⑧ もじゃもじゃヒゲの白髪の老人
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「Whip、Whip、Whip」
オオオオオオおおおオオおおおオオオおオ!
オオオオおオオオおオオおおオおおおオオ!
オオおおおおおおオおおオおおおおおオオ!
オオオオオオおおオオおオおオオおおおオ!
オオオオオオおオオオおおおおおオオおオ!
おおおおおおオおおオおオオおおおおオオ!
放たれる力球を躱しながら、セバスの肩口から数本の血の触手が産まれ、ヤマダを囲むキョンシー達へと放たれた。
血の鞭は正確に関節部を捉え、敵のキョンシー達は体勢を崩した。
ガッキイイイイイイイイイン! とハンマーが地面を砕き、雪が舞い上がる。
身体能力でもPSI出力でも明らかに敵のキョンシー達の方が上だった。
セバスのハイドロキネシスは自分に触れていて、尚且つヤマダの血が混ざった液体以外は操れない。近中距離に特化した血の燕尾服であり、耐久性は低く、限定的に思う通りの形を作れるだけのPSI。とても戦闘向きではない。
ラプラスの瞳を用いた未来計算、そして、セバスのハイドロキネシスを用いたしなやかな乱戦。ヤマダ以外で、この戦闘を継続できる人間は居ないだろう。
――一手間違えればチェックメイト。
「ぞくぞくしマスネ」
ヤマダは嘯く。セバスと共に溶け合えるこの時間が何よりも好きだった。
「うおおおおおおおおおおおお!」
オオおおおおオおオオおオおおおおおオオ!
おおオオオオおおオオおオおオオおおおオ!
おおおおオオオオオオオおオオオおオおオ!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
背後で恭介の叫び声が聞こえる。あちらにも力球は放たれている様で、ホムラのパイロキネシスの音もしていた。
――恭介が死んだら、正確には、ホムラとココミに指示を出せる人間が消えたら、ワタシ達に勝ち目は無いですね。
敵のキョンシー達の意識は恭介達に向いている。アネモイとココミ両方を狙っている様だ。
「Gown、Spear」
――指示を出してる人間は何処に?
セバスに抱えられ。高速に回転する視界の中、ヤマダは敵のキョンシー達に指示を出している人間の姿を探した。
グルグル、タンタン、グルグル、タンタン。
ステップと回転をめちゃくちゃに挟みながら、ヤマダの視線がある人影を捉えた。
気象塔から五十メートルほど離れた場所。建物と建物の間の裏道から双眼鏡の様な物でこちらを見ている。
ジジジ。ラプラスの瞳の右のダイヤルを回し、その姿をズームする。
そこに居たのは白髪の老人だった。もじゃもじゃヒゲで顔当たり自体はとても優しそうだ。
その老人の顔にヤマダは見覚えがあった。
――あれは、
そう思い当たった直後、視線に気づいたのか、もしくは観察が終わったのか、老人は裏道の奥へとその姿を消した。
――……追手を出す余裕はありませんね。
ここに京香が居れば話は別だったが、彼女が来るのにまだ三十秒程かかる。
「この場を乗りきるのが先決デスネ」




