第16話 進学
アーウィン暦454年4月1日光曜日、メイエル地方にある某学校の教室にて。
「―――、えー、総勢39名のみなさん、ご入学おめでとうございます。これから3年間、同級生と共にね、仲良く国語、算術、魔術を学んでいってくだーさい。出席日数はね、三分の二以上ないと留年するし、飛び級試験も受けられないから注意してくださいね。以上です」
校長先生が教壇に立ち、私達に向かってそう言った。
ここは公立の初等教育が受けられる学校、1年生の教室。
1年生から3年生までの初等教育は義務教育だが、家庭教師を雇う家や子供を学校に行かせない家庭もあるので就学率は高くなく、この学校は一学年1クラスだ。。しかし、国全体の識字率は約80%という江戸時代並みの水準だ。
木造の校舎は少々年季が入っていて建付けが悪いところがあるようで、「うんこらしょ」と扉を閉めて、校長は退室した。
その代わり、若い女性が教壇に立つ。
「みなさん、はじめまして。私が担任のジェシカ・ターナーです。1年間よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします」」
「まず、学校の先生きまり、校則についてお話します。廊下は走ってはいけません。授業は静かに受けましょう。先生の言う事をよくききましょう。先生の許可なく魔術を使ってはいけません。いいですか?」
「「はい」」
ちらりと周りを見ると、存外緊張した面持ちで姿勢をビシッと正し、先生を見ている生徒が多い。数人他所を見ているが。
「学校は、毎週光曜日、土曜日、風曜日にあります。朝8時30分から授業をします。遅れないでくださいね。それでは、今日は自己紹介と魔術のクラスの振り分けをします。明後日からはちゃんと授業をしますよ。じゃ、君から、立って名前を言ってください」
窓側の列の一番前の席、つまり私の前の席の女の子が先生に指され、あたふたと立ち上がった。
「ルビー・アームストロングです。よろしくお願いします」
アームストロング……?
あ! そうだ、お母さんが言っていた気がする。「あのアームストロングさんの孫娘さん、あんたと同い年だよ」って。近所の人たちから慕われている、心では有名なおじいさんの孫か。
「メアリー・ブラウンです。よろしくお願いします」
出席番号2番。
人生初ッ! 嬉しいっ!!
だってだって、前世の苗字は「冷泉」だったんだもん。出席番号は大体最後だったんだもん!
そんな感動をよそに、自己紹介は続いた。
「――みなさん、ありがとうございました。次は、魔術のクラスの振り分けをします。出席番号順に前に来て、魔力放出をしてください。魔術を使える人は魔力放出をせずに、私に伝えてください。ではアームストロングさん、前へ」
彼女はナンバ歩きをしながら先生の前に立ち、魔力を放出した。
指先からゆらゆらと不規則に魔力が出た。
先生が出席簿らしきものにペンで何か書き込んだ。
「はーい、もうや止めていいですよ。あなたは、魔術の授業は3組で受けてください」
「は、はい」
「次、ブラウンさん、前へ」
「はい」
私はてくてくと歩いていき、言った。
「先生、私、魔術を使えます」
「何属性の魔術ですか?」
「火、水、氷、砂、石、紙の魔術です」
途端、生徒がざわめき始めた。
「属性いっぱい……」
「紙属性?」
「何だよ、あの女」
おっと、何だよあの女とは、私が言うのもなんだけど、言葉遣いがよくないな。
もしかして紙はまだ属性が確立されていないのか?
「え、えーっと、じゃあ、火以外の魔術を使ってください。作ったものはこのバケツの中に入れてください」
「はい」
「あっ、みなさん、魔術の授業でも、火魔術は建物の中で使ってはいけませんよ!」
「「はい」」
先生の注意が終わると、私はバケツの上で水、氷、砂、石、紙の順に作り出した。
「―――っ、ブラウンさんは、1組で授業を受けてください」
「はい」
「次の人、前へ」
淡々とクラス分けが行われる。
魔力放出ができない人は4組、魔力制御ができない人は3組、魔術行使ができない人は2組、魔術を使える人は1組、という制度のようだ。
39人中、4組に21人、3組に9人、2組に各8人、1組は私1人となった。
寂しいっ! 頑張ろう。
「国語と算術の授業はこの教室でしますが、魔術は廊下を挟んで向かいの教室でします。帰る時に自分のクラスがどこか、見ていってくださいね。それでは、今日はこれで終わります。
みなさん、さようなら」
「「さようなら」」
椅子を引く音が教室に響き、床から振動が伝わってくる。
私は他の生徒がいなくなるのを待ち、立ち上がって教卓に近づいた。
「どうしたの? ブラウンさん」
「ターナー先生、少し質問があるのですが、よろしいですか?」
「はい、どうぞ。座って話しましょうか」
先生は驚いた顔をしつつも、私の隣の席に座った。私は勿論自分の席に座った。
「9月にある飛び級の試験を受けたいのですが、申込みはいつからできますか? また、5年生までの内容を出題していただいて合格したら、卒業することはできますか?」
「申込みは試験の一ヶ月前、つまり8月までに私に伝えてくれたら大丈夫だよ。でも、1年生が受けられる飛び級試験は、合格して4年生になるのが最大だから、5年生までの内容のテストはできないね」
母には「学校に通いなさい」と言われたけれど、正直初等教育には興味がない。飛び級してもよいか尋ねると、「いいよ」と快諾してくれた。
更に、最短コースで5年生課程まで修了し卒業して魔術学園に行きたいと言ったら、「学費と下宿代、必要経費を全部自分で稼ぐならいいよ。うちにはお金、もうないから」と言われた。
魔法の世界に転生したのだ。この機会に魔法・魔術をしっかり学んでみたい。
5年生までの初等教育の学費は国が全額負担してくれる。留年した場合は全額自己負担になる。
ちなみに、父には一切話していないが、アイツのことだ、私がそこそこマシな成績を取ったら嬉しがるはずだ。飛び級ならもっとだろうな。そして道場で言いふらす。それは嫌だが、生活費を出すようになるかもしれないので我慢しよう。アイツもこの学校に通っていたらしいが、1年生の時に留年・退学しているので、コンプレックスなのだ。
「では、3年生までの内容の試験を受けたいです」
「わかりました。手配しておきますね。ところで、将来の夢はあるの?」
「はい。この学校を卒業したら、メイエル魔術学園に進学したいです。職業はまだ考えていませんが」
メイエル魔術学園は公立で、授業料は国が8割負担してくれる。寮はあるが、自分の家や親戚の家、下宿から通うことも当然許可されている。奨学金もあるので、働けば費用はなんとかできるだろう。
「その年でそれだけ考えてるなんて、立派だよ。頑張ってね」
「ありがとうございます」
見た目は子ども、頭脳は大人ですから。
「他に気になることはありますか?」
「いえ、特には。1年間よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。さようなら、また明後日」
「はい」
生徒の質問に丁寧に答えてくれるターナー先生は、私に好印象を与えた。
図書館の本は一通り読んだから、国語や歴史などは大丈夫だろう。算術は簡単そうだし、魔術も家で使いまくり、理論は本を読んで齧ったからなんとかなるはず。
平穏に楽しく明るい学校生活を送れるよう、努力しよう。




