始まりの冒険街、そして正式に
とある荒れ地。
「ひっ、ひいいい!」
ある男が、魔物から逃げている。
どうやら豚のような魔物に襲われているようだ。
「ハァ、ハァ、ルターロ村まであと少し……そこまで逃げれば……ぶばっ!」
小石に躓き、転んでしまった。
「グギャギャギャ……」
転んで動けぬ間に、豚の魔物に追い付かれてしまう。
「いっ、嫌だ……来ないでくれ……!!」
「グギャァァァッ!」
絶体絶命だと思われた、次の瞬間──
「ゲッ?」
「えっ?」
豚の魔物のすぐ横に一瞬で飛んできた人影。
「グゲェェェェェ!!」
その謎の人影に殴り飛ばされ、豚の魔物は塵となり消えていった。
「……あっ、アンタもしかして冒険者か…………いや、何はともあれ助かった、ありがとうな」
感謝を述べる男に対して、その人影の正体は口にする。
「えへへっ、いいよいいよ! あっ、ルターロ村はすぐそこだから、もう安心して」
その人影……いや、その少女は、黒髪ショートに耳の位置から掛かった真っ赤なメッシュを靡かせ、笑顔で男を送り出して呟く。
「ふぅ……さて、そろそろ作らないとなぁ……仲間」
◆
「村!? 村ってレベルじゃねえよなやっぱ」
「昔は普通の村だったんじゃないか? 知らないが」
俺達は早速ルターロ村の中に入っていた。やはり村と言うには大きいし、賑やかだ。
「なんか全体的に屋根が青っぽいな、俺大好き!」
聞くには数十年前からどこかの文化を取り入れたデザインになり、こうなったとか……元ネタの場所いつか絶対行きてぇ〜。
「橋の下に川が通っているぞ……見ていて落ち着くな」
「んん〜?この川ってもしかしてリウーナルと繋がって……あ、船だ」
船に向かって手を振ろうとした俺をクチクが制止するなどして時間が経った後、俺達は噂の冒険者ギルドなる場所に来た。
「うお! 冒険者いっぱいいるな」
王都までとは大違いだ。ここは住民よりも冒険者で賑わっている。何やら大体の冒険者がこのルターロ村から冒険を始めるらしく、ほとんどが新人らしい。
「つーことは俺、二街分早かったってことか……」
「まあ、そのお陰で今の俺達ならば紅制エビルウロスを倒せるくらいには強くなれたから良かったんじゃないか?」
確かにそうだ。ここで冒険者人生スタートしてもその時点で赤いエビルウロスには余裕で負ける。う〜ん、運が良かったのかな。
……正式にはまだ冒険者人生スタートできていないが。
と言うのも、やはり『冒険者』になるにはまず冒険者ギルドに登録しなければならない。つまり俺は今まで自称冒険者だったってことだ。
「俺いろんな人に嘘ついてたってことじゃん…………よし、登録するか」
そんなこんなで受付の元へ行き、冒険者登録をしてもらった。
「……はい、登録が完了しました。まず、こちらですね、お選び下さい」
受付のお姉さんから木の素材のブレスレット、認識票、バッジを渡される。
「なにこれ」
「そちらは階級を示す物です。下から木、銅、紅、銀、金、と分類されており、それぞれ等級も下から初級、一般、中堅、上級、最上級に分類されていますね」
「はえ〜なるほどな……銅と銀の間が紅って何だよ」
決めた人の趣味とかなんだろうか、アクセサリーにするんだったら確かに紅は綺麗だろうけど。
「俺は認識票を選んだが、ワロタはどうするんだ?」
ああ、だからクチクは首に何か掛けてたのか。普通にそういうファッションなのかな〜とか思ってたらちゃんと理由があったんだな。
俺は迷いに迷ってブレスレットを選んだ。一番邪魔になりにくそうだったからだ。多分バッジは無くすし。
「これって具体的に何やったら等級上がんの?」
「それは当然魔物を倒したり、依頼をこなしたりすることだろう」
「へぇ、俺エビルウロス倒したことあるんだけど等級上がったりしない?」
「冒険者登録する前だから認められないと思うぞ」
「そんな〜」
冒険者登録は済ませたので、早速壁に貼ってある沢山の依頼書を見ていく。
「うーん薬草収集……そういう系はどちらかと言うとアルバイトじゃん、俺そういう作業するために冒険者なったワケじゃないし」
「気持ちは分かるが……口に出すな」
あらかた眺めたが、そんなに良い依頼は……ん?
「悪樹討伐依頼……?」
「ん?……アレか」
どうしてか端っこに貼ってあったそれは、他の依頼よりも異質なオーラを放っていた。
「推奨等級……紅」
「…………」
あっ無理だわ、今の俺らじゃ無理だこれ。
現在のメンバー!!
ワロタ:木
クチク:銅
悪樹討伐推奨等級:紅
「はい無理ですぅー、諦めて薬草集めますぅー」
絶対勝てんわこれ、瞬殺だ! でも、ちょっと気になることがある。
「銅から紅に上げるにはどうするんすか?」
紅レベルの大体の強さを知りたい。それによって悪樹の強さも大体掴めるだろうから。ってな訳で受付の人に質問した。
「そうですね……ここからは魔物を倒すことでしか上げられず、それも一般より強い魔物でないと厳しいですね〜」
「一般よりも強い魔物……紅制エビルウロスとか?」
「まさにそのレベルです。おおよそ紅制数体分って所でしょうか」
……あれ?今の俺たちなら紅行けそうじゃね?
「なるほどなるほど、紅制討伐依頼とかってありません?」
「今日はもうありませんね」
あーーッくそォ〜……ランクアップはお預けか。
……ところでそれよりまたちょっと気になることができた。なんかさっきより外が騒がしいんだ、見てみるか。
「クチク、ちょっと外出ようぜ、何やら騒がしいみたいだ」
「え? あ、ああ」
そして扉を開け、外に出ると──
「う……うえぇぇ!?」
森で俺たちを襲ったあの巨大蜘蛛の魔物が街に降り立っていた。
『ギャァァ!俺ァ冒険者だけど、コレは違うっての!!』
人々の悲鳴が響き渡る。……こりゃ危険な悲鳴ってより気持ち悪いって感情の悲鳴だよな……。
「……ワロタ」
「いやこれは他の冒険者に任せようよ、ルターロ村だぜ? 俺ら以外にも冒険者たくさんいんじゃん」
嫌だよ?ハッキリ言ってめちゃくちゃ嫌だよ? 顔面以外おもっくそ蜘蛛やん。クチクも分かってんだろ、森で遭遇したんだから、冗談よせやい。
「だが……見ろ、このままでは誰も対処せずに街が崩壊してしまう。本来であれば倒せる相手だろうに、それは見ていられない!」
「くっ……俺らがやるしかねえってのかよ……大人がやれよーーー!!」
別に大人も子供も関係なく苦手な物は苦手なんだろうが……何だって俺たちがやらないとアカンのや……
「あーーっクソッ!!さっさと行ってさっさと斬るぞ! コイツで俺ァ銅にランクアップしたるわ!!」
そうしてダッシュで仕方なく巨大蜘蛛魔物へと向かう。
「うええええ! いくら顔面が人間みたいだからマシとはいえ、やっぱり脚がきめえんだよ!」
顔面蒼白で額がシワだらけの老人のような顔を蜘蛛の顔に貼り付けたかのような魔物。うーん悪趣味。
「よし行くぞクチク!まず何とかして全部の脚を斬る!」
「動けなくしてトドメを入れるってことだな……!」
決死の覚悟で俺は短剣を構え、巨大蜘蛛魔物の脚に飛び込んだ瞬間──
「あれっ──!?」
グラッと、巨大蜘蛛魔物の身体が傾いた。
苦しそうにもがく巨大蜘蛛。
その身体の上には──
「──へへっ」
俺やクチクと同じくらいの少女が立っていた。
巨大蜘蛛魔物
巨大蜘蛛の顔部分に顔面蒼白の老人の顔を貼り付けたような魔物。額にシワを寄せた笑顔はまるで悪魔。




