二度目の悪夢、王都に響く
轟音の元へと俺は走る。
まさかこんな所でまた魔物と戦うことになるとはな、めちゃくちゃ安全地帯だと思ったんだけど……
それにしても入口にいた兵士はどうしているんだろうか気になる。死んでなければいいのだが……とそんなことを考え、逃げゆく人々を避けながら数分間走り続けていると、徐々に魔物の姿が見えてきた。
「ハァ、ハァ、ようやく見えてきた…………ん? ちょっと待って、複数いないかアレ」
見た所三体いるのでちょっと焦り始める。しかしここまで来たからには引き返す訳にはいかない。
「まあ、どんな相手だとしても……全員俺がぶっ倒してやるぜ!!」
そして更に走力を上げる。
「見えた! さあどんな姿してやが──」
俺は戦慄した。見えたのはあの恐ろしい体躯。最初に遭遇した、自分にとっての魔物の象徴。
「───エビルウロス……!!」
王都に現れたその魔物は、あの忌々しいエビルウロスだったのだ。それも三体。
……冷や汗が止まらなくなってくる。
足が止まる、これ以上前に進めない。リウーナルで経験したアイツの強さは相当な物だった。実際に死にかけたのだから。それが三体もそこにいるんだ、正直バカみたいに恐ろしくてたまらん……!
……呼吸を整えよう。
「ヒッヒッフー……ヒッヒッフー……」
本来の用途とは全く異なる呼吸法だが、やらないよりは遙かにマシだと思う、精神的に。
「うっし、行くか…………牛だけに!!」
ツッコミは不在。
覚悟を決め、三体のエビルウロスの元へと突っ込む──
──訳にもいかん! 突っ込んでったらリンチされておしまいだ、わざわざリンチされに行く趣味など無いわ。横から回ってゆっくりと近付いて隙を見て攻撃をするのが最も安全な戦い方だろう。
という訳で回り込んで、王都の外壁側からエビルウロスらに近付く。
「グハハハハ! 思ったより簡単に入れちまったなァ!」
「ここが王都ってトコかァ! どこまで強ェのがいるんだろうなァ」
「壁の外に立ってた野郎は不意打ちしたら一撃でトんじまったしなァ……んで、このガキどうするよ」
「い、いや……お母さんっ……!」
起こって欲しくなかったケースの一つ……住民の逃げ遅れ。リウーナルの時は成人男性だったから余裕があった、と言うより逆にこっちが安心できた。
だが今回は小さな女の子だ。大人とは違い、恐らくコイツらを至近距離で目にして一目散に逃げるなんてそうそう出来たもんじゃない……つまりはここで俺が救い出さねば詰みだ。
三体のエビルウロスのうち、何やら一体は他の個体と違い身体が赤く、棍棒のような武器を持ってるようだ。まさか強化個体ってヤツか……?
リウーナルじゃ、武器という武器すら持ってなかったから手も足も出なかった。途中で包丁を手に入れたが、切れ味も良い訳じゃないただの料理用の包丁だ。……けど今は違う、ちゃんと武具屋で短剣を買ったんだ、前の俺とは比べ物にならんぞ!!
覚悟を決めた俺は徐々にエビルウロスらの元へと近付く。そ〜っと、ゆっくり。上手く下に潜り込んで……
(斬り捨て……御免!!)
斬れる! とその時は思った。
「──フガッ! いきなりなんだこのガキィ!!」
エビルウロスの身に刃が入ろうとした刹那、尋常ではない反応速度で躱されてしまった。
絶望的状況になってしまった。
俺の渾身の一撃はヒョイと躱され、目の前に迫るは三体のエビルウロス。もしナースコールがあったら一秒毎に百回連打してただろうな……
「ハハハハ!! コイツ単身で俺たちのトコロに来やがったぜ」
「なんだァ? ガキを助けにでも来たのかァ? それとも自殺でもしに来たか!」
緊張で筋肉が硬直して動けない。冷や汗も出る。どうする、どうやってこの状況を打開する……!?
いや、気合いだ! 動け! 身体よ動け!!
「──フンっ!!」
気付いた時には身体が動いていた。固まっていたその腕をさらに前へと突き出し、短剣をエビルウロスの胴へと刺し入れる。
「グ……!? ギアアアア!!」
一瞬の気の迷いが運命を分ける! 今のうちだ!!
「おいそこの嬢ちゃん!! 俺が戦ってる内に早く逃げろおおおぐぼァァァッ」
一体のエビルウロスにダメージを与えることができたが、もう一体のエビルウロスから蹴りを加えられ、俺は吹っ飛んだ。
「ぐがっ、あがっ、ぶげっ」
何度か身体をバウンドさせたのち、ようやく止まる。
あの女の子は……よし、逃げてくれたな。ようやく安心してパフォーマンスを発揮できるぜ……!
「グハハハハ!! またかかってくんのか! いいぜ、次は本気で殴り飛ばしたらァ!!」
だが三体のエビルウロスには真正面からじゃ敵いっこない…………そうだな、真正面からじゃ敵いっこないんだ、だったら……!
軽く作戦を考え、横にあった建物と建物の間へ入り込む。
「オイオイ隠れちまったのか? つまらねェなァ」
作戦は単純なものだが恐らく気づかれていない。そのまま俺は建物の中へ入り、階段を登ってバルコニーへ。
(よし、計算通り、丁度首の辺りだ。……呼吸を整え、今度こそ……)
バルコニーからエビルウロスの首筋へと大きく跳ぶ。
「斬り捨て御免っっ!!」
今度こそ、攻撃が入った。
「ギガッ、テメェそんなトコからァァ!!」
「おしゃべりなクソ牛が!! コイツでくたばれえええっ!!」
首筋に入った切れ込みを更に深く入れる。
「フガッ!! 邪魔だ!!」
「ぐあああっ!!」
ぐっ、やっぱりキツい!! もう少しで首を刈り取れそうな所まで行けたは良いものの、もう一体のエビルウロスに殴り飛ばされてしまった。
待て、殴り飛ばされた? ここ結構高かった気が──
最悪な事に俺の予想は的中。おおよそ三メートル程の高さの場所で殴り飛ばされ、そのまま地面に激突した。
(う……ああ……こりゃヤベェや……背中逝ったかも……!!)
この痛みはかなりヤバいヤツだ。こりゃ数分は動けんだろう……
打撃自体は盾で防いだものの、衝撃が半端じゃない。
「グハハハ、ちょっとだけ手こずっちまったが、そろそろ楽にしてやろうか」
「そうだなァ、一人にしてはよく頑張ったと思うぜェ〜、現に俺の首イカレちまったしな!?」
これは非常にまずいのでは……? と、絶望しかけた顔で俺は運命を感じ取る。
「ゲホッゲホッ、いやちょい、早ェよ! そうだアンタ、まだ戦いたいだろ? だからさ、もうちょいチャンスというかさ、猶予というかさ、待ってくんねェかなゲホッゴホッ」
必死の時間稼ぎである。
「ハハハハハ! 命乞いのつもりか?いいぜ、三秒間待ってやる!!」
「無いも同然!!」
たった三秒、その間に何か打開策を考えるしかない。周りに何か無いか? いや、何も無い! 終わった!!
「三秒経ったぞ! 試合再開だァ!!」
「ギャァァァァァ!!」
終わった──と、死を覚悟した。
しかし、その瞬間───
「グガ……!? ガアアアア……」
「オ、オイ、どうした!! どうして何もしてないのに首が落ち……」
俺が首を斬りかけたエビルウロスの首がポロッと落ちた。
別の何者かにさっくり斬られたかのように。
「……コイツじゃねェな、誰だ! 俺達の同胞をやりやがったのは!」
その場に暫くの静寂が流れる。
──そしてその静寂を終わらせるかのように、鋭い音が流れた。
「うおっと!?」
風を切る音。いや、斬る音と言った方が良いか。それは惜しくもエビルウロスに当たりはしなかったが、存在感を与えるには丁度良かっただろう。──そして、現れる。
「───何やら魔物が侵入したと聞いて急いできたが、これは予想外だった」
少し長い、限りなく黒に近い紺色の髪。右腕に持つは、長細いほとんど錆びた刃物。ワロタと同じく冒険者らしい姿をしたその少年は言った。
「たった一人でこんな奴らに挑むなんて……すまないな。ここからは俺も、一緒に戦わせてもらうぞ」
───後に語り継がれる伝説が始まったということを、今の俺は知る由もない。
赤いエビルウロス
正式名称:紅制エビルウロス
他の個体と違い身体が赤く、より長い双角を持つ。個体にもよるが、武器を持っていることが多い。
怒りっぽさや腕力は通常個体よりも上。つまり鬱陶しい。




