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男女比『1:16億』の北半球 ~50年ぶりの生身の男に、世界中が大パニック&大熱狂!~  作者: 団田図


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第51話 星空のキス

 数日後。

 御手宮おてみや家のダイニングテーブルには、五十年間決して実現することのなかった「本物の家族団欒」の光景が広がっていた。

 北半球の洗練されたマンションの一室に、南からやってきた英明ひであきと隼人が座り、玲子れいこ詩乃しのが並んで微笑んでいる。

「さあ、みんな!私の最高傑作を食べて!」

 エプロン姿の芽衣めいが、自信満々に大皿をテーブルの中央に置いた。

 それは、南半球の暴力的なまでに香ばしい肉の塊と、北半球の繊細で完璧な栄養素を持つバイオ培養食を、彼女の将来の夢である「フレーバー開発」の才能で見事に融合させた『究極の南北ミックス料理』だった。

「おお、こいつはすげえ匂いだ!」

 英明が豪快に肉を切り分け、口に運ぶ。

「……うまい!南のガツンとくる脂の旨味を、北のペーストがまろやかに包み込んで、いくらでも食えそうだ!」

「本当に美味しいわ、芽衣。私たちの世界の『クリーンさ』が、南の『生命力』とこんなに素晴らしいハーモニーを生むなんて」

 玲子も穏やかな目元を細めて舌鼓を打つ。

「お兄ちゃんも、はい、あーん!」

「お、おう……うまっ!これなら北の飯も最高だな」

 食文化の違いを乗り越え、分断されていた世界が一つになったことを象徴するような、温かくて美味しい食卓。タケルは、目の前で本物の笑顔を見せて笑い合う家族の姿に、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。


 +++


 賑やかな御手宮家から、俺はこっそりと抜け出した。

 マンションからは「お兄ちゃんどこー!?」と、相変わらず血気盛んな芽衣の声が響いていたが、今夜ばかりは捕まるわけにはいかなかった。


 夜の北半球は、ひどく静かで空気が澄んでいる。俺は足早に坂道を登り、街を一望できる高台の公園へと向かった。

 そこには、街灯の淡い光の下、待ち合わせをしていた少女が立っていた。

 夜風に髪を揺らす葉寺はでら優愛ゆあは、俺の足音に気づくとパッと顔を輝かせて駆け寄ってきた。


「タケルさん!」

「待たせたな。家を抜け出すのに手こずってさ」

 俺が苦笑いしながら頭を掻くと、優愛は「ふふっ」と柔らかく微笑んだ。

 五十年もの間、誰もが諦めていた「夜の公園で、好きな女の子と待ち合わせをする」という、ごく当たり前の日常。それが今、俺たちの目の前にある。


 二人は並んで公園の手すりに寄りかかり、眼下に広がる夜景を見下ろした。

 光の海が地平線の彼方まで続いている。そのずっと向こう、かつて世界を真っ二つに分断していた緯度〇度の赤道の方角に、今は人類を遮るものは何もない。


「……本当に、壁を乗り越えちゃったんですね」

 優愛がぽつりと呟いた。その声には、まだ奇跡を信じきれないような微かな震えが混じっていた。

「タケルさんが、世界を繋いでくれた。……でも、こうして隣にいるのに、なんだかまだ夢を見ているみたいです」


 不安げに瞳を揺らす優愛を見て、俺は彼女に向き直った。

 そして、その白くて華奢な両手を、俺の大きくゴツゴツとした手でしっかりと包み込み、そのまま俺の胸の中へと引き寄せた。


「あっ……」

 南半球の過酷な環境で鍛え上げられた、オスの体温と力強い心拍が、ゼロ距離で優愛に伝わる。

「夢じゃないさ」

 俺は、優愛の耳元で低く囁いた。

「ほら、俺の熱がわかるだろ? 手紙の文字からどんなに想像しても絶対に触れられなかった温もりが、今はここにある」

「……はい。タケルさん、すごく熱いです……っ」

 優愛は顔を真っ赤に染めながら、俺の背中に小さな腕を回し、ギュッと抱きしめ返してくれた。彼女のトクン、トクンという早い鼓動が、俺の胸に直接響いてくる。


 俺は優愛の肩をそっと抱き、その潤んだ透明な瞳を見つめ返した。

 優愛も背伸びをして、静かに目を閉じる。

 夜風が吹き抜ける中、俺たちの唇は、ごく自然に重なり合った。

 あの日の展望台で、手紙ではできない「抱擁」をしてからずっと、お互いが待ち望んでいた瞬間。

 少し不器用で、けれど、五十年の空白を埋めるように、ひどく熱く、甘い初めてのキスだった。


 ゆっくりと唇を離し、俺たちは照れくさそうに笑い合いながら、満天の星空を見上げた。

 理沙さんの開発した新薬のおかげで、俺たちは横の壁『ゼロ・シェル』だけでなく、空を覆っていた絶望の檻『スカイ・シェル』をもすり抜けられるようになった。

 人類はついに、虫かごから解放されて宇宙への道を取り戻したのだ。


……だが、そもそも五十年前、誰が何のためにあんな壁と天井を作ったのか。

 その根本的な謎は、未だに解明されていない。

 いつかまた、同じような現象が起きて世界が分断される日が来るかもしれない。そんな漠然とした不安が、星空の向こうに潜んでいるような気もする。


「タケルさん……?」

 俺が空を見つめていると、優愛が不安そうに首を傾げた。

「いや、なんでもない。俺たちがいる限り、またどんな壁ができても絶対にぶち壊してやるさ」

「はいっ!」

 再び良いムードになり、俺が優愛の肩を抱き寄せようとした、その時だった。


「みーっけた!! お兄ちゃん、優愛さんと抜け駆け禁止って言ったでしょーっ!!」

「タケル君! 星空の下でデートなんて、トップアイドルの私を差し置いて許さないわよっ!」

「さあタケル君! 夜のデートもいいけれど、私のベッドで毎晩恒例の濃厚な身体検査の時間よ♡」


背後の茂みから凄まじい勢いで飛び出してきたのは、鬼の形相の芽衣、息を切らせたキララ、そして白衣をはだけさせた理沙さんだった。

 さらにその後ろからは、「タケル様ぁぁっ! 私たちもその熱い抱擁に混ぜてくださいませぇっ!」「神の子よ、今夜も私を乱暴に踏みつけてっ!」と、鼻息を荒くした女性護衛官たちと元・教団員たちまでが雪崩れ込んでくる。


「なっ!? お前ら、なんでこんなところまで!!」

「タケル君は私のですっ! 誰にも渡しません!」

 優愛も負けじと俺の腕にギュッと抱きつき、バチバチと火花を散らして彼女たちを睨みつけた。


ああ、もうめちゃくちゃだ。

 世界の謎? 再び壁が現れるかもしれない不安?

 そんな壮大なSFの心配は、とりあえず北半球の優秀なテクノクラートたちに任せておこう。

 俺にとって今一番切実で、命に関わる大問題は――。


「誰か助けてくれえええっ!!」


全方位から迫り来る、愛と欲望の大暴走。

 五十年の空白を埋めるかのように押し寄せる、この前代未聞の異常なモテ期を、俺は一体どう生き延びればいいんだ――!?



第1章 完




ここまでお読みいただきありがとうございました。

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続きを思案中です。

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