第8話「”元”最強ボス」
「マジかー、マジなのか……」
暗黒騎士デュラハンの残した剣を見て、ついついニヤついてしまう。
超が付くほどのレア装備『ブラッドナイトメアブレード』ですよこれ?
特定のフィールドで数時間に1回しか出ない暗黒騎士デュラハンが、0.02%の確率でドロップする装備品と言えば、どれだけレアなのかがわかるだろう。
それほどヤバイ代物なのだ。見た事はあるが、こうして手に取るのは初めてだ。
もしリアがこの場に居なければ、俺はこの剣に頬ずりをして、誰も居ないのに大声で自慢していただろう。
「リョウ。またニヤニヤしてる。その顔ちょっと気持ち悪い」
半眼で俺を見つめるリアの口から出た言葉が、俺の心にぶっ刺さった。
リョウの顔、気持ち悪いが俺の頭の中でエコーしている。
しかし、『また』ニヤニヤしてるか。
「もしかして、戦闘中もニヤニヤしてた?」
「うん。凄く笑ってた」
あー、やっぱ戦闘中もニヤニヤしてたのか俺。
自覚はないんだ。だけど無意識的にニヤニヤしてしまう。NMOをやっていた時に、仲間達からもよく言われてたな。「リョウはピンチになればなるほど、嬉しそうな顔し始める」って。
でもね、それは回復術士の性なの?
仲間がピンチにならないようにさりげなく回復や支援を入れるだけじゃなく。ピンチになった時の紙一重の判断でギリギリ生かした時の快感がたまらないのよ。
「でも、戦闘中は頼もしく感じたかな」
心の中でガッツポーズ!
正直踊り出したいくらいに嬉しいが、表には出ないように、自分の中のクールキャラを演じて返事をしようとして「お、おう」とどもるのが精一杯だ。
別にロリっ娘が好きだから喜んでいるのではない。”正真正銘の”女の子が相手だから嬉しいのだ。
NMOでは見た目美少女、中身はおっさんなんてザラだ。というか俺の周りに居た女キャラは全部それだ。
ボイスチェンジャーを使用していればまだマシだが。
(機械音声っぽい声で、会話内容がおっさんはそれはそれでヤバイが……)
中にはボイスチェンジャーを使わずにしゃべる強者も居る。
金髪ツインテの美少女から発せられるおっさんボイス。あれは色々とキツイ物があったな。
「そうだ。リア、これ使えるか?」
気持ちの悪い思い出が次々と蘇ってきたので、頭を振って思考を無理やり切り替える。
せっかくドロップした『ブラッドナイトメアブレード』だ。持ってるだけじゃ意味が無いぞ。ちゃんと装備しないとな!
いくら性能が良い装備でも、回復術士の俺が持った所で猫に小判、豚に真珠。まともに扱えない。
となると、リアに持ってもらった方が良いだろう。
ずっしりとした重みがあるから、リアでも持てるのか心配だが、自分の身の丈位ありそうな長剣を振り回しているんだ。大丈夫だろう。
リアは自分のエモノを背中にしまい、『ブラッドナイトメアブレード』を受け取る。
受け取ったは良いが、なんかプルプルしている。
「お、おも、い……」
何度も持ち上げようとして、結局持ち上がらず。
リアが持ち上げようとチャレンジするが持ち上がらないのを見て、強い武器は力のステータスを振ってないと装備できない理由がなんだか分かった気がする。力が無いと扱えないもんな。
結局俺の手元に返却された。
背中の長剣はブンブン振り回しているから余裕だと思ったんだけど。そっちは装備したら『武器軽量化』や『筋力増加』の魔法付与がされているのかもしれないな。
しかし、 コイツをこのまま捨てていくのは勿体ないし、俺が持っておくか。売ればそれなりの値段になるだろう。
☆ ☆ ☆
俺達は回復をした後に、少しだけ休憩をしてから広間のドアを開けた。
今度は勝てない相手が居た場合、すぐに撤退するように指示をしてから。
勝てる相手かどうかの判断を、リアには出来ないので、俺が先頭に立ちゆっくりとドアを開ける。
「おっ」
ゆっくりと開けたドアの先に、モンスターの気配は感じない。
念のため灯火の魔法で照らしてみたが、何も居ないようだ。
安全を確認してから俺達はドアを抜けた。
ドアの先は通路になっており、道幅は俺とリアが並んで歩いても、余裕がある位の広さはある。
歩いていると、突き当りで道が左右に分かれている。
「右側の方から、話声がします」
話声?
俺には何も聞こえないけど?
リアは耳をピクピク動かしながら、うんうん頷いている。
「『城門と広間は制圧完了した。玉座まで進め』と言っています」
俺には全く聞こえないが、リアには聞こえているのだろう。
さっきみたいな強敵が出る可能性を考えれば、二人でいるよりも、他の冒険者や兵士と合流した方が安全だろう。
しかし、これが幻聴だったりしても困るし、ちょっと試してみるか。
「リアは可愛いなぁ(ボソボソ)」
聞き耳を立てるのに必死になっているリアには聞こえないよう、口に手を当てて小さな声でボソボソと呟いてみる。
「俺、一目見た時からリアの事」
俺の声に反応したのか、耳まで真っ赤にしたリアが、耳をピンと立てて恐る恐る振り返った。本当に耳が良いみたいだな。
リアは俺を見て、目をキョロキョロさせながら、口々に「あの、えと」と壊れたスピーカーのように何度も繰り返している。おー、照れとる照れとる。はっはっは。
すまん。言っておいてなんだが、これは俺も照れるわ。
「よし、声のする方に行こうか!」
「あっ……はい!」
俺達は速足で通路を駆け抜けた。
「今度はこっちから声が聞こえますねー」
「そうかー、じゃあそっちにいこうかー」
ごまかすようにテンションを上げながら。
☆ ☆ ☆
「どうやら、戦闘が始まったみたいです」
しばらく移動すると、金属音同士がぶつかり合う剣戟の音が聞こえて来た。
通路の先で戦ってる人が見える。俺達は走り出し通路を抜けようとした所で、誰かが通路に入ってきた。
血だらけになりながら、苦痛の表情で左腕を抑えている。その左腕は力が入ってないかのようにプラプラしている。
ソイツは辺りを警戒するように見渡し、俺達と目が合った。
「酒場に居た回復術士の兄ちゃん達か」
どこかで見た事ある顔かと思えば、俺がリアをからかう為に声をかけた冒険者のおっさんだな。
「ねぇ。リョウ」
「あぁ、わかってるって」
俺の裾をクイクイするリア。心配そうな目をしておっさんを見ている。ようはこのおっさんにヒールをかけてあげて欲しいって事だろ。
だが前にヒールをしてやった時に爆笑されたんだ。それ相当の態度でお願いしてもらわないとな。
さて、何をしてもらおうかな? ふふっ、今の俺は悪魔のような笑みを浮かべてるんだろうな。
ヒールを乞うだろう。そう思っていたが、おっさんの口から出た言葉は違った。
「お前ら、すぐに逃げろ!」
自らのケガよりも、俺達の身を案じるセリフだった。
「早くしろ! 悪魔が、バフォメットが出たんだ!」
バフォメットだって!?
暗黒騎士デュラハンよりも遥かに強く。NMOでは最も有名な”元”最強ボスじゃねぇか!?




