Steps to Regret:門出を迎える二人
番外編です
魔王がミハエール王国を支配してからおよそ三年の月日が流れた。
誰が始めたか巷では既に、魔物に対抗する「冒険者」という職業が話題になっている。現状、ミハエール王国民の半数近くが冒険者になっているのだとか。
そんな中、新たに二人が冒険者となった。
「……何なのよ、あなた」
「だから、オレと一緒に組もうぜって」
まるでナンパ紛いの行為をしているこの短い金髪の男の名はアーノイ。そしてそのナンパ紛いの行為を受けている、茶色く長い髪を後ろで結んだ少女の名はイマリカ。
二人は丁度先ほど、冒険者になるという門出を迎えた。
アーノイは木のブレスレットを付け、イマリカは木の認識票……とはいえ実用性の観点から実は木ではない頑丈な物質でできているらしいので便宜上の、木の認識票を首に掛けている。
「はぁ。意味がわからないわよ、なんでどこの誰とも分からないあなたと組まなきゃならないの?」
「あ? そんな冷たいこと言うなよ、同じタイミングで冒険者になった仲だろ!」
「偶然タイミングが合っただけよ……じゃ、ここからはもう別行動ね」
「あっ、ちょっと待てよ! 一人で行くのか!?」
「当たり前じゃない! そもそもパーティーを組むとか約束してないし」
「よく考えろ、いくらオレのことが嫌いだからって最初から一人で行くのは危険だろ!」
必死で引き止めるアーノイに、イマリカはため息をこぼす。私は彼のことなんて興味がないのに、なぜ彼は私を仲間に引き入れたいのだろうかと。
それにイマリカには自信があった。
「エビルウロスくらいなら倒せるから、私。いくら私が女だからって、あまり舐めないでくれる?」
「……そうかよ、悪かったな」
諦めたか。と安心した直後だった。
「でもオレは無理なんだよ!! 今のオレじゃエビルウロスすらも怖いんだ! だから……だから……!!」
私を心配してたんじゃなくて自分を心配してたのか。と、またため息がこぼれる。
それに魔物が怖いならどうして冒険者になったのかという疑問も浮かぶ。
けど、一人で行っても面白くないし、仕方なく。
「わかったわよ……あなた、名前は?」
仕方なく、アーノイとパーティーを組んだ。
……
…………
………………
「薬草拾いの依頼? おいおい地味なの選ぶじゃん」
「嫌ならパーティーを抜けてもらえる?」
その言葉を聞き、姿勢と口調を正してイマリカに謝罪する。今はイマリカが生命線なのだ、余計なことを言って見捨てられたら終わりだ。
「ふぅ、あと五本ね……あ、あった」
「おっ、カブトムシ」
「あーーっ!! なんで薬草踏むのよ!!」
「え、ウソ、悪い!」
アーノイが見捨てられる日も近いかもしれない。
そして依頼を済ませ、冒険者ギルドから報酬を貰う。初めての報酬に期待で胸を膨らませたが……
「数時間薬草を集め続けて、収入がたったの一千ワラって……」
木等級向けの依頼達成報酬など大抵はこの程度だ。とても生活できるものではない。
「だから薬草拾いはやりたくなかったんだよ」
「あなたが薬草を踏んで傷つけてなければもっと早く終わったのにね」
「それはマジで悪かったよ!」
他に収入源が無いので正直このままじゃ路頭に迷うのは間違いない。どうにかして収入を増やさなければ……と二人は考える。
そこで目にしたのは、銀等級向けの依頼。
「紅制エビルウロスの討伐」といった内容の依頼だった。
「金額が書いてあるわね……えっ、八千ワラ!?」
一日労働して得る収入に近い金額だ。
銀等級でこのレベルなら、それよりも上の等級は一体どうなのか……と、想像が膨らむ。
そして二人が考えることは一緒だった。
等級を上げよう。
木等級から銅等級に上げるための方法は簡単だ。
弱い魔物でもいいからとにかく魔物討伐の数を積む、自分より等級の高い魔物を倒す。
とにかく魔物を倒せばいいのだ。
二人はそれを実行しようと武具屋へと赴き、イマリカは剣、アーノイは弓矢を購入した。
「うんうん、この剣は丈夫そうね……これからよろしくね」
「おいおい、自分の武器を持てるなんていよいよ本格的になってきたなぁ!」
「あなたは……弓を使うんだ、意外」
「剣はイマリカだろ? じゃあもう一人は弓使いなのが定番だろ!」
「……そう」
アーノイの謎の先入観によって脳内にクエスチョンマークが浮かび上がったが、何故だか少し。
彼のことを面白いと思えてしまったのだった。
……
…………
平原を適当に歩く。しかしこういう時に限って魔物一匹すらいない。
それ以前にそもそもこの平原に魔物が現れるのかすら分かっていない。
「こんなことならどこにどんな魔物がいるのか下調べしておけばよかった……」
「何でもテキパキできる奴だと思ってたんだけどな? もう全部オレに任せた方がいいと思うぜ」
「うっさいわね……」
一々うるさいのでやっぱり見捨てて一人で冒険者やろうか、という思考がイマリカに一瞬よぎったが、流石に私はそこまで鬼じゃないのでやめておこう、と余計な思考を掃った。
そして誰もいない平原にいても埒が明かないので、別の場所に移動しようかと諦めかけたその時だった。
「グオオオオ……!!」
何者かの唸り声が聞こえた。
それは聞いたことがある唸り声だ。
それはまるで人間のような唸り声だ。
その姿はまるで──
「倒しに行くわよ!!」
──牛のようだ。




