最善の判断
「――やあ。二度目まして。あまり時間を取れなくて悪いが、実りのある対談ができていれば幸いだ」
再び立ち上がって吉野を迎えたジルヴェスターの言葉に、吉野は唇を浅く歪める。実りがあったかどうかは、手応えを感じていない。より疑念が深まったようなものだったが、
……セネカを手に入れたものは、何ができるんだったか?
それを、思い出さなければならない。あのとき、真柴は何と言ったのだったか。
「では、早速だが君の答えを聞こうか吉野くん。君は、協会に加入する気はあるかね」
単刀直入に、ジルヴェスターは問う。その言葉を真正面に受けて、吉野は一息を吸った。
きゅ、と浅く握るセネカの手を感じながら、はっきりと返す。
「ない」
協会には、入らない。
迷いのない吉野の言葉に、ほう、とジルヴェスターはやや驚いた表情になった。
「そこまできっぱりと断れるとは。迷いはないのかね」
「ないね。あんたは協会に所属するメリットを、俺とセネカの平穏だと言った。けれどそれは、別に協会に所属しなくたって、自分たちで守れる」
「大した自信だな。世界を敵に回すのだぞ?」
「想像力だよ協会代表。想像力だ」
とんとん、と自分のこめかみを指先で軽く叩いて、吉野は笑った。
まるで真柴のように、挑発的に。
「俺は、世界を敵に回した程度で揺らがない平穏を、想像できる。俺が想像できるなら、セネカが創造してくれる」
「……ほう」
「それに、協会にいたんじゃあいつまでたっても答えが見つからない気がしてね」
「答え――それは、何の答えだね」
「セネカの存在についての答えだ」
真柴が何を思ってセネカを創り、何を為すことを想像したのか。
吉野はセネカと、何ができるのか。
「なあ、ジルヴェスター・ラルフォンスさん――あんたは、世界について、何を思う」
「何を、とは?」
「あんたにとって世界とは、何だ」
ふん、とジルヴェスターは軽く鼻を鳴らした。面白がるように。
「簡単な問いだ。私にとって世界とは、箱庭だ。人形の至高に、錬金術の最果てに臨むための、な」
「そうか……そうだよな。訊くまでもなかった。『至高の三師』らしい答えだ」
なあ、と吉野はセネカを見る。
「だ、そうだけどセネカ。お前はどう思う」
「どうでもいいと思う」
「そうだよなあ。もしそうなら、その最果てって言うのはここにいるんだから」
きゅ、と吉野はセネカを握る手に力を込めた。それに、確かに返ってくる力がある。
「俺にはわからない。世界っていうのは、その程度のものなのか。そんな小さなものなのか。セネカと一緒に見られる世界っていうのは、どんなものなのか――それは、協会にいたんじゃきっとわからないままだ。だから、俺は俺のまま、セネカと一緒に立っていく」
決然とした吉野の答えに、ジルヴェスターは激昂するでもなく、なぜか小さく吐息した。まるで真柴と同じように、眩しいものを見るような視線で、吉野を見る。
そうか、と。
「それならば、交渉は決裂だな。では――そこまで堂々と啖呵を切るんだ、次にどうなるかは、多少なりとも覚悟はできているんだろう?」
ジルヴェスターの言葉に、吉野は頷く。同時に、周囲にあふれてくる気配を捉えながら。
世界を敵に回す。
そういうことだ。
「先にも言った通り、七式は貴重なサンプルだ。みすみす取り逃がすわけにもいかない。一度は何事もなく送り返そうと思っていたが……気が変わったよ。どうやら君は危険だ。ここでひとつの決着としよう」
ジルヴェスターが片手を上げた。急襲の号令か、揺れる振袖の向こう、空の彼方に光点を見据えながら、吉野も頷いた。
「ああ、そうしよう」
ぐい、とセネカと握り合わせた手を頭上に掲げ、嗤う。
「まずは世界を見ることから始めよう!」
瞬間、轟音とともに空間が激震した。




