シナリオ「満月の夜、生贄は女王になる」
〇超高層ビルのエレベーターの中(夜)
ナオ「八百長だ!」
ナオは両脇を二人のボディガードに掴 まれ、身動きが取れない。
ナオ「ドクターハントが俺を嵌めたんだ!」
ナオの前に穂村がいた。
穂村「ドクターハントがお前を嵌めたかどうかなんてどうでもいい。俺が会長に言われたのはお前がマジックグランプリで優勝しなかったら消せと言われただけだ。優勝することが会長との約束だったんじゃないのか?」
ナオ「優勝したさ。ハントが一点なんてふざけた点数つけなければ。大体、他の四人の審査員が十点満点中十点なのに、どうしてハントだけが一点なんだ? そもそも一点なんてつけるか? おかしいだろ!」
穂村「別におかしくない。ハントにはお前のマジックが一点に見えたんじゃないのか?」
ナオ「そんなわけねぇだろ!」
穂村「大体、お前が悪いんだよ。会長の女に手を出したんだからな」
ナオ「あれは…」
穂村「援助までしてもらっていて義理を欠いたお前が悪いんだよ」
ナオは俯いた。
穂村はエレベータに射しこんでくる月明かりを見た。
穂村「見ろ、ナオ。今夜は満月だ」
ナオは俯いた顔をあげて満月を見た。
〇回想・水樹ヨシノのマンションの部屋
シャンパングラスの中にシャインマスカットがはいっている。
よしの「なんか、満月みたい」
ナオ「そうです、ね」
よしの「改めて乾杯しましょう」
ナオ「俺は会長からよしのさんをとどけるように言われただけですから」
よしの「ナオ君みたいに若い人とゆっくりお話をする機会がないのよ」
ナオ「そうですか……」
よしの「若いっていいわね」
ナオ「よしのさんだって若いじゃないですか? 俺より四つ上なだけでしょ」
よしの「私が若くても会長は七十七よ」
よしのはナオの手に手を這わせた。
よしの「いいわね。この手でみんなを楽しませているの?」
ナオ「手品師ですから」
よしの「私もこの手で楽しませて欲しいわ」
よしのはナオの手を握り、自分の太ももにナオの手を持っていった。
ナオ「いやいや、よしのさん」
よしの「大丈夫よ。会長は初めからこうなることを承知であなたに私を送らせたのよ」
よしの「いや、そんなことないですよ」
よしのはナオをソファに押し倒した。
ナオ「よしのさん。それはマズっすよ」
ナオ(M)「そう、俺は会長の女、水樹よしのと関係をもってしまった。会長は俺のパトロンで経済的な支援と威光の恩恵を受けていた。それだけに会長の女、よしのに口説かれても頑なに断り続けてきた。でも、あの夜だけはなぜだか拒み切れなかった……」
〇回想・会員制高級クラブのバックヤード
穂村「ナオ、会長は大変ご立腹だぞ」
ナオ「あれは」
穂村「言い訳はいい。会長は俺にお前を消せと言った。但し、会長はお前にチャンスをやるとも言った」
ナオ「チャンス?」
穂村「マジックグランプリで優勝しろ。優勝したらお前を許してやるそうだ」
ナオ「マジックグランプリで優勝?」
穂村「そうだ優勝だ。優勝したらお前を許す。それどころか、よしのをお前にやるそうだ。どうだ、いい話だろ。会長の懐の深さ、慈悲深さが伺える。どうだ、やるか?」
ナオ「やる。優勝すればいいんだろ」
穂村「できるのか?」
ナオ「マジックグランプリなら楽勝だ」
穂村「たいした自信だな。さすが会長が目にかけてきたマジシャンだ」
クラブのボーイがナオを呼びに現れた。
ボーイ「ナオ、お呼びだぞ」
穂村「お前が優勝するの、会長は楽しみにしている」
穂村は微笑みクラブから出て行った。
ナオ(M)「マジックグランプリは名をあげようとする駆け出しのマジシャンの登竜門。そんなところに俺はいない。そんな連中と比べられること自体、ナンセンスだ」
ナオ「マジックグランプリでいいなんて、会長も俺の実力がわかってない。もうろくし始めたのかな」
ナオはホッとした顔で呼ばれた客席に 向かった。
ナオ(M)「そう俺は間違いなく優勝するはずだった。審査員の一人、ドクターハントが一点なんてふざけた点数をつけなければ」
〇超高層ビルの頂上の立ち入り禁止区域(夜)
穂村「さすがに高いな」
ナオも眼下に広がる高層ビル群をみた。
穂村はスマホを取り出し、動画撮影をし始めた。
穂村「こうして他のビルを見下ろすと、なんかビルも墓石に見えなくもないな。なぁ、ナオ」
ナオ「……」
穂村「墓石に見えるのは、今からナオがここから飛び降りるからかな」
ナオは真顔だった。
穂村「どうした、そんな怖い顔して。ここから脱出するマジックでも考えているのか? お前を助けに空から見えない糸でも降りてくるのか」
穂村は夜空を見上げた。満月が見える。
穂村「いいお月さま」
ナオ「マジックグランプリは出来レースだったんだな」
穂村「あ?」
ナオ「初めからドクターハントに俺を優勝させないように一点つけさせるつもりだったんだな」
穂村「そいつは知らんよ」
ナオ「マジックグランプリのメインスポンサーは確か獅子王グループ傘下の会社だったよな」
穂村「んん、そうだっけ?」
ナオ「そうだ。あの爺のグループ会社だ」
穂村「会長のことを爺呼ばわりか? それはないんじゃないか? 今まで散々恩を受けてきたろ。それに不義理を働いたのはお前なんだ」
ナオ「あの爺は初めから俺を殺すつもりだったんだ」
穂村「兎に角、俺はお前をここから落として来いと言われただけだ。俺に出来ることはお前が安心して苦しまずにここから落とすことだけだ。それが会長のお前にかける最後のお慈悲だ」
ボディガードの一人がナオに頭巾を被 せた。
ナオ「何すんだよ!」
ボディガードがナオを自由にした。
穂村「見えない方がいいだろ。こんな高いところから落ちるんだ。おいおい、あんまり動くなよ。見えないんだから。それとも自分から落ちるか?」
ナオは動くのを辞め、止まった。
ナオ「わかったよ。お前の好きにしろ」
穂村「お、腹くくったか」
ナオ「もうどうしようもねぇや」
穂村「なんだ、マジシャンなのに諦めるのか? 会長は命がけで藻掻く人間の姿を見るのが好きなんだがなぁ」
穂村は動画でナオを撮影している。
ナオ「あの変態爺」
穂村「ナオ、お別れの前に一つ教えてやるよ」
ナオ「何を?」
穂村「ここが都市伝説の場所だってこと、知ってるか?」
ナオ「都市伝説の場所? 一体何の伝説なんだ」
穂村「ここは飛び降り自殺の名所なんだ。その界隈では有名な話だ」
ナオ「それがどうして都市伝説なんだよ」
穂村「それはな、ここから飛び降りた人間の体が見つからないんだよ。地面に肉片も血痕見つからない。飛び降りたのに飛び降りた人間の痕跡がないっておかしいだろ。だから都市伝説って言われてるんだよ」
ナオ「そんなの、飛び降りたように見せかけて飛び降りてない。ただのふりだ」
穂村はスマホを一人のボディガードに 渡した。
穂村「なるほど。それがマジシャンとしての種明かしか。じゃぁ、その都市伝説も今夜で終わりだな」
穂村はナオの腹を思いっきり蹴った。
ナオの体が宙に浮き、超高層ビルの外に出て落ちていった。
頭巾を被らされているナオは「うわぁ」と叫びながら落ちていく。満月の明かりが超高層ビルの窓ガラスを照らし、落下していくナオを満月が追うようにナオを照らし、ナオは光に包まれ、消えた。
穂村にナオの叫び声が聞こえたが、すぐ聞こえなくなった。
穂村はスマホの動画撮影を止めた。
穂村「帰るか」
〇超高層ビルの地上(夜)
穂村と二人のボディガードが超高層ビ ルから出た。
二人の巡回中の警察官が現れた。
穂村と二人のボディガードは立ち止ま り、そ知らぬふりをし背を向けた。
警察官A「やっぱり、こっちはいいですよね。酔っ払いもいないし。第一、人が少ない。駅の向こう側の繁華街なんて酔っ払いや喧嘩で夜が一番忙しいですからね」
警察官B「そうだな。夜勤やるならこっちだよな」
警察官A「まぁ、何もないっていうのも、それはそれで気が抜けますけどね」
警察官B「俺たちが暇ってことは平和ってことだ」
警察官A「そうですね」
二人の警察官は穂村たちの前を去って 行った。
穂村は、警察官の後ろ姿を見てからボディガードAに声をかけた。
穂村「ナオが落ちた場所、見て来い」
暫くすると穂村の前に高級車がやって きて停車した。
穂村が車に乗ろうとしたとき、ナオの死体を見に行ったボディガードAが慌ててやってきた。
ボディガードA「死体がありません!」
穂村「死体がない?」
ボディガードA「はい!」
穂村「無いわけないだろ。肉片になったんじゃないか」
ボディガードA「肉片もありません! 何もありません!」
穂村「血は? 血の跡ぐらいあるだろ」
ボディガードA「血も何もないです!」
穂村「そんなわけねぇだろ!」
穂村は車に乗らずボディガードAと一緒にナオが落ちた場所に向かった。
ボディガードA「落ちたのならこのあたりです」
穂村は地面を見た。石畳の綺麗な地面。
ボディガードA「どこかに引っかかってるんですかね」
ボディガードAは超高層ビルを見上げた。
穂村も超高層ビルを見上げた。
窓ガラス張りの頂上まで凹凸のない垂 直平面のビル。
穂村「引っかかるって、どこに引っかかるんだよ」
ボディガードA「そうですね。どこでしょう?」
穂村は超高層ビルの窓ガラスには満月 が写っていた。
〇断崖絶壁の下の浜辺(夜)
満月の月明かりの下、干潮で潮が引いた浜辺をヨシノは石をもって歩いている。
ヨシノは長方形の麻布の中央に穴をあ け、そこから頭を通し、腰あたりに紐を巻いた貫頭衣を着ている。
ノハナ「お姉ちゃん!」
ヨシノは声の方を振り向いた。
同じ貫頭衣を着たノハナが走って来る。
ヨシノ「ノハナ」
ノハナ「お姉ちゃん、やっぱここに来たんだ」
ヨシノ「満月や新月のときは海に近づいちゃダメって言ってるでしょ。今は潮が引いてるけどまた飲み込まれてしまうんだから」
ノハナ「お姉ちゃんはいいんだ?」
ヨシノ「私は、ちゃんと危険がわかるから」
ノハナ「お姉ちゃんは月がよめるもんね。何持ってるの?」
ヨシノはノハナに石を見せた。
ノハナ「なんて書いたの?」
ヨシノ「みんなが楽しく、幸せに暮らせるますようにって。それと、神のもとに召されるミカハが幸せになれますようにって」
ノハナ「ミカハ……。なんか寂しいね」
ヨシノ「……」
ヨシノとノハナは手を繋いで干潮で潮 が引いた浜辺を歩き、干潮で現れた岩のほこらに向かった。
岩のほこらに石を置いた。
二人は手を合わせて祈った。
満月の明かりを浴びながら祈った。
ナオ「うわぁ!」
突然、二人の後ろから叫び声が聞こえた。
ヨシノとノハナは叫び声の方を見た。
三十メートルほどの断崖絶壁の下の浜 で何やらバタバタを動く姿を見えた。
「うわぁ!」叫び声はやむことなく続き、浜辺一体に聞こえた。
ヨシノとノハナは叫び声の方に向かっ て砂浜を走った。
ヨシノとノハナは頭に頭巾を被り、手足をバタつかせ、「うわぁ」と叫び続ける人に恐る恐る近づいた。
ノハナ「これ何?」
ヨシノ「人じゃない?」
ノハナ「なんか、見たことないもの着てるよ」
ヨシノとノハナはスーツ姿の人を初めて見た。
ヨシノ「兎に角、私が抑えるからノハナは頭に被ってるものを取って」
ノハナ「分かった」
ヨシノはバタついているナオの上に体 を乗せて押さえつけようとした。
ヨシノ「動くなって!」
ナオは相変わらず「うわぁ!」と叫び続けている。
ヨシノ「ノハナ! 早く頭の奴、取って」
ノハナ「うん!」
ノハナは頭の頭巾を取った。
ナオの顔が現れた。目を瞑りながら「うわぁ!」と叫びながら手足をバタつかせ続けている。
ノハナ「お姉ちゃん。止まらないよ!」
ヨシノ「止まれ!」
ヨシノはナオの顔を思いっきり叩いた。
ノハナ「止まった」
ナオは止まり、目を開けてヨシノを見た。
ナオ「……よしの」
ヨシノ「え?」
ヨシノは水樹よしのと瓜二つ。
ヨシノはナオから離れた。
ナオはゆっくり体を起こし、前方を見た。
海の上に満月が見えた。
ナオは手を握り、目の前で手を開いた。手のひらから砂が零れ落ちた。
ナオ「ここはどこ?」
ヨシノ「どこって……」
ナオ「どうしてよしのさんがいるの」
ヨシノ「……」
ノハナ「ヤマタイだよ」
ノハナがナオの顔を覗き込んでいった。
ナオ「ヤマタイ? ヤマタイってあの世のことか」
ノハナ「はぁ?」
ナオ「俺は、死んだのか……」
ナオは前方に見える海と満月を見た。
ノハナ「なんか、この人、わけわからないこと言ってるよ。それに変なの着てるし」
ヨシノ「そうね」
ナオ「波の音が聞こえる」
ノハナ「お姉ちゃん。どうする?」
〇ヨシノの家族のいる集落(夜)
ナオはヨシノとノハナの集落に連れて 行かれた。
集落の人々はみな、ヨシノやノハナと同じ貫頭衣を着ている。茅葺きの屋根を被せた家があり、所々に松明がある。
人々は見馴れるカッコをしているナオ を不思議そうに見たが、ナオもまた不思議そうに人々や家を見た。
ナオ「確か、上野の科学博物館であんな服着た人形、見たような気がする……」
オトシカ「ヨシノ!」
家の前で父のオトシカ、母のナギリ、兄のタケヒト、弟のサヒトモの四人が待っていた。
ヨシノ「おとう!」
ナギリ「ヨシノ。その人は?」
ノハナ「岩のほこらに行ったらいたの」
ヨシノ「もしかしたら神の遣いじゃないか、と思って」
オトシカ「神の遣い?」
ノハナ「手足をバタつかせて、まるで矢に撃たれた人にしか見えなかったけど」
ナギリが集落の人々の視線を気にして
ナギリ「兎に角、中に入りましょう」
〇ヨシノの家族が住む竪穴式住居の中(夜)
茅葺き屋根の中は地面を掘って床を作 り、茅葺き屋根を被せた竪穴式住居。
ナオ「こりゃ一体、いつの時代だ?」
囲炉裏の囲むように座った。
オトシカ「そんな見馴れるものを身にまとって、お前はどこから来た?」
ナオ「どこから来たって、マジで言ってんのか」
タケヒト「マジ? マジとはなんだ?」
ナオ「なんていったらいいのかな。少なくともここではない。この時代ではない。……未来。そう、遠い未来。遠い遠い未来。未来って分かる?」
オトシカたちはピンと来てない。
ヨシノ「未来って、先のこと?」
ナオ「そう! ずーとずーと先のこと。その先から来た、と思う。たぶん」
ヨシノ以外はどうもピンと来てない。
タケヒト「クナのものではないのだな」
ナオ「クナ? クナって何?」
サヒトモ「クナも知らないのか?」
タケヒト「クナは神を信じない敵だ」
ナオ「敵?」
ナレーション「ナオは話した。自分がクナの回し者でないことは伝わった。そして、ナオは自分が別の世界から来たことを話したが全く理解されなかった」
ナオ(M)「一体ここはどこなんだ。もしかして、これが死後の世界?」
〇弥生時代の稲作と食事
ナレーション「郷に入れば郷に従え。ナオはオトシカたちと集落の人々と生活を共にし稲作に従事した。一緒に働くナオを集落の人々は受け入れた。そして生きるために食べる。ナオは食べ物を食べるたびに、死後の世界に来たのではなく、自分は過去の世界にタイムスリップしたのではないか、と思うようになった。しかしそれはあまり考えなかった。考えても仕方のないこと。とりあえず今を受け入れ、生きることに決めた。そう前向きになれたのはヨシノの存在だった」
ナオ(M)「見れば見るほど水樹よしのに似ている。いや、水樹よりこっちのヨシノの方が俺はいいや」
ヨシノ「ナオ。ミカハに会いに行かない?」
ナオ「ミカハ? ミカハって」
ヨシノ「私の友達。ナオのこと話したら会ってみたいって言われたの」
ナオ「別にいいけど」
ノハナ「ミカハはね、次の満月に神に捧げられるの」
ナオ「神に捧げられる?」
ヨシノの顔が曇った。
タケヒトも動きを止めた。
ナオ「神に捧げられるって、何?」
ノハナ「今度の満月の夜、命結びの儀式にミカハは神への供物として捧げられるの」
ナオ「神への供物って、それって、生贄のこと?」
タケヒト「生贄ではない。供物だ」
ナオ「言い方の違いだろ」
タケヒト「大きな違いだ」
ナオ「同じだよ」
一同、沈黙した。
ナオ「兎に角、ミカハに会いに行こう。俺も会ってみたい」
〇大集落の中央
ナオはヨシノに連れられ大集落に来た。
大集落の中央には高床式住居が並び、ナオたちが住む家とは違っていた。
ナオ「随分立派な建物があるんだな?」
ヨシノ「そうよ。真ん中にある家に神の声を聞き、このヤマタイを動かす呪術師のホノミコさまが住み、そこで祭祀が執り行われるの。その隣の家がこのヤマタイをまとめている部族の長たちがいるのよ」
ナオ「ご挨拶でもした方がいいのかな」
ヨシノ「会えないわ。特にホノミコさまには。神への儀式のときだけあそこから現れるの」
ヨシノは高床式住居の祭壇を指さした。
屋根が大きく前に張り出し堂々としていて荘厳である。
ナオ「ミカハはどこにいるの?」
ヨシノ「ミカハは奥の供物の間にいるわ。神に捧げられるため今は限られた人としか会えない」
ナオ「俺はいいんだ」
ヨシノ「私の知り合いだから」
ナオ「知り合いね……」
〇高床式住居の供物の間
ミカハのいる高床式住居の前に二人の 槍をもった戦士がいた。
槍を持った戦士は直立不動のまま。
二人は高床式住居の階段を登った。
ヨシノ「ミカハ、ヨシノです」
戸が開き、ミカハが現れた。
ミカハ「ヨシノ!」
ヨシノ「今日はこないだ話していたナオを連れて来たよ」
ミカハ「あなたがナオね。なんでも私たちとは違うところからやってきたとか」
ミカハはヨシノや集落の女性とは違い ふくよかな女性だった。
ナレーション「ナオはミカハに自分がいた世界のことを話した。話しても勿論、理解はされなかった」
ナオ「俺がいた世界で俺が何をしていたか、少し見せてあげるよ」
ヨシノ「え、何?」
ナオは何もない手の平からコインを出 す初歩的な手品を見せた。
ヨシノとミカハ、「え⁉ 何今の!」と素直に驚いた。
ナオは続けて片手に握られているコイ ンの上に手を乗せてコインが手を通り抜けて手の甲に出る手品を見せた。
ミカハ「え、今、握られていたこの丸いのがなんでそこにあるの!」
ナオ「こんな初歩的な手品でこんなに喜んでくれるなんて二人ともいいお客さんだな」
ヨシノ「え、ナオって鬼道を使うの?」
ナオ「鬼道って?」
ヨシノ「ホノミコさまのように神の力、呪術よ」
ナオ「これは手品っていうんだ。神の力じゃないよ」
ミカハ「すごーい! もう一回出来る?」
ナオ「何度でも出来るよ」
ミカハ「ほんと!」
ナオは手品を見せるたびに二人は驚き、盛り上がった。
ヨシノは横目でミカハを見た。
ミカハはとびっきりの笑顔をしていた。その笑顔を見たヨシノは神妙な面持ちをした。
〇ヨシノの家の集落までの家路(夜)
ナオ「いやぁ、こんなに喜んでくれるのなら、俺がこのヤマタイの呪術師になろうかな」
ヨシノ「今日はありがとう。なんか久しぶりにミカハのあんな笑顔、見たわ」
ナオ「ミカハはみんなよりぽっちゃりしてるね」
ヨシノ「神に捧げる供物が貧相ではいけないからいいものを食べさせられるの」
ナオ「そうか。生贄だもんな」
ヨシノ「神への供物よ」
ナオ「どっちも同じだよ。で、次の満月っていつなの」
ヨシノは夜空を見た。
ヨシノ「そうね。あと十四日」
ナオ「十四日? どうしてわかるの?」
ヨシノ「空を見れば分かるわ」
ナオ「空?」
ヨシノ「月がないでしょ」
ナオ「ほんとだ、月がない」
ヨシノ「新月だから月が見えないの。満月から次の満月まで二十八、九日かかるの。月が見えないから今は新月。これから七日経つと右側が輝く半月が見えるわ。そこから七日経つと満月になるの。だからあと十四日」
ナオ「そうなの?」
ヨシノ「そうよ」
ナオ「へぇ、結構、科学的なんだな」
ヨシノ「カガクテキ?」
ナオ「いや、俺はもっとこの時代の人は何も考えず、漠然と生きてると思ってたから。案外知的なんだな」
ヨシノ「はぁ?」
ナオ「いいよ。わからなくて。ただの俺の独り言」
〇ヨシノの家族がいる竪穴式住居の中(夜)
皆が眠る中、ヨシノはタケヒトを起こした。二人は静かに表に出た。
〇誰もいない森の中(夜)
ヨシノ「今日、久しぶりにミカハの笑顔見たわ」
タケヒト「そうか」
ナオ「いいの? 私知ってるんだからね。兄さんが他の人と結婚しない理由。ミカハのことが好きなんでしょ! 私知ってるんだから!」
タケヒト「俺にどうしろというんだ!」
ヨシノ「逃げて! ミカハを連れて逃げて!」
タケヒト「そんなこと出来るか! そんなことしたらおとうやおかあ、お前に災いが及ぶかも知れないんだ!」
ヨシノ「大丈夫。そんなことにはならない。そうはならないから逃げて! ミカハが神の供物にされることが私、耐えられないの! お願いだから逃げて。ミカハを連れて逃げて!」
ヨシノは泣き、タケヒトに懇願した。
タケヒト「ヨシノ……」
タケヒトはヨシノを抱きしめた。
ヨシノ「兄さん」
その姿を木の陰からナオは聞いていた。
〇大集落の中央
ナレーション「翌朝、大集落は蜂の巣を突いたようになっていた。ミカハが消えたのだ。ミカハを見張る二人の戦士は負傷し、一人がタケヒトがミカハを連れていったと告げた。ヨシノたち家族は沙汰があるまで家で監禁された」
〇ヨシノの家族の竪穴式住居の中
ノハナ「どうなるの⁉」
ヨシノ「大丈夫」
ヨシノだけは家族の中で落ち着き払っ ていた。
ナオ「どうして大丈夫と言える?」
ヨシノ「何も変わらない。あるべき姿にもどるだけだから」
ナオ「あるべき姿?」
ヨシノは目を閉じたまま何も答えなか った。
一人の槍をもった戦士が布扉をめくっ て言った。
戦士「オトシカとその家族の者、外に出ろ」
〇同・ヨシノの家族の竪穴式住居の外
オトシカたちは家の外に出て正座した。
最後にナオが外に正座しようとしたと き、ナオは槍をもった二人の戦士を従えている身分の高い装飾をしている男を見て驚いた。
ナオ「穂村!」
ウボロギ「ああ?」
ナオ「なんでお前がここにいるんだ!」
ナオはウボロギに掴みかかったが二人 の戦士が止めた。
戦士「無礼者! ウボロギさまに気やすく触るな!」
ナオ「ウボロギ? 穂村じゃないのか?」
ウボロギ「お前か、浜辺にいた訳の分からない男というのは」
戦士「さがれ!」
ナオはオトシカに掴まれ、正座した。
ウボロギ「ホノミコさまと長たちの取り決めを伝える。神の供物であるミカハは逃げたが、次の満月の夜に命結びの儀式は執り行う。神の供物としてミカハの代わりにヨシノに供物になってもらう」
ヨシノの家族は驚いた。
ナオも驚いたがヨシノだけは目を閉じ 冷静だった。
ウボロギはヨシノに顔を近づけた。
ウボロギ「逃げるなよ、ヨシノ。お前が逃げたらノハナを生贄にするからな。覚えておけよ」
ヨシノ「逃げたりしません。喜んで神の供物になります」
ウボロギ「いい心がけだ。ヨシノは供物の間に連れて行く。あとで迎えに来る」
ウボロギと二人の戦士は去って行った。
ナオ「あの野郎。この時代でもムカつく奴だ」
〇同・ヨシノ家族の竪穴式住居の中
ノハナはヨシノに縋り泣いた。ナギリもまた声を殺して泣いた。オトシカもまた目に涙を浮かべていた。サヒトモはジッと涙をこらえていた。
ナオは見ているのが辛かった。
ヨシノ「ノハナ、おかあ、そんな泣かないで。これでいいんです。これで。兄はミカハと一緒に逃げてくれて、ほんとこれで良いんです。私はずっとこれを望んでいたから」
ノハナ、ナギリは一層泣いた。
ナオ「どうしてこれでいいんだ? ヨシノは一体、何を望んでいたんだ」
ヨシノ「ナオにはわからないと思うけど、私たち一族は神への供物になるために生まれてくるの。そして本当は私が神に捧げられるはずだった。でも、子供の頃、体が弱くて供物になるまで生きられないと言われてミカハが代わりに神への供物になったの。でも、私は今もこうして生きている。病弱だった頃の私じゃない。だから私が供物になるのは当然のこと。それに兄はミカハを愛していた。だから、余計、私の代わりにミカハが供物になることが私は耐えられなかったの」
ナオ「だから、タケヒトにミカハを連れて逃げてと言ったんだ」
ヨシノ「どうして知ってるの?」
ナオ「枕が違うと中々寝付けないんでね」
ヨシノ「おとう、おかあ、兄を恨まないで。私は二人に幸せになって欲しいの。あるべき姿に戻っただけなんだから。本当にこれでいいの。ずっと前からもう覚悟は決めていたから」
家族は泣いた。ヨシノは優しい笑みを湛え「泣かないで」と皆に声をかけた。
ナオは険しい顔をして立ち上がり外に 出ようとした。
ヨシノ「ナオ、どこ行くの」
ナオは振り返ることなく外に出た。
ナオ「そんなこと聞かされて。いいわけねぇだろ。生贄の家に生まれたから生贄にならなくちゃいけない。そういうの、めちゃくちゃムカつくんだよ!」
〇ヨシノの家族の竪穴式住居の外(夜)
ヨシノは迎えの者に大集落の供物の間に連れられて行く姿を家族は泣きながら見送った。
ナオ「ノハナ、泣くな」
ノハナはナオを見た。
ナオ「ピンチはチャンスって言葉がある。満月までまだ時間はある。それまでに出来ることがあるだろう」
ノハナはピンとこない顔をする。
〇大集落の中央(夜)
ナオは一人、人目を忍んで松明の炊かれている儀式が行われる大集落の高床式住居がある祭祀を偵察した。
ナオ「あそこからホノミコが現れる」
生贄を火あぶりにする台と生贄を縛り つける棒を見た。
ナオ「なるほど、ヨシノはあの棒に縛られて焼かれるのか」
ナオは周りを伺い、台の上の棒のところにいき棒を揺らした。
ナオ「……抜ける」
ナオは高床式住居の張り出した屋根を見上げた。ナオの手に小さな滑車が三つ握られている。
〇高床式住居の供物の間(夜)
ナレーション「ヨシノはナオからもらったコインでナオから教わった手品をやっていた。全くできないがヨシノは飽きることなく笑顔でやり続けた。そうこうしているうちに儀式の当日、満月の日がやってきた……」
〇ヨシノの家族の竪穴式住居の中(夕)
ウボロギが二人の戦士を連れてオトシカたちの家にやってきた。
ウボロギ「お前たちは儀式が終わるまで腕を縛らせてもらう」
二人の戦士はみんなの腕を後ろ手に紐 で縛った。
ウボロギ「儀式が終わったら解いてやるから、それまで大人しくしてろよ」
ウボロギと二人の戦士は家を出て行っ た。
ナギリは泣いた。
するとナギリの前にナオが立った。
ナオは後ろ手に縛られた紐をナギリの 前に放り投げた。
ナオ「ナギリ、そんなに泣かなくてもいいよ」
オトシカ「ナオ! 腕は?」
ナオ「こんなの縛ったうちには入らない。俺は子供の頃、ハリーフーディーニの伝記を読んで育ったんだ。ハリーフーディーニは手錠破りの名人で、といっても分からないか」
ナオはサヒトモとノハナの紐を解いた。
ナオ「サヒトモ、ノハナ。ヨシノを助けるから手伝ってくれ」
ノハナ「え⁉ 手伝うってホノミコさまに逆らうの?」
サヒトモ「そんなことは出来ない!」
ナオ「逆らわないよ。ホノミコの儀式の邪魔をするつもりはない。いや、逆に、お手伝いをさせてもらうのかな」
サヒトモとノハナはピンとこない顔。
ナオ「オトシカとナギリはここで待ってて」
ナギリは心配そうな顔をした。
ナオ「大丈夫、ちゃんとヨシノを連れて帰って来るから」
〇大集落の中央(夜)
夜空には満月。
大集落の広場に人々は集まり、高床式住居の中央の祭祀の場を取り巻いていた。
踊り子たちが踊り儀式を盛り上げた。
その様子をナオ、サヒトモ、ノハナは物陰から見ていた。
ナオ「なんかお祭り気分だな」
サヒトモ「儀式は神をお迎えするものだ。楽しくなければ神は来ない」
ナオ「ヨシノが生贄にされるのに?」
サヒトモ「生贄ではない。供物だ」。
ナオ「まぁいい。あの台の上の棒にヨシノが生贄として縛られるんだろ?」
サヒトモ「そうだ」
ナオ「ノハナ、お前はヨシノが縛られたとき、ヨシノの体に藁が積まれる。藁を積むふりをしてヨシノの腰にこのベルトを巻け。いいか、藁を積むふりをして巻くんだ。手品っていうのはふりが大切なんだ」
ノハナ「わかった」
ナオ「もう一度、そのベルトを俺に巻いてみろ」
ナオはノハナの前に立った。ノハナはベルトをナオの腰に強く巻いてみせた。
ナオ「よし。これでいい」
ナオはピアノ線がまいてある糸巻きを サヒトモに見せた。
ナオ「サヒトモ、さっきも言ったがピアノ線はベルトと繋がっている。俺がこの糸巻きを引っ張れといったら引っ張るんだ」
サヒトモ「その紐、見えないんだよな」
ナオ「お前が引っ張らないとヨシノは丸焼きになるぞ!」
サヒトモ「分かったよ!」
ナオ「いいか、二人とも。失敗は許されない」
ナオ、サヒトモ、ノハナは人々の中に紛れ込んだいった。
踊り子たちの踊りが終わった。
高床式住居の祭壇にホノミコが現れた。
ホノミコの脇に部族の長たちが並んだ。
ナオ「ホノミコさまってあんな老婆なのか?」
サヒトモ「お身体が良くないから命結びの儀式を行うんだ」
ナオ「なんだ、自分の為か」
一人の長、ヤツカミが立ち上がり人々に向かって 号令をかけた。
ヤツカミ「みな、静まれ! 今からホノミコさまが命結びの儀式を執り行う。神への供物を用意せよ」
ヨシノが現れ、後ろにウボロギがいる。
ヨシノは自ら神の供物として台に乗り、自分を縛る棒の前に立った。
ウボロギが続いて台に乗りヨシノの手 を棒の後ろに持ってきて縛った。
ウボロギ「神に捧げるには惜しいなぁ」
ヤツカミが号令をかけた。
ヤツカミ「藁を積め!」
ナオ「ノハナ、上手くやれよ」
ノハナは頷き、藁を積む人の中に入った。
ヨシノに藁を積むのが終わるとみなヨ シノから離れた。
ノハナ「ちゃんと巻いてきたよ」
ナオ「よし!」
ノハナ「お姉ちゃん、元気だったよ」
ナオ「そうか。次は俺とサヒトモの番だ。サヒトモは家の裏で待ってろ」
サヒトモは高床式住居の屋根を見た。
サヒトモ「ナオ、登れるのか」
ナオ「登れるよ。行くぞ」
ナオは糸巻きからピアノ線を出しなが ら高床式住居の横に来た。
ナオは住居の横に置いて置いた棒、三本を高床式住居に立てかけた。三本の棒は長さが違い、その段差を階段に見立てた。
ナオは糸巻きを口にくわえ屋根に上が り頂上に跨った。
ナオ「よし!」
ナオは祭祀の見える屋根の前に行った。
斜め下に棒に縛られているヨシノの後ろ姿が見えた。儀式を見届けようとする人々の姿も見えた。張り出した屋根の真下にホノミコがいて祈りを捧げている。
ナオ「やべ、急がないと!」
ナオはあらかじめ張り出た屋根の先に付けた滑車にピアノ線を乗せた。そして、屋根の奥に行き、そこにも設置した滑車にピアノ線を乗せた。真下にはサヒトモが手を振った。
ナオはサヒトモに向かって糸巻きを投 げた。サヒトモは地面に落ちた糸巻きを手に取った。サヒトモが手で丸を見せた。
ナオはまた屋根の前に行った。
ヤツカミが号令をかけた。
ヤツカミ「松明をもて!」
従者たちが松明を持った。
ヤツカミが号令をかけた。
ヤツカミ「神に供物を捧げるのだ!」
松明を持った従者たちがヨシノが縛ら れている藁に火をつけ始めた。
ナオ「やばい!」
ナオは屋根を走り、サヒトモに叫んだ。
ナオ「サヒトモ、引っ張れ!」
サヒトモが引っ張るも滑車の糸は弛ん だ状態。
ナオ「何やってるんだよ! 早く引っ張れ!」
その頃、ヨシノは炎の熱を感じ、顔を背け、炎は確実にヨシノに迫った。
ナオ「サヒトモ!」
サヒトモはピアノ線をしっかりつかみ 無我夢中で引っ張り出した。
滑車にのせてあるピアノ線がピンと張 った。
前方の滑車までピアノ線はピンと張っ た状態になった。
ナオ「引っ張れ!」
ヨシノに炎が近づき、ヨシノは気を失うと同時に突然、ヨシノが宙に舞った。
ヨシノが焼かれるのを静寂をもって見 守っていた群衆から声が上がった。
群衆「浮いた! ヨシノが浮いた!」
群衆「おおおおおおお!」
ホノミコは目の前で宙に舞ったヨシ ノをみて驚き、姿勢を崩し、高床式の祭祀の上から地面に落ちて死んだ。
ヨシノは宙に舞い、炎から離れ、高床式住居の屋根に設置した滑車に近づいた。
ヨシノは高床式の屋根の下で上下しな がら宙に舞った。ヨシノも気絶したまま、棒に縛られた状態で宙に舞っていた。
ナオは屋根の後ろに行った。
ナオ「サヒトモ! そのまま持ってろ! 手を離すなよ! 手を離せばヨシノが丸焼けになるんだからな!」
サヒトモは必死の形相でピアノ線を持 ち続けた。
ナオは屋根から地面に降りて群衆の前 に立った。
ナオ「皆の者、よく聞け! 神はヨシノに宿った! 神はヨシノと一体になった! ヨシノは今、神と通じてるのだ!」
群衆は自ら跪き、両手を振りかぶって平伏し、額を地面に擦りつけた。
ナオは宙に浮いているヨシノを見た。
ナオ「これぐらい分かりやすいのが丁度いい」
ヨシノを引っ張り宙に浮かせているサ ヒトモに限界が迫っていた。
サヒトモ「うう!」
するとヨシノが上がったり、下がったり、激しく上下動し始めた。
ナオ「よく見ろ! ヨシノは今、神と踊っている!」
群衆「おお!」
群衆は何を言われても驚くことしか出 来ない。
サヒトモの腕はプルプル震えている。
サヒトモ「紐が滑る!」
ヨシノは地上に落ちた。
ナオは群衆に向かって言った。
ナオ「みなヨシノを見るな! 見てはならぬ! 頭を下げろ! さもないと天罰が下るぞ! 決して頭をあげてはならん!」
群衆も部族の長たちも全ての人が頭を 下げ、平伏した。
ナオは地面に落ちたヨシノのところに 行った。ノハナもサヒトモもやってきた。
サヒトモ「ヨシノは!」
ナオ「今のうちに家に帰るぞ!」
ナオは再び群衆の前に出た。
ナオ「みなの者、頭を下げたまま聞け! ヨシノを謀ろうとする者は神の天罰が下る! いいか、覚えておけ! 神がヨシノに宿っていることを!」
人々は目を瞑り、額を地面に擦りつけた。
サヒトモは気を失っているヨシノを背 負って小走りに大集落の中央から出た。
ナオ「まぁ、手品でいうなら十点満点中一点の手品だ。いや手品とは言えないが、上出来だ!」
三人は笑顔で小走りに家に帰った。
〇高床式住居の祭祀の間(夜)
ホノミコの遺体が上座にあり、その前に部族の長、六人が集まっている。
イツワカ「ホノミコさまは天に召され、ヨシノは神と通じた」
ヤツカミ「だが、ヨシノは神と交信する巫女の一族ではない。神の供物として生まれる一族だ。このヤマタイを導く者ではない」
イツワカ「では、あれはなんだ! ヨシノは宙に浮いたぞ!」
タカミネ「神は現れ、ヨシノと通じたのだ! いや、ヨシノの体に神が宿ったのだ! そうとしか考えられない!」
クツヒコ「そうだ! ホノミコさまと通じていた神がヨシノに宿ったのだ!」
クニヨリ「我々はそれを目の当たりにしたのだ! 神は現れ、ヨシノに宿った」
ヤツカミ「しかし、ヨシノは神と通じる巫女の出ではない」
アラクニ「なら、名前を変え、格をあげればいいのではないか」
〇ヨシノの家族の竪穴式住居の中(夜)
ヨシノは安らかな寝顔をしていた。その寝顔をナギリは嬉しそうに見ていた。
オトシカ「どうしてヨシノが戻ってこれたんだ。また神の供物が逃げたと言われないか?」
ナオ「分からない。けど逃げて来たわけでもない。ただ」
オトシカ「ただ?」
ナオ「またヨシノを生贄にするといったら、今度はもっと華麗に宙に舞わせる。本当に神が降臨したかのように。それでもヨシノを生贄にするというのならここから逃げるしかない」
オトシカ「それは無理だ。私たち一族は神の供物になるために生まれるのだ」
ナオ「なんだよ、その生贄になるために生まれるって。それがムカつくんだよ。まぁ、今日は疲れた。もう寝よう。明日は明日の風が吹くだ」
ナオは寝っ転がった。するとノハナがナオに寄り添うように寝てきた。
〇同・朝
サヒトモ「ナオ! 起きろ」
ナオ「ん、なんだ?」
サヒトモ「呼ばれた」
ナオ「呼ばれた?」
〇大集落の高床式住居の控えの間
ナオとヨシノたち家族がいる。
一人の女官が来てヨシノにお辞儀をし た。
女官「こちらへ」
ノハナ「お姉ちゃん!」
ノハナは不安な顔をした。
女官はヨシノを連れて行った。
〇同・祭祀の間
ヨシノが祭祀の前に入ると部屋の両脇に部族の長たちが座り、上座が空いていた。
女官はヨシノを上座に連れて行った。
ヨシノは恐る恐る上座に座った。
上座の傍にいるアラクニがヨシノの方を向いた。
アラクニ「ヒミコさま」
ヨシノ「ヒミコさま?」
アラクニ「今からはヨシノではなくヒミコと名を変え、このヤマタイの女王としてこの国を治めて頂きたい」
ヨシノ「は?」
イツワカ「神を恐れぬクナの者どもに神の存在を知らしめることが出来るのはヒミコさまをおいて他にいません」
タカミネ「ぜひヤマタイの女王として我々をお導きください!」
長一同、頭を下げた。
ヨシノ「え⁉」
ヨシノは困惑した表情を浮かべた。
〇同・大集落の高床式住居の控えの間
ヨシノが入ってきた。
オトシカ「どんな沙汰が下ったんだ?」
ヨシノ「女王になっちゃった」
オトシカ「え?」
ヨシノ以外、一同、驚いた
オトシカ「もう一度、言ってくれ」
ヨシノ「女王ヒミコとしてこのヤマタイを治めてくれって」
みな、愕然とした。
ナオ「ヒミコ?」
ヨシノはナオを見た。
ナオ「ヨシノってヒミコなの?」
ナオとヨシノは見つめ合った。
〇高床式住居の祭壇(午後)
ヨシノはヒミコとして豪華な衣装や装 飾品を身に纏い、人々の前に立った。
人々は昨夜のこともあり「ヒミコさま!」と呼び、大いに歓喜した。
ヒミコの隣にサヒトモも豪華な衣装に 装飾を身に纏い立った。
離れたところにナオたちがいた。
ナオ「名前って変わるの?」
ノハナ「名前は変わるよ。よくあるのは子供が大人になると名前を変えたりする」
ナオ「ああ、なるほど。確か、徳川家康が子供の頃、竹千代って言われていたやつだ」
ノハナ「はぁ?」
ナオ「でも、スゲェな。生贄だったヨシノが女王になっちゃうなんて」
群衆「ヒミコさま!」
〇断崖絶壁の上(夜)
満月が少し欠け始めていた。
ナオとヨシノとノハナの三人が断崖絶 壁の上に立っていた。
ナオはここに来た時のスーツ姿。
ヨシノ「ナオが現れたのは満月の夜だった。だからもしかしたら満月の夜、ここから飛び降りればナオは自分の世界に戻れるかもしれない」
ナオ「かも? かもってことは戻れないかもしれないってこともある?」
ナオは絶壁の下を見た。三十メートル下の断崖に激しく打ち寄せる波が見える。
ヨシノ「そうね。そんなの誰もやったことないから。でも、ここがナオの世界と繋がってるのかもしれない」
ナオ「やっぱ、かもなんだ」
ヨシノ「まぁ……」
ナオ「じゃぁ、戻れなかったら」
ノハナ「私が埋葬してあげる。お花でいっぱいにしてあげるね」
ナオ「埋葬は無理だ。波がここまで来てる」
ノハナ「じゃぁ、波のないときに飛んで」
ナオ「考えとくよ。別に、今帰りたいとか、そんなの思ってないから」
ノハナ「残念」
ナオ「残念って」
ノハナ「別にナオがここから飛び降りるところが見たいんじゃないよ。ここから飛んで、ナオがよその世界に行くところが見たいんだよ。そしたら私もいつか行けるでしょ」
ナオ「いやぁ、それは辞めた方がいい」
ノハナ「どうして?」
ナオ「何も知らない原始人だから」
ノハナ「あ、馬鹿にした! お姉ちゃん、私たちのこと馬鹿にしてるよ」
ヨシノはクスッと笑った。ナオはヨシノの笑顔を見た。
ヨシノはナオの視線に気づき二人は見 つめ合った。
ナオ(M)「やっぱり俺、どの時代に生まれても、ヨシノのこと好きなのかな。もっと邪馬台国や卑弥呼のこと、知っておけば良かった。でも、邪馬台国って、一体どこにあるんだっけ?」
断崖絶壁の上に立つ三人。
テロップ「謎に包まれた邪馬台国の女王卑弥呼の伝説はここから始まる」
〈終わり〉
2025年日テレ、シナリオライターコンテスト2025応募も、一次落ち。
2026年フジテレビ、第38回ヤングシナリオ大賞応募も、一次落ち。




