王との謁見、開かれる勇者の線
エビルウロスを軽く超える大きさの王。それが放つ威圧感に俺達は圧倒されていた。
「デッッッ……」
「なんて大きさだ……」
ネルファがその威圧を意に介さず話し出す。
「ミハエール王、彼らはエビルウロスらによる王都の被害を抑えてくださった方々です」
すると先程まで感じていた威圧が、嘘のように晴れる。
「──グッフッフ、なんということだ! ならばお主たちは、我が民の救世主……ということではないか!」
「うわ急に笑顔になった……!」
「バカ、声に出すな」
クチクに抑えられ、今の発言を聞き取られずに済んだ。危ない危ない。直後にネルファが木刀を握る俺の手を掴み、そのミハエール王に見せるようにして向けた。
「その中でも彼は、……あの誰にも抜けなかった、俗に言う『勇者の剣』を抜いた張本人……」
「……なんと」
ミハエール王が目を丸くする。本当にさっきまでの威圧感が嘘のようだ。
「お主ら、名は何と……?」
俺達はそれぞれ名乗る。
「……ふむ、してワロタよ、その木刀がどうして抜けたのか、何か見当のつくことはないだろうか?」
そんな事言われても、さっきネルファに言った通り普通に抜けちゃったんだって!ああもうどう言おうか……と困っていると、ミハエール王はそれを察したかのように軽く微笑む。
「自分でも分からないのだな。グッフッフ……まあ、勇者らしいかもしれぬな」
「へ? 勇者?」
突然ファンタジー的な単語が飛び出し、あっけにとられる。いや今更感あるが。
どういう事だろうか、まさか俺が勇者?いやいやそんな。
「先ほどネルファがその木刀を『勇者の剣』と形容したのは覚えているだろう?……それには誰も抜けなかった、という理由だけで付けた名では無いのだ」
「はあ」
よく理解していない俺は、頭をポリポリ掻きながら話を聞く。
「昔から伝わるとある予言があってな、……その木刀を抜いた者は、邪神を滅する勇者になる、とな」
「じゃあ、それを抜いた俺は勇者って言いたいワケですか? ちょっと無理があるかと」
さすがにこんなただの好奇心旺盛なガキの俺が予言の勇者な訳ないだろうと、俺は困り眉でそう話す。実際自分よりも勇敢で強くて真面目な勇者に相応しい人間はたくさんいるだろう。
そんなことを思っていたのだが、次のミハエール王の言葉で考えが変わる。
「お主らは、周りが生き延びようと必死に逃げている中で、たった二人で勇敢に魔物へと立ち向かったそうじゃないか。それだけでも、十分勇者なのだ。……その歳で中々できることではないぞ」
自分でも考えていなかった。ただ人を護ろうとすることだけが、ここまで偉大なことなのだと。
「お主らは見た所冒険者のようじゃが。……お主は、何のために冒険をしているのだ?」
「俺は…………」
ふと、冒険を始めた一番最初のことを思い出す。
「最初はただ夢だったんだ、冒険すんのが。こんな広い世界で自由に歩いたり、色んな街を巡ったり、想像するだけでワクワクしたよ、いや実際今もそうだよ。けど冒険を始めて少しして、エビルウロスに遭ったんだ。俺はそっから考えが少し変わった」
町の建造物が破壊されていく光景、町の人々の悲鳴。あの日リウーナルで起きた出来事を思い返し、口角を軽く上げて言う。
「俺は、初めて魔物を倒した時から決めたんだ。『魔王』を倒してえってな」
ミハエール王は暫く俯き、顔を上げる。
「グフフ……そうか、よくわかった。では……そっちのお主はどうだ?」
クチクの正体は俺もよく分かっていない。さっきの赤いエビルウロスとの戦いで突然助太刀してくれた……それだけだ。それ故、とても気になる。
「ミハエール王、三年前の出来事は覚えているでしょう」
「────!!」
突然、ミハエール王の表情が豆を喰らった鬼のように強張った。
「俺は五年前ほどに、ある理由でこの国へ飛ばされ……身寄りの無い俺を拾ってくれたのは、今は無き旧王都の騎士……」
旧王都。聞き馴染みのない言葉だ。五年前にその旧王都とやらで何かとんでもないことでも起きたのだろうか?
「そしてそれから二年後、あの日に起きた出来事……旧王都の壊滅」
ちょっと待って壊滅!? そんなん知らん! 俺の理由より遥かにヤベェじゃん!! まあそりゃそうか、俺がこの国に越してきたのってまだ去年くらいだもんな……クチクに比べたら俺の理由がちっぽけに感じちまうよ。
「それにより、家族同然に接してくれた人々は皆死に……俺と僅かな数しか残らなかった。……俺も隣の彼と同じように、その元凶であろう『魔王』の討伐のため、冒険しているのです」
なんという凄惨な人生か。正直初めて顔を見た時から思ってたんだよな、コイツは苦労してきたツラだって。……いやさすがにここまで辛い経験してきたとは思わんじゃん!?
「むむむ、そうか……」
ミハエール王がしばし目を固く瞑る。
「……やはり、十分だな」
そして、何かを決心したかのような表情で言う。
「お主ら、丁度良く目的が同じのようだな。……正直言うと、今のお主らじゃ全くと言っていいほど魔王には敵わん」
「……まあさすがにそうだよな」
恐らく下っ端であろうエビルウロスに苦戦しているようじゃ雑魚のうちだってのは自分でも分かる。強化個体であろう赤いエビルウロスと対峙した時にはあの覚醒がなきゃまともに対抗できていなかった。ネルファが来てくれたから助かったってだけなんだよな。
今後冒険者として生きていくには、やはり素の身体能力から上げて行くしか……ただ鍛えるってのも長い期間掛かるし嫌だな〜……
そんな戯言を考えていると、ミハエール王から思わぬ発言が飛び出した。
「と、言うことで……ウチで修業せぬか?」
────修業。それは武道や芸能を身につけ、又より技術を高めるために努力をすること。すなわち鍛えるということ。
「うわあああ結局筋トレか〜〜!!」
「…………修業」
クチクは終始真顔だ。やはり苦難を経験してきた人間は違うな〜。
「期間は……ネルファ、過去に習得した者は何日掛かった?」
「……確か、二日も掛かっていなかったはずです」
何の話をしているのかサッパリだ。俺とクチクは顔を見合わせ首を傾げる。
「決めたぞ。お主らは三日間、ここで修業をしてもらう!!」
こうして俺達二人の忙しい三日間が始まった。
ミハエール王
身長:約400cm
縦にも横にもデカい。太っているのかムキムキなのかよく分からない。恐らく太っているのだろう。髭が美しい。
ちなみに100歳を超えている。
2024/9/8修正:五年前に旧王都壊滅→三年前に旧王都壊滅




