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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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93:ついに隣村を、ダンジョンマスターは取り込む

 戦いは怖いけど、タツキ様の役に立てるのがうれしい。

 いつも守ってもらってばかりで、なんにも返せていなかったから、チェリはここで一生懸命頑張る。タツキ様は優しくて、チェリの存在を認めてくれた。だから、この手で少しでもタツキ様の負担を減らしたい。


『殿方へのお返しは、なんといっても笑顔と触れ合いからですよ』

 と、エル姉さまがおっしゃっていたから、勇気を出して、なるべくタツキ様のおそばにいたり、ものすごく勇気を出して、ぴったりとくっついてみたりしたけれど、あれ、これ、もしかして、喜んでるのって私だけなんじゃないかな~、ってなって、タツキ様も優しく頭とか撫でてくれるから、いつもチェリは、ぷしゅ~、ってなって。


「でもっ!」

 今のチェリは、ちがうのです。

 タツキ様はチェリに魔技アーツがあるのかもしれないと言ってくださった。

 弓矢を持った私は、どれくらいの角度で、どれくらい弦を引けば、矢が、どこに飛んでいってどう落ちるのかが、ぜーんぶ、分かってしまうの。


 だから

「そこだよっ!」

私の放った矢は、吸い込まれるように、虹色蝙蝠に突き刺さり、

「エル姉さまっ!」

「はいっ!」

落下中のそれは、エル姉さまの鞭が粉砕、ぐにゃ、ってなって消えていきます。


「うーん、地上にもデカいのが混じってきたな」

 隣でタツキ様がつぶやきます。その声には微かに警戒の色がにじんでいます。


 今のチェリのお仕事は、お空。

 なので、そちらをあんまり見ている余裕はありませんが、これまでオオカミのような小型の獣たちの恰好をしていたイロナシのなかに、明らかにおっきなのが混ざり始めています。熊や、イノシシ、あるいはそれ以上の、角があったり、鼻が長かったりするモンスターのようなのもいて、その巨大な影が、どこか重たい雰囲気を運んでくるようです。


「――分かった。殺られなければどうということはない作戦だな」

 ダンジョン・タウンにいるサツキちゃんから提案があったのか、タツキ様の周りに、元気になる力のようなものが、集まってきます。


>ユニット≫魔族≫異種≫ミスリルゴーレム_ユニットランクA

「デカブツの進軍をとことん妨害してこいっ! 活動限界前に戦線を離脱してここに戻ってくることっ!」


 オレンジ色の魔方陣から現れたのは、美しい、宝石のような材質でできた5人の巨人たちでした。銀色の滑らかな表面は、朝の太陽をきらきらと反射して輝いています。どこか、女の人のような、柔らかな形の巨人たちは、タツキ様の命令に従って、イロナシたちの群れの中に突っ込んでいきました。


***


「ねぇ、あんた、この戦いが終わったら、ダンジョン・タウンに引っ越さないかい?」

 城壁の上で、乳飲み子を抱く母が言う。

「お、おめぇ、さっきまでダンジョンマスターはマオウの手先だなんて、わめいていただろうが」

「だって、他にどうしようもなかったじゃないか! 神父様も村長様も、何もしてくれなかった。子どもたちを抱えて、いつ化け物に殺されるか怯える毎日だったんだよ」


 しかし、この、ダンジョンマスターは、マオウの手先はとされる黒目黒髪の少年は、今、少なくとも自分たちのために、異形の魔物たちを食い止めてくれているではないか。

 これだけでも、これまで何もしてくれなかった為政者達よりずっとマシだ。


 さらに。

「そうだねぇ。ウチも引っ越してもいいな」

 隣で幼子の手を引く母も言う。

「この坊っちゃんたちは、ちゃんと魔物を追い払ってくれている。それに、今朝の肉だよ。こんなごちそう、うちの子に初めて食べさせてやれたんだ」

「ああ。あれは美味かったな」

「あいつら、なんの縁もねぇ俺達の村のために飯をふるまい、そして今、まさに戦ってくれてるもんな」


 タツキたちの奮闘はさざ波となり、


「引っ越す必要は…ありませんよ。…皆さんがダンジョン・タウンの住人になる…、と決心していただければ…、ここ、ミアズナが…ダンジョン・タウンの一部になります」


ウォルフが、更にそれを撹拌する。


「助祭様? それはどういうことで?」

「言葉のとおりです…。タツキ様は…、皆さんの決断を…待っているのです。皆さんの許可なく…、勝手にここをダンジョンにするのは…仁義にもとるそうですよ。…義理堅いんです、あの人は…」


「義理堅いダンジョンマスター」

 ウォルフの言葉のチョイスに、隣に立つルートが噴き出す。

「あ、そうそう、ダンジョン・タウンにはサツキ師匠…、ええと、凄腕の薬師がいるから、病気になっても、怪我しても、すぐに治してもらえると思うよ。あと、このお兄さんもけっこうすごいんだ。職位持ちジーンホルダーで、いくつか治癒法術がつかえるからね」

 そして、狙っているのかいないのか、ダンジョン・タウンの新たな価値を開示し、ウォルフの背中をぽんぽんと叩く。


「私は…まだまだ、若輩者ゆえ、…使える法術も…基礎的なものに限りますが」

「あはは、お兄さんはいつも謙遜するね。ほんとにすごいんだから、もっと自信もって!」

 今度は背中をバシバシとやられ、どんな顔をしていいか分からないウォルフ。


「あらあら、仲が良いのね」

「お嬢ちゃんも薬師なのかい?」

「はい。職位持ちジーンホルダーではありませんが、この戦いのために、サツキ師匠からいくつかポーションを預かっています。怪我をした人なんかがいたら教えてくださいね」

「本当かいっ! あとで診て欲しい人がいるんだ!」


 さざ波は、そんな2人の関与で大きなうねりを見せ始める。

 それは、衰退に晒されていた村の、色褪せた日常からすれば、鮮やかな原色のような希望であった。


「なあ、おい」

「ええ」

 互いに顔を見合わせ、それぞれの胸中に生まれた期待や不安を確かめ合うように、村人たちは頷きあう。


「私はなるわ! この子たちのためにも、ダンジョン・タウンの住人になる!」

「私も!」

「カカアだけを行かせられん。俺もなる!」

「あんた!」

「ぼくも!」「あたしも!」


 うねりは嵐となり、


「だ、騙されてはなりません! その助祭は偽物に違いありません! 骸骨のような見てくれ、マオウの手先にふさわしいではありませんか!」


それを押し留めんと足掻く者が現れるも、


「ああ…。よく言われますが…、この容貌は生まれつきで…す?」

「あのねぇ、オジサン」

そのエネルギーは失われるどころか、ルートの心にも新たな火をともす。


「あの…、ルートさん?」

 彼女は、発言者である神父然とした男を睨みつけると、ウォルフの骸骨顔の両頬に手をおく。

「言っとくけど、人は外見じゃないんだよっ!」


 そして、そのままウォルフをぐいっと自分の方に振り向かせると、

「え? ええっ!?」

「ボクの大好きなお兄さんをバカにしないでっ!!」

彼の薄い唇に情熱的なキスをした。


「「「おおーっ!」」」

「「「あらまぁ!!」」」」

「「「いいぞーっ! もっとやれーっ!!」」」


 賞賛と祝福の感情とともに、圧倒的な承諾の意思が、この暖かな輪に自分たちも加えてほしいという思いが、ダンジョンマスターに、真っ直ぐに届く。


「なんかそっち、いきなりすごく楽しそうになったんだけど?」

「うう~。決定的な瞬間を見損ねた気がします」

 一時だけ、戦いのさなかであることを忘れたかのように、そこかしこから湧きあがる、祝福と羨望の入り混じった声。


『私はバッチリ見たわ。後で全力でからかってやろっと』

「クロベニも見ました! 一緒にからかいますっ!!」


「えっと、その、お手柔らかにな」

 そして、新たな領地と領民を得た男が、苦笑しながらも満足そうに頷く。

 契約は、ここに成立したのだ。


「よし、これで村ごと防衛することができる」

悪食の床スカベンジャー》起動!

おかげさまで合計100話にたどり着けました! ありがとうございます<(_ _)>

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