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彼女の秘密


 ルイソンは剣聖クレマンの曾孫で、今年で十五歳になる女の子だった。

 剣聖クレマンというのは、百年前に魔王を退治した勇者一行のメンバーの一人である。


 クレマンは平民だったが、魔王退治の褒美に爵位をもらって伯爵になった。

 ルイソンはその四代目に当たるが、弟が爵位を継ぐことになっているから、彼女への圧力はほとんどない。

 好きな家にお嫁にいっていいとも言われている。

 彼女の好きな人は、二十歳の騎士ヘクターだ。

 剣聖を生み出したルイソンの家はやはり代々騎士を輩出することになり、剣聖の子だった祖父は騎士団長に登りつめた。

 祖父は多くの子供に恵まれて、四人の男子をもうけた。

 長男である彼女の父が現在騎士団の副団長を務めている。祖父はすでに引退済で、現在田舎でのんびり暮らしていた。


「姉上!やっぱり姉上に訓練をつけてほしいです!お願いします!」

「いや、絶対にいや!」

「ルイソン。私からも頼む」


 父が休みで屋敷に戻ってきていた。

 弟に稽古をつけていたと思ったら、優雅にお茶を飲んでいるルイソンの元へ二人で揃ってやってきた。


「ヘクターが参加する演習、見たくないか?」

「え!ヘクター様が!」

「私の権限を使って、特別に見学させてやってもいいのだぞ」

「父上、それはちょっと卑怯すぎます」

「だが、取引材料にはヘクター以外使うものがないだろう」

「そうですけど」


 ヘクターに対して、ルイソンは一方的な想いを抱いている。

 一目惚れしたのは二年前。

 父の用事で騎士団を訪れたら、一目で好きになってしまった。

 黒髪に黒い瞳、とても神秘的で綺麗だった。

 ルイソンは他の騎士や見習い騎士に対しては、なにか臭そうとか、熊みたいなどと、そういう感想しか持たなかった。しかし彼に対してだけは違った。

 その日から、彼女は用事をつけては騎士団に通い、父にその想いがバレてしまった。

 何も言わないでほしい、だけどヘクターを見る機会を得たいと父にお願いしているうちに、その取引材料としてアレを出されてしまった。

 

「演習はいつですか?」

「明後日だ。見たいか?」

「もちろんです」

「なら、よろしく頼むぞ」

「姉上!」


 弟にも期待たっぷりな視線を向けられ、ルイソンは覚悟を決める。


 彼女には一つだけ秘密があった。


 いつの間にか彼女用に仕立てられた男性用の服を着て、応接間に向かう。

 そこには、剣聖クレマンの剣が飾られていた。

 背後には、その瞬間を待ちわびて、父と弟が控えている。


(気が進まない。だけどヘクター様の麗しい姿を見れると思えば、頑張れる!)


 彼女は気合をいれると、剣に触れた。


『待ちくたびれたぞ!ルイソン!』


 ルイソンの脳裏に響くお調子者の声は、剣聖クレマンのものだ。


「おお!」

「姉上!」


 パキパキと音を立てながら、彼女の体が作り替えられていく。

 背が高くなり、肩幅は大きくなる。

 手も足もがっちりしたものへ変化していく。


『また鍛えてなかったのか。そんなんじゃ俺の全力が使えないぞ』

「全力なんて使う必要ないでしょう?」


 クレマンに答えるルイソンの声は低い。

 男性の声、そのものだった。


『せっかくだから全力を出したい。俺の孫が期待してるのだろう?』


(期待してるって、そんなの知らない。剣を振るなんて本当はしたくないんだから!)


 声に出さずに文句を言うが、クレマンには伝わったようだ。

 

『悲しいなあ。我が曾孫よ』

「ルイソン。悲しいこと言うな。全力で私は戦いたいぞ」


 流石同じ血を引いている。

 父にはクレマンの言葉は聞こえていない。

 しかし、まるで聞いたかのような台詞を吐いた。

 しかも父の眉毛は垂れさがり悲しそうだ。


『ほら、ルイソン。やっぱり全力で戦いたいらしいぞ』

「全力ださないと、勝てないんですか?」


(訓練なんて絶対にいや。そのうち私は弱いから、変身しても相手にはならないと思わせなきゃ)

 

 彼女は故意的に訓練を積んでいなかった。しかしやる気を失いつつある剣聖を煽りにいく。


『そんなことは絶対にない』


 剣聖クレマンはそう断言し、ルイソンの煽りに見事にのってくれたようだ。

 彼のやる気があるうちにと、彼女は剣を握ったまま父と弟の元へ向かう。


「さあ、練習しましょう。だけど、それぞれ一回ずつだけ。それ以上やると反動が大きいのです」


 ルイソンの秘密は、剣聖の剣に触れると体が男になって、剣聖の剣技を使えるようになることだった。

 十歳の時にこのことが判明して以来、これは誰にも漏らしていない秘密だ。

 この秘密を公にして、騎士になるかと家族会議がもたれたが、彼女の意志が尊重され、秘密は守れることになった。

 しかし、剣聖の剣技をみたいと彼女の父が週に一度だけ、頼んできた。

 騎士であり、剣聖に憧れをいただいている父の気持ちはわかるので、週一ならばと彼女は変身して稽古に付き合っていた。それが変わったのは、ヘクターに一目ぼれしてから。

 というのは、戦う度に筋肉が付いている気がしていたからだ。

 筋肉が付きすぎると、ヘクターの前で可愛くなれなくなってしまう。

 そう思い、彼女は極力変身する機会を減らした。

 しかし父は弟を巻き込んだり、ヘクターを取引材料にしたりと、交渉してくるため、結果として今では月一で男になっていた。

 けれども彼女は絶対に筋肉質な体になりたくなかった。おかげで剣聖クレマンの助言を無視して訓練などまったくしていない。

 彼女は強さに憧れをいただいていない。

 可愛さに全力を振りたかった。普通の女の子のように。

 いつかヘクターに告白して、デートしてもらうのが彼女の夢だったのだ。

 

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― 新着の感想 ―
お久しぶりでございます 読みました〜。 久々のありま節、堪能させていただきました。 ゴツくなりたくない乙女の悩み。しかし状況――主に家族――がそれを許さない。 コメディチックでもあり、哀愁もあり、…
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