はじまり
勉強も運動もからっきし。友達もそう多くはない。けど辛くも寂しくもない。何故なら僕にはスイーツがあるから!
物心ついたころにはスイーツの虜になっていた僕。誕生日だけでなくクリスマスプレゼントまでスイーツをリクエストして呆れられたほどだ。
しかし、毎日のおやつとして親に買ってもらえるのには限度がある。一日一個の制約は僕にとってはかなり辛いものだった。そんな僕に、自分で作ればいいじゃん。と言ってくれたのは誰だったか。今は思い出せないけど、とにかくその言葉は僕にとって天啓だった。
それ以来僕はスイーツ作りにハマった。ラッキーなことに卵やお砂糖、小麦粉、バターといったものは買ってもらえた。その材料だけで作れるスイーツはいくらでもある。思う存分スイーツが作れる日々はまさに幸せだった。
そんなある日、僕はクッキーとパウンドケーキを家族にふるまった。理由ははっきりとは思い出せないけど、家族の顔はよく覚えている。満面の笑顔で美味しいと褒めて、喜んでくれた。そしてまた作ってほしいと言われた。それがとても嬉しかった。それまでは食べるのも作るのも一人で楽しんでいた。けれどそれからは人に喜んでもらうために作ることが楽しみのひとつになった。
もっともっとたくさんのスイーツを食べたい。作りたい。そしてそれを食べてもらい、喜んでもらいたい。将来はパティシエになるのもアリかな。ぼんやりとそんなことを考えていると、地面が消えた。
◇◇◇
「ギャァァァァァァ!!」
僕、絶賛落下中。
何何何なの!? 何で落とし穴にぃぃいやぁぁ! 死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!!
「ァァァァァァ!!」
ドスンっ!!
「ぐえっ! あれ…た、助かった…?」
いきなり落とし穴にはまって、とりあえず助かったけど、何コレいったいどういうこと?
パチパチパチパチ
「いや~スゴいね君。ギャグ漫画でしか見たことないよそのポーズ」
「は? えっ、いや、どちら様ですか…?」
一人バックドロップを決める僕に声をかけてきたのは超絶イケメンだった。
益々訳の分からない状況にとりあえず尋ねてみれば
「僕は神様ってやつです」
「はい?」
益々、益々訳が分からなくなった。
「ははは、まぁまずは座って座って」
そう言ってイケメンが手を振るといきなりテーブルと椅子が現れた。
促されて席に着き、出されたお茶を飲むと幾分か落ち着くことが出来た。
回りを見るとただひたすら白いだけの空間で、イケメンと向かいあいお茶をする。
正面に座る自称神様を観察してみる。真珠みたいな柔らかい光を帯びた髪は床に届くほど長く、緩く束ねられている。そして長いまつ毛に縁どられた瞳はまるでオパールみたいに瞬きや角度によってその色が変わる。冷たく見えるほど整った容姿とは裏腹な砕けた口調と態度に緊張感は段々と薄れていった。
「いや何これどういう状況?」
「う~んとねぇ、端的に言うと君は落とし穴に落ちたんだ。で、その落とし穴がどういう物か説明するからとりあえず話を聞いてくれる?」
「は、はい」
「まず最初に、世界はひとつじゃないんだ。君がいた地球という世界の他にも世界はいくつもあるんだよ。いわゆる異世界というヤツだね」
「異世界、ですか」
フィクションの代名詞ともいえる異世界というものが、本当に存在するのか。現実味がなくて逆に冷静になったよ。
「それでね、その異世界同士が繋がることがたまにあるんだよ。トンネルや落とし穴みたいに」
よりにもよって落とし穴パターンに遭遇するとは……。急に地面がなくなった感覚を思い出してブルリと震える。
「でね、そこを通って異世界に落ちた人のことは、出口側の世界の管轄なんだよ。つまり君のお世話は僕の担当ってワケ」
「なるほど」
「だけどね、ここからが大事な話。僕はね僕の世界の、現世か地上って言えば伝わるかな? そこにはあまり関わらないようにしてるんだ」
「へ? そ、そうなんですか?」
「うん。君がいた世界でも神様って存在は天上とか天国とかにいるとされてるでしょ。それと同じだよ。つまり僕が君のために何かしてあげられるのは今ここでだけなんだ」
「…………えええええ!?」
そ、そんな!? こういうのって漫画や小説ならチートとか加護とかなんか手厚くフォローしてもらえるのがテンプレじゃないの!?
「何もしないと言ってるわけじゃないから、落ち着いて。出来る限りは力になってあげたいと思ってるから。だからね、展望というか、何か望みはある?」
「貴方様と二十四時間いつでもどこでも通じるホットラインを熱望します!」
「あはは、ごめんねそれは無理。あと、もうひとつショックだろうけど落ちた人はね、出口側の世界に馴染みやすいように少し記憶が飛ぶんだ。だから、ここを出る前に何か聞かせてくれないかな? 好きな事とかやりたかった事とか。ん? スイーツ作りが趣味? いいね! いいよ! 丁度いい! ああ、いやこっちの話。気にしないで。良し!君が思う存分スイーツ作りが出来る環境を整えてあげよう! それじゃ、目一杯楽しんでおいで」
始まりました。拙作を読んでくださる皆様に感謝します




