16.惚れた理由
「氷の女王、だったか?」
「やめてください…」
スティーヴンの昔話を聞くんじゃなった。自分のとんでもない失態を嬉しそうに話すスティーヴンを無理矢理止めて、馬に跨る。
「先に戻ります!」
「おい、まだ話は終わってないぞ」
「もう十分です!」
「学園でのシャーロットも可愛らしかった」
「もう…!揶揄っているでしょう!」
「はははっ、そうだな」
「もう…!」
馬を飛ばし、馬舎へ戻る。赤い顔を見られないように飛ばすと、スティーヴンは追いつこうとしてくる。風で頬を覚ましてから、馬から降りた。
「なんだ、照れてないのか」
「照れません!」
「可愛いのにな」
「うっ、」
「お、照れた」
鳩尾の辺りにこぶしを軽く当て、ふいと顔を背ける。
ーーなんで慣れないのかしら。本当に。
とんでもない昔話を思い返して、頭を抱えたくなる。
「俺はその時惚れたが、シャーロットはいつ俺に惚れたんだ?」
「はい!?」
「おお、惚気かい?」
馬小屋の管理人まで話に加わってきた。
「秘密です!」
「俺に内緒事か?それはいけない子だな」
「こっ、これはいけないことじゃないわ!」
走って逃げると、可笑しそうに笑って後をついてくる。部屋へ戻り、ベッドにダイブする。逃げ切れたーーと思ったら、スティーヴンはノックもせずに部屋に入ってきた。
「スティーヴン様!?」
「答えを聞いていないからな」
「教えません…!」
「何故だ?俺は教えたじゃないか」
「頼んでません!」
ベッドに乗ってきたスティーヴンに押し倒される。
「いつ俺に惚れたんだ?」
「そっ、そんなの…!」
「そんなの?」
言えるわけないじゃない…!
恥ずかしくて顔を無理矢理背けると、首筋に唇が伝った。こそばゆくて、びくりと体が跳ねる。
「スティーヴン様…!」
「スティーヴン」
「えっ」
「あの頃はスティーヴンと呼んでいたじゃないか」
「それは貴方が学生の姿をしてらっしゃったから…!」
「二人の時は、スティーヴと呼べ。いいな」
有無を言わせない圧に押されて頷く。
「す、スティーヴ、もう許して」
「嫌だ」
「もう…!」
「恥ずかしいのか?」
「聞かなくてもわかるでしょう…!」
固い身体をなんとか押しやって、距離を空ける。スティーヴンと距離を詰めるといつも、ドキドキして、自分が自分でなくなってしまう。知らない自分が出てきて、戸惑ってしまう。素直な女の子が可愛いのは知っている。学生の頃も、恋人がいる女の子は皆揃って素直で可愛い子ばかりだった。『氷の女王』なんで呼ばれていた自分になんて、無縁の話だと思っていた。
「すまない、意地悪しすぎたな。またあとで迎えにくる。暫く寛ぐといい」
ベッドから腰を上げたスティーヴンの裾を、反射的に掴んでいた。
「……背中が、頼もしかったんです」
「ん?」
小声の早口だ。聞き取れなかったのだろう。もう一度、勇気を振り絞って言う。
「あの時、独りでもう、脱ぐしかなかった時、庇ってくれた背中に…その…惚れ、ました」
逞しかった。誰よりも強くて優しい、あの背中が、守ってくれる背中にーー。
「……それは、嬉しいな」
真っ赤になってるであろう顔を上げて、スティーヴンを見るとーー彼まで真っ赤になっていた。驚いて、まじまじと見ていると、スティーヴンが片手で顔を覆った。
「…俺は顔がいい」
「は、はい、存じております」
「あと財力も権力もある」
「はい…?」
「だが、そうか。そうか…」
噛み締めるようにそう言い、スティーヴンが照れ臭そうに笑って言った。
「それ以外の惚れられ方は初めてだ」
初めて見る表情に、見惚れてしまう。なんだか幼いようなそんな笑顔が、綺麗だった。
「スティーヴ、貴方は本当に素敵な方よ」
「嗚呼、君が言うならそうなのだろうな」
ぎしっとベッドが鳴った。片手を乗せたスティーヴンが、唇を奪った。頬に手を添えて、愛おしそうに笑う。
きっとこの顔は、自分だけが見れるものだ。そう思うと、とんでもなく愛おしさが湧いてくる。もう一度口付けをすると、ベッドに押される。体の線をなぞるように触れられ、驚く間もなくまた口付けられた。
息をするまもない、長い口付けのあとーースティーヴンが服に手をかけたーーが、扉がノックされる。
びくり、と二人とも体が跳ね、慌てて離れた。
「シャーロット様?」
「あ、ジャジー、ちょっと、待ってね」
真っ赤になった顔を見られるわけにはいかない。私は今、何も抵抗をしなかった。完全に身を任せていた。ーースティーヴンにもっと触れたいと思っていた。
「シャーロット様?入りますよ?」
「あ、あのね、ジャジーちょっと…」
スティーヴンが、しーっと人差し指を口に当て、転移魔法で姿を消した。
ーーあ。
「シャーロット様?」
ベッドに潜り込み、熱い顔を見られないように蹲る。転移魔法を展開する時の横顔はーー真っ赤だった。
「具合が悪いのですか?」
「ちょっと、嬉しいことがあって。今、堪らない気持ちなの」
「はぁ…」
納得いかないような声を出しつつ、ジャスミンが紅茶の用意を始めた。




