↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/53

第53話 七日目の朝

逃げられないと悟った夜、慎一はほとんど眠れなかった。


明け方、うとうとした浅い眠りの中で、声を聞いた。


ひとつではない。無数の声。男も、女も、老いも若きも。みな、どこか遠い水の底から、慎一に語りかけていた。


『おいで』


『こわくない』


『ひとりじゃない』


それは、脅す声ではなかった。むしろ慰めるような、招くような、優しい声だった。井戸に落ちた七歳のあの日、水の中で見た無数の顔。あれは、幻覚ではなかった。彼らは、ずっと待っていた。慎一が、戻ってくるのを。


目を覚ますと、枕が濡れていた。涙ではない。慎一自身の体から、にじみ出た水だった。


手のひらを見る。指のあいだに、薄い膜が張りはじめていた。水かきのような。


慎一はもう、水を恐れていなかった。


それが、何より、恐ろしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。