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ワールド・セネカ  作者: FRIDAY
弐 天使を従えた少女
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疑い

 結局、吉野はその後放課近くまで保健室で寝ていた。

 体調が悪かったわけではない。体育を出たときには確かに多少のめまいはあったが、そんなものは保健室に着く頃には治っていた。ただ、教室へ戻りたくなかっただけだ。


 秋東ときとうと顔を合わせることに、危機感がある。


 ベッドに横になり、保健室の天井を眺めながら考える。

 秋東は、何者か。


 何者かも何も、秋東は転入生で、クラスメートだ――しかし、そうではない。

 どうしても吉野は、ひとつの疑念がぬぐえないでいる。即ち、


 ……秋東は、何らかの関係者なのではないか。

 つまりは、セネカに関係があるのではないか、ということだ。


 セネカは、詳しいことはよくわからないが最強のホムンクルスで、だからこそ多くの人形遣いに狙われている。それは真柴ましばが言い、事実セネカを狙っているという人形遣いも一度打破している。


 秋東もまた、人形遣いなのではないか。

 セネカを狙っているのではないか。


 タイミングが良過ぎるような気がするのだ。セネカが吉野の前に現れて、その直後に秋東は転入してきた。そしてあの、殺意すら含んだ視線だ。

 ついでに言えば、つい先程、この校舎の屋上に垣間見た影――これこそ最も見間違えの可能性が高いが、しかし、どうだろう。


 見間違えではないとしたら。

 それぞれが、符合してはいかないか。


 確証はない。妄想のようなものだ。吉野の考え過ぎとも、自意識過剰とも言えるし、むしろそちらの方が余程説得力がある気もする。それこそ、実は秋東は吉野に気があって、あの笑みは度を越したツンデレのようなものである可能性も――


 自分で考えて自分で笑った。鼻で。

 それこそ在り得ないか。


「――ねえ、えっと、吉野くん? そろそろ帰りのホームルームだけど、戻った方がいいんじゃない?」

 カーテンの向こうから保健医が声をかけてきた。もうそんな時間か。ああ、はい、などと返しながらもそもそと吉野はベッドを降りた。早退もせずに放課直前まで居座る形となってしまった。これではさすがに不自然だ。教室には当然、秋東もいるだろうが、こればかりは仕方ない。まだ何もわかっていないのだ。来られるのか否かはともかくとして、セネカを呼ぶこともちょっと考えたが、ここで呼んでも仕方がないだろう。無駄に混乱を増やしかねないし。


 やや小走りで人気のない廊下を抜け、チャイムとともに教室に滑り込んだ。大丈夫か、などと訊いてくるクラスメートに曖昧に返しながら、吉野は自分の席に着く。


 教師の事務連絡を適当に聞きながら、さりげなく教室の反対側、秋東を窺ってみるが――彼女はこちらに見向きもしていない。後方の戸から吉野が入ってきたときもそうだったが、姿勢よく教師の話を聞いている。


 気のせい、だといいんだが。とりあえず今日は、帰ったらセネカに相談してみよう。

 あれから一向に連絡の取れない真柴に、再度連絡を取ってみるのもいいかもしれない――そう思いながら、ホームルームをやり過ごす。


 しかし、そう安穏あんのんと事は進まなかった。


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