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ワールド・セネカ  作者: FRIDAY
参 騎士(自称)
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29/51

次なる邂逅=ナルシスト

 さらに一週間が経った。

 秋東が数日に一度様子を聞いて発破(はっぱ)をかけてきたり、セネカも相変わらず毎朝ついて来ようとするからそれを止めたりと、いつしかそれが日常として馴染み始めている。

 陽気は実に安穏としていて、世界中が敵ばかり、などという状況が嘘のようだ。

 それも、どうやら今日までのようだったが。



「――やあ」



 下校中、家路の途上。

 不意に目の前に、見知らぬ少年が現れた。


 痩身、整った顔立ち、人当りの良い笑み。年の頃は吉野と同じくらいであろう少年が、妙に親しげにこちらへ声をかけながら近づいてくる。吉野は立ち止まり、返答はしない。

 じっと、見る。少年を、そして周囲を。

 吉野はこの少年を知らない。初対面だ。しかし向こうはこちらを知っている様子。


 ……人形遣い、か。


 協会の関係者か、あるいはそれ以外の組織の人間、はたまたフリー。いずれにせよ、十中八九はセネカを目的とする、敵。

 だから、慎重に吉野は周囲を窺う。どこかに人形が身を潜めているのではないか、と。前回、つまり秋東のときは、秋東の人形であるトルクシュタインは不可視状態で潜んでいたために全く気付くことができず、今回も同様ではないとはとても言い難いが、それでも警戒するに越したことはない。


 そんな吉野の様子に気が付いたらしい少年は、おやおや、と気さくに肩をすくめた。

「大丈夫だよ。心配しなくても、今は最初から挨拶だけのつもりでね。ホムンクルスは連れてきていない。だからそう警戒しないでくれよ。――話をしに来ただけだ、吉野くん」


 ……やっぱり、人形遣いか。

 吉野の名前を知っている。それはもはや当然のこととしても、自分の名を知っている相手の名を知らないというのは妙に居心地が悪い。


「……あんたは、誰だ」

 数メートルの距離を置いて立ち止まった少年に問う。ああ、と少年は気障(キザ)ったらしい仕草で前髪を掻き上げると、

「これはすまない、名乗り遅れたね。僕は向日(むかえび)・相馬(そうま)。協会所属の人形遣いだ」

 成程、と吉野は改めて向日を見る。


 ……ナルシストくさいな。

 いや、それよりも、もっと凄いことを言ってなかったか。

 ……協会所属?


「協会所属ってことは、あんたもセネカが狙いか」

 半歩、退きながら吉野は問う。その間も、さらに考えている。


 セネカを呼ぶか? 話しに来ただけとか言っているが、信用はできない。自尊心の高そうな顔だ。このまま背中をむけて全力で逃走を図ったら、それはそれで激昂して追撃して来そうだし……しかし相手の手がわからないうちにセネカを呼ぶのも、危険な気はする。


 しかし、思案する吉野に対して向日は飄々(ひょうひょう)と、また髪を掻き上げながら、

「ま、そういうことになってるね。僕の派遣された任務は、ホムンクルス七式の捕縛とその契約者の抹殺」

 抹殺。さらりと告げられたその言葉に、頬が引きつる。

 だが、それに対して吉野が何かを言う前に、でもね、と向日は続けた。


「実のところ、僕はそんなことはどうでもいいんだよね」

「……は?」

 何を言っている。


「正直に言って、僕は七式に興味はないんだ。いや、世界をどうにかできる力っていうのは勿論興味をそそられるよ? でもね、僕にはもっと大事なものがあるんだ。もっと興味ビンビンな人がいるんだよ――」

 何だか知らないが自分語りを始めた。それも、いちいちポーズを変えながら。鬱陶(うっとう)しいことこの上ない。


「……何が言いたい?」

「ひとつ問いたい」


 す、と虚空を見つめていた視線が吉野に向く。その双眸(そうぼう)を正面から見返して、吉野は知らずぞっとした。


 冷たい。

 あまりにも、底冷えのする視線。


「――『翔光(しょうこう)』秋東(ときとう)・七星(ななせ)を倒したというのは、本当かい?」


 問われたのは、思わぬ内容だった。虚を突かれて、吉野は思わずきょとんと眼を瞬かせる。『翔光』というのが何なのかは知らないが、

「……まあ。秋東とは一応戦って、勝ったけど」


 いきなり何を問うのだろう。こいつも秋東の知り合いなのだろうか――などという悠長な思考は、吉野の返答を聞いて見る間に変貌していく向日の形相を前に、止められた。

「へえ、成程。やっぱり君が、秋東さんを……しかも呼び捨てに」

 地の底から響くような低い声に、思わず吉野は一歩を退いた。質量すら錯覚してしまうほどの気迫。そして、


「う……」

「う?」

「羨ましいぃぃいいいいぃぃぃぃ!」

 絶叫した。


 唖然とする吉野の見る前で、向日はびちびちと悶え回る。

「僕ですら! 秋東さんの騎士たるこの僕ですら恐れ多くて『さん』づけを否めないと言うのに! 秋東さんを付かず離れず守り続けて早五年になるこの僕ですらそうなのに! 貴様は出会ってせいぜい一ヶ月でぇぇええ! 許さんっ!」


 ひとしきりのたうち回った後、やおら半身捻りポーズでズビシッと吉野を指さし吼える。

「決闘だ! 一週間後の今日正午、僕は貴様に決闘を申し込むっ! 場所は貴様の通う高校の校庭だ。逃げるなよっ、いいなっ!」

 一方的な決闘宣言。勢いについていけず口を半開きで固まる吉野の返答を待たず、向日は言い捨てると背を向けて立ち去り、かと思いきやくるっと振り返ると再び鋭い指さしで、

「そ・れ・と! 必ず秋東さんをお連れしろ。いいか、絶対だぞ! 僕が貴様を叩きのめし、僕こそが秋東さんにふさわしい最も優れた人形遣いであることを秋東さんに認めてもらうんだからな!」

 言うと、今度こそ向日は背を向け、肩を怒らせながら去っていった。

 その背中を、吉野はただ唖然として見送る。

「あいつ、何なの……」


 ただのナルシストかと思いきや、何だかキャラが定まっていない。それに決闘がどうとか一方的に宣言されたが、

「来週の今日の正午って、普通に学校あるんだけど……」

 昼休みの間に終わる、とはさすがに思えないのだが。

 ……また職員室で土下座か。


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