14pt 悪役令嬢は尊敬される
「じゃああなああぁぁぁぁ!!!」「またな」「ま、またね」「またね!!」
「ええ、また。お気をつけてお帰りくださいまし」
満足した表情で帰っていく取り巻きたち。それを光も穏やかな表情で見送った。
そしてその姿が見えなくなったところで、振り返る。今まで取り巻きたちが遊んでいた会社を。そして、その歩みをそこへとむけた。
「さぁ。お仕事の時間ですわ」
「こちら、資料になります」
「お嬢様。こちらの確認をお願いします」
「新商品の一覧になります。ご確認のほどを」
先ほどの明るく楽しいテーマパークのような雰囲気は、一瞬にして消え失せた。というか、見せていなかったのだ。
この会社のまじめな部分というものを。
そして、
「こちらはこのまま進めて構いませんわ。こちらの資料は数が合わないので再度確認を。これは10番と23番、及び57番を生産停止に。逆に24番から33番までは増産を」
「「「かしこまりました」」」
光のまじめな姿というものも。
彼女とて会社は基本的に自分のスキルで選んだ優秀な者達に任せてはいるが、何もしていないわけではない。社長として最低限必要な書類には目を通すし、自分の会社がどういった方向性に動いているのっくらいは見る。
当然そこで役立つスキルも取得しているし、だからこそ光の会社は急成長後も安定して成長を続けられているのだ。
出る杭は打たれる世の中で会社が存続してきたのは、ひとえに彼女の力が大きい。
「お嬢様、今日も鋭いなぁ」
「てか、いつも思うけど計算ミスとかどうやって見つけてるんだろうな?あんなデカい額の中で見つかるのって小さいものだろ?」
「おかげで中抜きとかはやりづらくなってるからいいんだけど、不思議だよねぇ………あと、ちゃんと売れる商品と売れない商品の見わけもつくみたいだし」
社員たちも光の力というのは理解している。
不気味ではあるのだが、社員たちだってその力のおかげで高い収入を得られている。多少の恐怖は覚えても、それは尊敬も込められた畏怖に近いもののようでもあった。
「……よし。これで書類は全部ですわね?」
「はい。お疲れ様でございました」
「ええ。それでは私は軽く視察したら帰りますわ。皆様ごきげんよう」
「「「「お疲れさまでした」」」」
100枚近くあったのではないかと思える書類の束を、約10分ほどで片づけた。社員たちがそのあまりの早さにさらに尊敬と恐怖を憶える中、光は特に気にした様子もなく去っていく。
残された社員たちは頭を下げ、彼女を見送ることしかできなかった。
「さて。視察ですわ視察」
「はい。何からご覧になられますか?」
「そうですわね、まずは………………」
書類仕事が終われば視察。
各部署の雰囲気などを見ることも必要だし、安全性や効率を見ていることも重要。
そんな中で観ていくのは、
「天才とバカはまさに紙一重と言いますか………………」
「ええ。まあでもどちらにしろ、天才もバカもはさみも使いようと言いますし。良い環境を与えて出てくるもののいい部分さえ取り出せるのなら構わないのですわ」
先ほど取り巻きたちが見た失敗作のようなものの数々。
それの改良版が今、正式に生産され販売されているのだ。人形用の服を生産する機会は本物の洋服の生産ができる機会へと変わっているし、見た目が少年たちの心をくすぐったパワードスーツは、工事現場用や医療用、災害用のものに見た目を変えている。
それらもすべて元となる部分を作ったのは、強いこだわりを持つヲタクたち。見た目のかっこいいものや人形などが好きなものたちが、それぞれ自分の好きなものを探求して作っている。
後は作られたものを一般向けに変えるだけ。
「変人は多いですが、会社としては一切問題ないですわね」
「そうですねぇ。あまりにも変な人には個室を与えてますし、このままであれば何も問題はないかと」
この会社の強みは、圧倒的な天才と言われるタイプの変人が集まっていることだ。
通常の会社では御しきれないそれを、もとから多少はあった財力で管理できるようにしたのだ。
管理してしまえばかけた費用以上のリターンが帰ってくるためあとはそれをひたすら繰り返すだけ。そして、他社から引き抜かれないようにそれぞれの変人が伸び伸びと変なことをできるような態勢を整え続けることをすればいい。
「うん。とりあえず変人は変なことをしているだけで、問題は起きていないですわね」
「はい。特に問題はないように私も見えました」
案内役とそんな会話をしつつ、彼女は視察を終わらせる。
世界を代表する大企業を数年で作り上げた社長は、まだこの先の未来は明るいと確信していた。そして実際、暗くなるわけがなかったのだ。
「今日も、完璧な1日でしたわぁ!オホホホホッ!!!」
「「「「(このちょっとダサい高笑いとお嬢様口調がなければもうちょっといい社長なんだけどなぁ)」」」」
部下の忠誠も、あまり揺らぐことはない。
ただし、彼女の悪役令嬢らしさは不評のようだが。




