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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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45/122

42:活力漲るダンジョンマスター

 時系列的には、数日を遡る。

 それはちょうど、ワナジーマ辺境伯が、精鋭を護衛につけた己が後継者を、ダンジョン・タウンに押し込んでしまう決心をつけた頃の出来事。


 場所は、国境線を挟んだラコウ側の街道上で、舞台は、商隊に偽装された従軍用の馬車の中。


「…んっ」

と、それ・・が身を震わせる。

 フード付きローブですっぽりと覆われたそれ・・は、とても小さな声音で、そしてとても小さな身動ぎで、自身が幼子、あるいは少女であるということを消極的に証明する。


「くっそ、やっぱガキか。胸糞悪ぃ」

 檻に入れられ、手枷足枷に加え、目隠しまでされたそれ・・を見て、被験罪人である青年が憤る。しかしながら、自身もそれほど変わらない状況だ。


 なにせ彼も、同じ被験罪人の8人と、鎖で繋がれゴトゴトと、檻に入った少女とともに、馬車で何処かへと運ばれている最中なのだから。


 被験罪人とは、不死系ダンジョンが圧倒的に多かったがため、錬金大国として発展したラコウにおいて誕生した刑種《被験刑》に処された罪人を指す言葉だ。文字通り、安全性の確認されていない魔法薬に対する人体実験に、強制参加させられるという刑罰に処される者を指す。


 死刑よりは希望があるが、奴隷落ちより未来がない。

 さらに言えば、ラコウ帝国において奴隷よりも需要があるため、比較的に陥りやすい罪でもあった。

「俺たちに何をさせるつもりなんだよ…」

 たとえば、スラムで浮浪児たちのリーダーをしていたこの茶髪青年のように。


「この辺りが適当か?」

 その青年の問いかけに答えたわけではないが、それからしばらくの後に、先頭の馬車に乗るグレコーは、つぶやいて車列を止めた。


 馬車はいつの間にか街道を離れ、小高い丘の上に到着していた。

 道理で先程から揺れがひどく、尻が痛むわけだ。


「どう転んだって我らに損はない、か」

 馬車を降り、周囲を睥睨しグレコーは薄っすらと笑う。

 大事を前にして思い出されるのは、主、クリストバル帝の言葉だ。


 やってきたのは、国境線とワナジーマ、その、時代を感じさせる城壁に抱かれた町がよく見える丘の上だ。これから始まる陰鬱な戦いを思わせる空の色と、この季節特有の、力強い草原の緑。その境目を渡ってきた風が、グレコーの赤い髪を乱す。


「食料と、罪人と、我々を運んだ3台の馬車。たった5人の正規兵と、8人の罪人。そして新兵器ゾンビパウダーが一袋」

 被験罪人にそれらを降ろさせ、グレコーがつぶやく。

「確かに、すべてを失ったとしても、我らにはなんの痛痒もない」


 正規兵たちが天幕を貼り、小さな陣を整える。

 罪人たちが物資と、そして、少女の入った檻を馬車から下ろした。


「しかしワナジーマは――」

 くくくっ、とグレコーはこみ上げてきた笑いを噛み殺した。

 左手を、その薬指にはめられた、黒く禍々しい指輪を檻の中の少女に向ける。

「ううっ!」

 少女が呻く。


「――近く死者の町となることだろうよ」

 ごぼり、と音を立てて、丘の中腹に、深く暗い、底知れぬ穴が口を開けるのだった。


***


「いや、ちょっと待てよ、これ、おかしいだろ、やばいだろ」

 スラムのリーダーだった青年は目を見開いた。


 己から漏れた言葉であるはずなのだが、果たしてその言葉が本当に己の喉を震わせていたのかすら怪しくなる感覚だ。


 それほどの光景が、眼前で蠢いている。


 丘に穿たれた穴。

 そこから、爛れた死者の姿をしたモンスター、すなわちゾンビたちが、ワナジーマに向かって行進を始めたのだ。


 それだけならば、不死系のダンジョンに恵まれたラコウにおいて、人生に数度くらいならば立ち会う可能性のある光景。――町の墓地にはゾンビよけの壁がめぐらされ、墓守たちが交代で、昼夜を問わず死者の安寧を守っているような環境なのだから。


 だからこそ、この異常性が際立っているということが、少年にはよく理解できる。


 穴、穴、穴。

 穴は一つではなく、丘に無数に穿たれ、そこから途切れることなくゾンビが這い出してくるのだ。


 大暴走スタンピート、という単語が少年の脳裏に浮かんだが、それすら生易しいのではないかという気持ちになる。


「さて、罪人ども、仕事だ」

 そこに、追い打ちが来た。

 鋭い、猛禽類のような印象を持つ細身の男が、その瞳に剣呑な光をたたえてやってきたのだ。


「おおお、俺たちは、被験罪人のはずだ。こんな、強制労働まがいのことをさせられるいわれはねぇっ!!」

 その男を責任者であると判断し、苦情を申し立てた禿頭の被験罪人。

 彼の判断はある意味正しい。


「なるほど、もっともな言い分だ」

「うぷぁっ!? 何しやがるっ!?」

 しかし、ある意味では決定的に間違っている。


「いみじくも君は宣言したじゃないか。自身は被験罪人である、と」

 それは、逆らっていはいけない類の人間なのだから。


「う、うぉ、ぅお、うおおををヲヲヲオオオオォォォォ!?」

「ならば新薬、屍生粉末ゾンビパウダーの被験体になるといい」

 グレコーは己の右手袋に少量付着する純白の粉を、無造作にパンパンとはたく。その粉末パウダーは数瞬だけ宙を漂い、オレンジ色の寂光を放って溶け消える。


「さて、残り7人の罪人諸君」

 絶叫を上げ、禿頭の罪人が頭をかきむしりながらのたうち回る。

「君たちの仕事は、あのゾンビの大群に潜んで、敵の精鋭にこの屍生粉末ゾンビパウダーをひっかけてくることだ」

 彼の苦しむ姿から目を離せない7人だったが、それを聞いて流石にぎょっとする。


「大丈夫」

 その顔を見て、猛禽はニコリと笑った。

「ゾンビは決して君たちを襲わない」

「――ワシの奴僕がおるからのぉ」


 罪人たちは弾かれるように背後を振り返り、

「「「ひぃっ!」」」

それを見て悲鳴を上げる。


「カータヴェル卿、あれ・・の状態を見るに3,000前後が限界でしょう。制御し切れますかな?」

 死霊術師ネクロマンサー

 説明などされなくとも、その在り様でそれとわかる老人が彼らの背後に立っていたのだ。


***


「こ奴らは、概念を操る。それこそが、儂が長年問い続けてきた疑問の答えよ」

「概念――?」

 グレコーが問うたのは、この死霊術師ネクロマンサー職位ジーンを持つ老人が、3,000体のゾンビを制御できるか、ということだった。


「どういう意味ですかな、カータヴェル卿」

 しかし返ってきたのは、研究者よろしく、2歩も3歩も先を行った回答だった。


「ワシの奴僕ゾンビマスターは――」

 赤いドレスの貴族令嬢が、優雅な歩調で歩いてくる。

 しかしそれはゾンビであり、その美しさの面影を残し、腐敗している。

「――《ゾンビ》を制御、そして強化できるのじゃよ。」


 それは当たり前だろう――、とは口に出さず、グレコーは続きを待つ。

「1体1体のゾンビや、10体までのゾンビ、ではない。《ゾンビ》を制御・強化できるのじゃ。すなわち、この世界が《ゾンビ》と認めた存在を、ワシが観測した分だけ制御・強化できるということじゃよ。――このようにのぉ」


「ヲヲヲヲオオオオオオォォオォォォ」

 禿頭の被験罪人、いや、被験罪人だったものが立ち上がる。

 それはよろよろと、おぼつかない足取りで、一歩、また一歩、まっすぐゾンビマスターを目指して歩いてくる。


「――ひぃっ」

 誰かの、押し殺した悲鳴が聞こえる。


「此奴は、屍生粉末ゾンビパウダーの効果によって、世界に《ゾンビ》として認められたのじゃ。故にワシがゾンビマスターを介して操ることができるのよ」


 禿頭のゾンビは、腐敗した貴族令嬢に跪く。


「しかしのぉ」

死霊術師ネクロマンサーの老人は鼻をつまむ。

「眷属化でできるゾンビは臭くてかなわん。やはりアンデッドはダンジョン産が一番よ」


 その老人の言葉に、腐敗した貴族令嬢はスカートの端を掴んで優雅な一礼をするのだった。


***


 時を戻す。

 タツキは、絶好調、であった。


 サブコアの生成。

 タツキが触れた壁に出現したのは、夕焼けのような、見る者の郷愁をかきたてる輝きを放つ赤い宝玉。


 ダンジョンを操作し、子どもの頭ほどもあるそれを、誰の手も届かない天井に配する。


 サブコアは、速やかにコアへと接続し、広くなりすぎたダンジョンのエリキシル密度を調節する。また、それ自身が増幅器ブースターとして機能し、ダンジョンマスターの能力をわずかながら拡張する。


-----

ダンジョンマスターランク:4

・ダンジョン:現在 1097 (上限1100 + 400)

・使役ユニット:現在 251 (上限750 + 200)

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魔技アーツ

◯ダンジョンマスターの本能(親和:亜人)

・ユニット生成(B)up! /アイテム生成(B) /敵勢探知/ユニット視点(対象数+2) UP!/ユニット憑依/鉱物探知/サブコア生成(1 / 3)new!

◯異界の理(状態:封印解除)

・ステータス閲覧/自在掘削クラフター悪食の床スカベンジャー

◯称号:万魔殿パンデモニウム

・ユニット生成時の消費エリキシル1割減少

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 いくら呼吸をしても満たされなかった先ほどとは打って変わり、息を吸い込むたびに力が漲るような、自分の器が少し大きくなったような、不思議な感覚だ。


「じゃ、明日朝6時集合でよろしく。俺は先に休むから、みんなも疲れを残さないように」


 そう言ってタツキは早々に奥の1室に引っ込む。

 仲間たちに――特にチェリやカミューに――有無も言わせない早業だ。

「タツキ様、おやすみなさいっ!」

 それでもぶんぶん手を振ってくれるチェリに、心がほっこりする。


 ――さて、と。

 扉を閉め、内鍵をかけ、まるでワンルーム*****のような間取りの室内で、タツキは己の意識を拡張する。


 久しぶりなので、少し緊張する。

 なにせ、これから使うのは、タツキがワタシだった時にしか使用したことのない力だ。


 馬が大地を疾駆できるように。

 鳥が大空を飛翔できるように。


「どれ、行ってみますか最前線」

 ダンジョンマスターは、己がダンジョン内であれば、それがどこであろうとも、自由に転移ができるのだ。

 その能力をもって、敵地を先行偵察する。


「流石に今度は、転移先で女の子が落ちてきたりしないよな」

 タツキはチェリとの邂逅を思い出しながら、己の体をゆっくりとエリキシルに同化させていくのだった。


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