用件はどっちだ
今日は掃除当番にも当たっていなかったので、吉野は速やかに帰宅するべくホームルームが終わるなり教室を出て、生徒玄関へ向かった。生徒玄関担当の掃除当番が到着するより早く滑り込むと、上靴を脱いで自分の靴箱を開ける。
「……ん」
吉野の外靴の上に、キャラクターのプリントされた何とも可愛らしい封筒がちょこんと鎮座していた。
……これは。
すわラブレターではあるまいかと狂喜するのが通常の男子一般にあるべき反応であろうが、さすがの吉野もここにきてそんな反応をする心境ではいられなかった。
嫌な予感がする。
そっと、封筒を手に取る。宛先には確かに、可愛らしいまるっこい文字で「吉野くんへ」と書かれていた。裏返してみると、しかし差出人の署名はない。
一度、周囲を見回してみる。まだざわめきは遠く、生徒玄関に吉野以外の人影はなかった。しかしそれは、安堵するべきか否か微妙なところだ。
「…………」
立ち尽くしていても仕方がない。ひとつ息を吸うと、吉野は意を決してその封筒を開いた。糊付けは甘くしてあったらしく、容易に封を開く。
中には、これまた少女趣味な便箋が一通。二つ折りにされたそれを開いてみると、宛先と似たような筆跡で、一文だけ書かれていた。
――放課後、屋上で待ってます。
屋上は立ち入り禁止だ。
だが、ここでの問題はそんなところではないだろう――
送り主は誰か。
「……セネカを」
呼ぶべきか?
先程まで抱いていた懸念もある。ここは豪快に無視して帰ってしまうのもありなんじゃないか。
だが、万が一という可能性も捨てきれない。普通のラブレターではないとどうして断言できる。案外行ってみれば本当に吉野に気のある女子か、あるいは適当な女子に字を書かせて吉野をおびき出した男子数人が待ち伏せているのかもしれない。後者だったら激しく嫌だし、袋叩きにされるような恨みを買うことをした覚えは露ほどもないけれど……。
……どうする?




