第1話 転生、そして絶望
「明日から〜、いよいよ〜、新・学・期〜! っーーーー!痛い」
23時。歌っていると椅子に足をぶつけた。ジンジンする。痛みが引くのを待ってから、ベッドにもぐった。
明日への期待に胸が高鳴るばかりで眠れない…ということはなく、案外あっさり意識は闇の中へと落ちていった。
そして、新学期初日の朝。
突然、目が覚めた。
なんだか周りが騒がしい。
周囲を見ると、知らない人達が私を見ている。部屋の空気も彼らの雰囲気も違和感がある。
視界に自分の手がうつった。
は…………?
私の手、可愛い!可愛すぎる!
どう可愛いかと言うと、ちいさくて少し赤くてふにふにであたたかくて可愛い。というか愛しい。尊い。これは生まれたての赤ちゃん並みじゃないか? 私身体的幼児退行したのかな?
いやそんな訳ない!!
これは私の体じゃない。ここは私の家じゃない。私の世界じゃない。
その瞬間、私の本能が告げた。
私、転生した。
えっ死んだの? いつ?
でも、私の勘が間違っているはずがない。前の世界で私は死んで、この世界に転生したのだ。
複雑な気持ちになった。もう友達に会えないのかのな、お母さんの料理食べられないのかな、私の青春はどこに…?
考えたいことはいっぱいあるけど、家庭環境はマシだといいなぁ。他人に興味がある父親と、もう少し精神が安定した母親がいいなぁ。
ここまで考えた時、茶色の目と茶色の髪の中年女性が私を抱き上げた。優しく微笑んでいる。今世での母なのだろうその人が私に言った。
「はじめまして」
なんて言ったか分かっちゃった! これが転生特典? 言葉の響きが英語に似てるけど違う! 知らない言語だ! 最高!! 神様転生させてくれてありがとうございます!!!
新しい言語を知った幸せを噛みしめていると、部屋に人が入ってくる気配を感じた。その気配に既視感(既感感?)を覚える。前世の父に似ている。ゾッとした。
そして、その男が言った。
「おお、女か。じゃあ孤児院に持っていくぞ」
絶望。
* * *
名前はメアリー・ブラウン。覚えやすくていい。
あの時の父の発言に、高齢出産かつ難産で疲れきった母が激怒し、私の孤児院行きを阻止してくれた。
あれからわかったことは、
・ここは「アルカンミア」という国である
・貿易している
・水道あり、電気とガスなし
・近代ヨーロッパ風
国名は、この国にある「アルカン湖」周辺が魔法発祥の地と言われていることが由来らしい。
貿易は盛んで、隣国とは地続きのようだ。
水道があるのはありがたい。
中世ヨーロッパ風は憧れていた。単純に嬉しい。
現在、父は道場で剣術指導、母は調理をしている。
父親は自分の事しか考えず、他の人は皆自分が見栄を張るための道具だと思ってるクソ野郎。壁に向かって話しかけたり、鏡に映る自分に対して「ブラウン先生すごいです!」って言って嬉しそうにしたり。ニヤニヤ笑いながら私とお母さんを殴ったり蹴ったり投げたり。お母さんのお金を盗ったり大事なものを勝手に売ったり。仕事と遊びしかしない、ろくに稼がない。そのくせ外ではいい人のふりをしている。
母親は実家で女中扱いされてこき使われ、祖父から性的暴行を受け、それを見て見ぬふりをした祖母に怒り家出した。そして猫をかぶった父と出会いすぐに結婚するも、父の化けの皮が剥がれて精神が壊れた。
してみたいなあとは思ってよ? 異世界転生。なんか面白そうだったし。しかも魔法がある世界って、憧れてたよ。ファンタジー小説にはいつも心躍ったよ。
でも、ここまで世界観違うのに、どうして家庭環境だけ変わってないんだろう……
転生、そして絶望。
でも、どれだけ考えても変わらないものは変わらない。こうなったら、楽しいことをしっかり楽しんで、あまり悲観せずに明るく生きよう!
では、宣言します。
冷泉美月16歳、転生しました。
メアリー・ブラウン2歳、明るく楽しく生きます!




