだよなあ」
(夜爪さんは自分の人生に他人を巻き込んではいけないと思っている節があるから……)
病を持つ人はそう考えるのが普通なのだろうか。だったら尚のこと、側にいてあげたい、そう思った。
「告白かあ。上手くいくかわかんねえけど、ちゃんとやらなきゃな……けじめはつけないと」
北川がそう呟くと、「おしりぶうぶうむにゃむにゃ」とアイが寝言を言った。
エアリアルルームを一室、個人で購入した。もともと、独立したときからショールームを持ちたいと思っていて、一部屋を購入する予定だった。貯蓄は早い段階で始めていた。その資金が順調に貯まっていたのもあり、それを頭金にしてローンを組んだ。時期を少し前倒しした格好となった。
今まで自分の手でコーディネートしたエアリアルルームは、その出来上がりを画像で保存している。さすがにホームページ等には載せないが、依頼主の許可を得て一つのアルバムにし、提案するときの参考にさせてもらっている。
購入したエアリアルルームはショールームとして公開し、画像では分かりづらい実物の良さというものを、肌で感じてもらうことができるだろう。検討するときや依頼するときの参考にして欲しい。コーディネーターとしての腕の奮いどころだと気合いが入った。
「でもその前に、な」
北川は、インテリアも家具もまだなにも置いてない、がらんどうな空間に立ち、辺りを見回した。腕まくりをする。数箱、置いてあるダンボール箱のガムテープをハサミで切った。
ぶわりと香る木の匂い。夜爪の購入したエアリアルルームと同じ匂いとなった。その中から数個、選んだひらがな積み木を出す。
「よし。やるぞ」
『よ』『づ』『め』『ま』『り』『さ』『ま』『へ』
ひとつひとつ、深呼吸をしながら、置いていった。




