第6話「暗黒騎士デュラハン」
一本道の通路を抜けた先に、少々広い広間が見える。
広いといっても、大人が10人も居れば流石にきゅうくつになりそうな広さではあるが。
薄暗くて、部屋の全貌が見えないな。
「リア。ちょっと待ってくれ」
「どうしました?」
そのまま広間に入っていこうとするリアの腕を掴み、一旦止まるように指示する。
こういう時は、大抵モンスターが物陰に潜んで待ち伏せをしようとしている事が多い。
ゴブリンやコボルドはたいした知恵を持っていないが、たいしたことない知恵でもそれくらい考えることは出来る。あくまでゲームの中での話しだが。
初心者が待ち伏せを受けて全滅する事は少なくない。これがゲームなら良いが、現実では全滅=死だ。
警戒するに越したことはないはずだ。
「モンスターが物陰に隠れて待ち伏せしている可能性がある、灯火の魔法を使う」
「待ち伏せ? 灯火の魔法?」
「あぁ、光の玉が出て部屋の中を照らす魔法だ。もし物陰にモンスターが潜んでいたらソイツを倒してくれればいい」
「もし居なかったらどうします?」
「楽が出来たと、喜びを分かち合おうか」
この広さなら隠れれたとしても3,4体。それならリア一人で何とかなるだろう。
この時俺は、警戒しているつもりで、どこか自分を過信していたのだろう。
何とかならない場合もあるということを、俺は失念していた。
灯火で照らした広間には、確かにモンスターが待ち伏せをしていた。
暗闇に紛れた黒い影が露わになる。
漆黒の鎧を身に纏い、真っ赤な剣を携え、身の丈2mはあるかという騎士。
そして一番の特徴である”頭が無い”事で、こいつが何かわかった。暗黒騎士デュラハンだ。
ただのデュラハンであったなら、リアでも倒せるだろう。
その程度のモンスターなら俺の回復で十分間に合う程度の相手だ。しかし、目の前に居るのは、ボスとして出現する暗黒騎士デュラハン。
本来はパーティを組み、役割を決めてやっと倒せるほどの強力なモンスターが何故ここに?
道中があまりに楽すぎたせいで、どうせこの先も雑魚ばかりだろうとタカを括っていた。それが俺の一つ目のミスだ。
そしてもう一つのミスは。
「たぁあああああああ!!!!!!!」
勝てない相手だった場合、撤退する事を伝えていなかった事だ。
「おい。ちょっ、待て」
俺の制止が聞こえていないのか、勇ましくも暗黒騎士デュラハンに斬りかかるリアだが、一合の打ち合いだけで吹き飛ばされてしまう。当然の結果だ。レベルが違いすぎる。
慌てて駆け寄り、ヒールをかける。吹き飛ばされはしたが大きな怪我はしてないようだ。
アイツは襲い掛かってくる様子が無い。代わりに俺がヒールを唱えている間に通路側に向かって歩き。俺たちの逃げ道を塞いでくれやがった。
リアを連れて逃げようにも、通路は使えない。
じゃあ広間の先にあるドアか?
いやダメだ。ドアの鍵が開いている保証が無い。それにドアを抜けた先に何が居るのかもわからない。
それにゲームと違ってこいつもドアを抜けてくるだろう。今しがた油断してコイツとエンカウントしたばかりなのに、これ以上軽はずみな行動で事態を悪化させるわけには行かない
「いざ、尋常に勝負」
「……あんた、喋れるのか?」
「然り」
会話に応じてくれるということは、それなりに理性があるということか。
「えっと、ちょっと待ってくれる? アンタは万全な状態で戦いたいだろ?」
俺たちが動くのを待っているということは、こいつなりに騎士道精神みたいなものがあるのだろう。
このまま有無を言わさず襲い掛かられていたら、終わっていただろう。
「構わん」
どうやらOKみたいだ。
何とかこの場は繋げたが、今も尻餅をついているリアに話しかける。
「いけるか?」
俺の問いかけに、ゆっくりと首を横に振る。
見開いた目には涙が溜まっており、問いかける俺に見向きもせず、暗黒騎士デュラハンを凝視して体を震わせている。
ダメだ。完全に心が折れている。
「降参するんで、逃がしてください。ってのはダメかな?」
「降参するならば、今すぐ殺す」
そう言って一歩を踏み出そうとするのを「ちょっと待った、今の無し」と必死に呼び止める。
降参するのは無しか。
しょうがない、本当はあまりやりたくないが、緊急事態だしやるしかないか。
「なぁ、それじゃあ二人でアンタと戦う、ってのは有りか?」
「構わん」
「そうか、わかった。じゃあもうちょっとだけ待ってくれ」
無言だけど、襲い掛かってくる様子は無いからOKと受け取ろう。
俺はリアの視線から暗黒騎士デュラハンが見えなくなるように移動し、しゃがみ込む。
「リア。今までありがとな」
「えっ」
「このままじゃ二人死ぬだけだ。だから俺がアイツに向かって飛び掛る。そしたらお前は通路から逃げてくれ」
もしも俺が逃げ切れたとして、この小さな剣士を見捨てて逃げた回復術士なんかをパーティに入れてくれる冒険者なんて居ないだろう。それじゃあ結局、俺が積んでる事には変わりは無い。
生き残った先で罵倒を受け、惨めに死んでいくくらいなら、せめて格好くらいつけたってバチは当たらないだろう。もしかしたらまた転生させてもらえるかも。なんてのは流石に甘い考えか。
「逃げ切れたら応援を呼んで欲しいんだ。別に俺はこんなところで死ぬ気なんて無いから安心してくれ。あんなやつの攻撃くらい平気で耐えれるが、この通り攻撃手段が無いのでね」
もちろん嘘だ。
しばらく持ちこたえることは出来るだろうが、それくらいが限度だ。
「でも」
「お前だけが頼りなんだ。怖いだろうけど頑張ってくれ」
優しく頭を撫でる。
少しだけボーっとした様子で俺を見た後、リアは涙をぬぐい力強く頷いてくれた。
リアの手を引き、ゆっくり立ち上がらせる。
「準備は出来たか?」
俺は自分の装備を確認する。
ワルキューレシリーズを改良し自分好みの見た目にした鎧、盾、コート。どれも一般プレイヤーからしたら高価な装備だが、それでも暗黒騎士デュラハンを相手にするには心もとない。せめて神器シリーズの一つや二つ持っておくべきだった。
そんなことを考えて苦笑するしかない。
「いざ尋常に」
「勝負」
暗黒騎士デュラハンがこちらに向かって走り出すのに合わせ、俺も盾を構えて走り出す。
「リアも、戦う」
「えっ」
走り出した俺の横を、リアがついて来ていた。




