プロローグ
初めて小説を書きました。どうぞよろしくお願いします。
「どうだ? 俺という『聖剣』を握る勇気が、お前にはあるか?」
玉座のひじ掛けに腰掛ける八歳の少年を見つめながら、リスク王国現国王、アントリ・リスクは深く思考に沈んでいた。
この世界には『超凡者』が存在する。
彼らは生まれながらの天才というわけではない。
ある一つの技、あるいは芸を極限まで極めた者たちだ。
ある日、とある臨界点を突破した時――。
彼らは『入聖』を果たす。
入聖した者は、天をも貫く光の柱を放つ。
親より『聖位』を授かるのだ。
それ以降、彼らは『超凡入聖』の存在となる。
聖者は侵すべからず。彼らがまとう威圧感は、同じ聖者でなければ無効化できない。
聖者は汚すべからず。成聖した瞬間から、彼らは自動的に飛行の術を身に付け、俗世の一切の穢れから遠ざかる。
人々は通常、その聖者が名を馳せるきっかけとなった技を冠して彼らを呼ぶ。
画聖、匠聖、空間――目の前にいる『剣聖』のように。
事の始まりはこうだ……。
三日前、王国内の二つの地方貴族が諍いを起こし、貴族戦争へと発展した。
ここまではまだ、よくある話だった。なぜなら貴族戦争において、貴族自身に死傷者が出ることはまずないからだ。
そのため、この戦争に熱中する貴族は少なくない。勝者は敗者から、領地の一部や特権、特定の特産物、鉱山、果ては人間まで分捕ることができる。
今回の二つの地方貴族的の戦力差は歴然だった。争いを仕掛けた側の貴族も、必勝の確信があったからこそ挑發に踏み切ったのだ。
しかし、結果は奇妙極まるものとなった。強者側が敗北したのだ。戦力の劣る側が村から募った民兵の中に、あろうことか一人の『剣聖』が混ざっていたせいで。
噂によれば、彼はたった一度の突撃で、強者側貴族の騎士方陣を切り裂き、そのまま相手の首元に剣を突きつけたという。
言葉通りの『切り裂き』だ。彼が通り過ぎた道にあったもの――人間、馬、鎧、そのすべてが真っ二つに、均等に両断されていた。
勝利した貴族が戦争の結果を携えて王都へとやってきた。本来なら、これ以上ないほど些細な小事にすぎない。
だが、ひとたび『聖者』が絡むとなれば、王室としても慎重にならざるを得ない。そのため、その貴族と件の剣聖を召喚した。
そして、行き着いたのが現在のこの状況である……。
一人の八歳の少年が、突如として身を翻して玉座のひじ掛けに腰掛けた。そして手を差し伸べ、王国で最も硬い剣を要求するとともに、王室が『剣聖』を雇って働かせる気はないか、という提案を持ちかけてきたのだ。
その小さな身体にはまったく不釣り合いな長さの長剣を背負う子供を見つめながら、十数年も国王を務めてきた私でさえ、思わず生唾を飲み込んだ。
相手は聖者だ、敬語を使わねば。……だが、最後に他人に頭を下げたのは一体いつだったか。
私は喉の筋肉を必死に動かし、慣れない引きつった笑みを浮かべて問いかけた。
「……それは、いかなる意味、でしょうか?(お前は何が言いたいんだ、と言いそうになり、慌てて敬語を取り繕う)」
「言葉通りさ。俺がお前たちのために働き、お前たちが俺に報酬を払う。これ以上ないくらい、正常な雇用関係だろ?」
だが、雇用する相手が君のような『剣聖』となれば、ちっとも正常じゃないんだよ、ボク……。
聖者の不可侵性は、現在の大陸において、散居する聖者たちが各国王室の配下で働くことをほぼ不可能にしていた。
幸いなことに、大半の聖者は成聖した後も、自らを聖者たらしめた技の探求を続ける。
そのため、各国王室の聖者に対する態度は、敬して遠ざける、というのが基本だった。
触らぬ神に祟りなし、だ。
もちろん、二国間の駆け引きとなれば、聖者は強大な後ろ盾となる。自ら進んで侵略行為に加わることはなくとも、聖者は通常、自分が住まう国を庇護することを吝かではない。
それゆえ、現在の大陸情勢は比較的安定している。侵略を行う実力を持ついくつかの大国には、基本的にはどこも聖者が存在し、それが抑止力となって、結果的にお互いを侵略できずにいるからだ。
「俺はね、こう考えてるんだ。王室は俺に人を殺させる命令権を得る。その見返りとして、俺はいくつかの特権と地位、それから領地が欲しい」
少年は、ずる賢そうな笑みを浮かべて提案してきた。
「しかし……大陸には聖者たちの組織が存在します。いや、存在……するのです。実質的な上下関係はないとはいえ、そこには比較的多くの『聖』が集まっている。数の力で単一の聖者を制圧し、制裁を下すことも可能……なはずです。あなたがむやみに動けば、制裁を招く恐れが、あります(普段の命令調が出そうになり、語尾がガタガタになる)」
「あぁ、やっぱりそういう組織があるんだな? でも問題ない。なぜなら、俺は普通の聖者じゃないからな」
言い終えると、少年は身を翻して階段の下へと戻った。大剣を肩に担ぎ、振り返る彼の瞳には、比類なき自信と覇気が宿っていた。
「では……どうされる、おつもりで?」
「とりあえずお前の敵対国の国王を殺して、そのあと聖者組織の連中をあしらってから考えようぜ」
言葉を残し、少年は先ほど与えたばかりの、王国で最も硬い剣と共に姿を消した。
「あ……待って……」
聖者がそもそも制御不能な存在であることは分かっていた。だが、この胸のざわつきは一体何だろう。
近いうちに、とんでもない大事件が起きる。それも、超ド級の特大の泥を塗られる予感がしてならなかった。
三日後、少年は血の滴る包みを持って、再び謁見の間へと戻ってきた。
「ほら、約束の土産だ」
包みを開くと、目に飛び込んできたのは、驚愕の表情を浮かべた数つの生首だった。
敵対国の国王、宰相、軍事大臣、財務大臣。軍事と政治のトップが一網打尽にされていた。
私はまたしても生唾を飲み込み、問いかけた。
「……そ、れで、どのようにして……あ、いえ、お訊ねしてもよろしいでしょうか?(どうやってやったんだ、と訊きそうになり、慌てて敬語を付け足す)」
「あ? どうやったかって? 正面から突っ込んでぶった斬ってきたんだよ。まず奴らの王都の城門を一太刀で叩き割り、次に王宮の大門を叩き割り、さらに謁見の間 funnel……じゃなくて大門を叩き割った。で、その場にいた奴らの首をまとめてはねて、高そうな席に座ってた奴らの首を選んで持って帰ってきた。それだけだ」
床に転がるいくつかの生首を見つめ、私の心境は複雑極まりなかった。敵対国とはいえ、相手はなかなかの好敵手だったのだ。どうせ正常な状態では大陸内の国同士の戦争など起きようもない。それゆえ、あらゆる面で王国と拮抗するライバルが存在することは、むしろ良いことでもあった。互いのプレッシャーのおかげで、双方とも長い間暗君を出さずに済んでいたのだ。
それが、まさかこんな風に死ぬとは。しかも首を雑に床へ放り出されて……。
私は一つため息をつき、言った。
「……先生、このようなことをされては、戦争の火種になり……なります。なりかねません!(一瞬、強い口調になりかけて慌てて語尾を濁す)」
「安心しろよ、起きやしねえよ。本当に軍隊が攻めてきたら、俺が片付けてやる」
少年はどこまでも気楽に言った。
「だけど、その前に……聖者組織の面倒な奴らをあしらわねえとな」
言い残すと、少年はふわりと宙へ浮かび上がった。
直後、凄まじい『聖圧』が押し寄せてきた。王都の全住民がその圧倒的な威圧感の前に身動きを止める中、私だけはなぜか自由にテラスへと歩み出ることができた。そして、遥か天空に浮かぶ五つの黒い点を見上げた。
聖者同士に上下関係はない。しかし、性格が「奔放」すぎる聖者が勝手に動き、情勢を混乱させるのを防ぐため、一部の世話焼きな聖者たちが緩やかな統制組織を結成していた。人数の優位性を活かし、これまでにも制御不能な行動を取る聖者を何度も制裁してきたのだ。権力を握りたがる傾向はあるものの、実際のところその組織の評判は悪くなかった。今、彼らは凄まじい怒りを引っ提げてやってきた。どうか我が王国に飛び火しないでくれと、願わずにはいられない……。
――視点は天空へ。
「小僧! 我らは『諸聖連合』の者である! 数日前、諸聖の規定に違反して非聖者へ独断で手を下した罪により、これより貴様に制裁を下す!」
四人並んだ聖者のうち、比較的歳のいった髭の老聖者が高声を張り上げた。
「へえ? どうやって俺を制裁するんだ?」
少年は大剣を肩に担ぎ、どこまでも余裕な態度で問い返した。
「当然、貴様の聖位を一時的に剥奪し、聖者監獄にて頭を冷やしてもらう!」
少年は対面の四人を見つめ、ふむ、と頷いた。
「なるほどな。『聖位相殺』か」
「ふん、まさかそのような小僧が、聖者戦の鍵を知っていようとはな」
「聖者戦? ははははははは……っ!」
少年は何かあり得ないほど滑稽なジョークでも聞いたかのように大爆笑し始めた。目元に涙を浮かべるほどに。
「戦闘特化でもない『聖』の集まりが、この戦闘特化の俺に喧嘩を売りに来て、それを聖者戦だと?」
「いいだろう、聖位相殺だ」
少年がパチンと指を鳴らすと、四つの光球がそれぞれ四人へと飛んでいった。次の瞬間、四人は突如として空から真っ逆さまに落下していった。
いわゆる『聖位相殺』とは、自身の聖位を用いて相手の聖位を一時的に相殺する技術だ。聖位を打ち消し合えば、二人は一時的にただの凡人に戻る。しかし諸聖連合は人数が多いため、残った聖者が能力を維持したまま、相手を強引に連行して反省させることができるのだ。お互い聖者同士、二度と暴れないと約束すれば、そう長く拘束されることもない。
だが、たった一人の人間に、全員の聖位を同時に相殺されるなどという事態は前代未聞だった。地面に叩きつけられ、瀕死の重傷を負うその瞬間まで、四人は信じがたい不条理感に囚われていた。
「ば、馬鹿な……一人で複数の聖位を持てるはずが……っ!」
「ふん……たかが半聖に足を踏み入れたばかりの雑魚どもが。一人が複数の聖位を持てないと、なぜ言い切れる?」
「貴様、何を――!」
「もういい、無駄口を叩くのは飽きた。死ね」
四聖の血が飛び散った。
全大陸の歴史上、初めて『天寿以外で命を落とした聖者』が誕生した瞬間だった。そして、その後に何が起こるのかを、世界は知ることになる。
漆黒の雲が瞬く間に大陸全土を覆い尽くした。
まるで慟哭するかのような狂風が吹き荒れ、鮮血の雨が大地へと降り注ぐ。
そんな異常な光景が、丸四日四晩、絶えることなく続いた。
四聖の死。それは、リスク王国が現在、何にも縛られず思いのままに人を殺せる聖者を擁しているという冷酷な現実を意味していた。
この現実は大陸全土に底知れぬ恐慌をもたらした。パリティア王都と王宮内の凄惨な有様は、瞬く間に大陸中へと伝わった。
それまでリスク王国に吠え付き、国王、宰相、そして大臣たちの復讐を叫んでいたパリティア王国軍も、完全に口を閉ざした。
一方の諸聖連合も、リスク王国に突如現れたこの名もなき聖者が一体どれほどの聖位を持っているのか、そして彼を抑え込むには何人の聖者を出動させればいいのか見当もつかず、四聖の死に対して沈黙を貫いた。
非難の声を上げたのは、死んだ四聖が元々庇護していた国家だけだった。そのうちの一つの小国は、唯一の聖者を失ったことで、今や四大帝国の一つであるオリアナ帝国に併呑される運命に直面していた。
残る三国の状況はそれよりはマシだったものの、大同小異だった。聖者の庇護を失ったことで、国家の上空には戦争の暗雲がじわじわと垂れ込め始めていた。
そんな中、リスク王国では盛大な剣聖叙勲式が執り行われた。
そして、その剣聖の正体が『風の剣聖』であり、百年前の伝説的な風の剣聖の技をすべて受け継いだ者であることが公表された。
今日という日を境に、わずか八歳の少年、クリストフ・リスクは、王都の外にある中部の大都市を拝領し、リスク王国の『王室伯爵』となった。
この挙に出た天下は騒然となった。歴史上初めて、俗世の王権に身を委ねた聖者が誕生したのだ。しかもこの男、受封の前からすでに王室の手先として動いていた。パリティア王国の前車之鑑がまだ生々しく残る中、今度はリスク王国の内部で、おぞましい血の惨劇が巻き起こることとなる。
一人の公爵、二人の侯爵、そして八人の伯爵の家名が歴史から抹消された。全族、誰一人として生き残る者はいなかった。
誰もが理解した。あの少年はリスク王室の『剣』であり、国王の直接の命令にのみ従う存在なのだと。
普段は領地で待機している彼だったが、奇妙なことに、その都市は風の剣聖が引き継いだ直後、貴族のあらゆる法的特権の廃止を宣言した。高位貴族を数多く一族もろとも誅殺した余威がいまだ冷めやらぬ中であったため、その街の治安は驚くほど劇的に改善された。
続いて発布されたのは『通商令』と『招賢令』だ。その街は、審査を通過したすべての研究者に資金援助を行い、その街を目指す王国境内のすべての商隊を庇護すると宣言した。もし商隊が王国内で襲撃され、かつその商隊が街と商業的な取引を行っていた場合、風の剣聖が直自ら出動し、襲撃者を一族もろとも根絶やしにするというのだ。
さらに、その街を中心に四方へと伸びる主要幹線道路において、他の貴族が関所を設けて通行を遮ることを禁止し、違反した者は一族滅亡とした。
風の剣聖がわずか一日のうちに王国内を縦横無尽に駆け巡り、貴族を皆殺しにした血生臭い手腕を見せつけられた以上、リスク王国の貴族たちは二度とその街の商隊に手を出す度胸などなかった。
その後、その街は『白鳥城』と改名された。雪のように白く険しい高城と、美しい湖畔の絶景で知られるようになり、やがて『商業と技術の都』とも呼ばれ、王国に数え切れないほどの商業利益と技術革新をもたらした。
そんなある日。
風の剣聖は王国の聖剣を高く掲げ、声を張り上げた。
「本日、俺の名のもとにある十二人の高弟たちが成聖を果たす!――これより『十二の円卓騎士』を結成する!」
直後、白鳥城の円形に巡らされた外城壁から、天をも穿つ十二道もの光の柱が立ち昇った。
青白い光が、それを見つめる外国人の顔をますます青白く照らし出す。
『風の剣聖には、人を意図的に成聖させる能力がある』――。
この情報がもたらした衝撃は、まさに大陸そのものをひっくり返さんばかりの激震であった。
私の小説を読んでいただき、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか?ただいま感想やアドバイスを募集中です。




