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2-19 雪上の攻防


***


「え?」


 突如として通信端末に届いたグループチャットに恭介は声を漏らした。


[襲撃されてます。アネモイを連れて百秒以内に気象塔に行きます。対応を頼みます]


 チャットアイコンにはヤマダの名前が表示され、第六課のリーダーである清金からすぐさまに返信が来た。


[分かった。アタシ達は三分で行く。恭介、ホムラとココミは何処?]

[僕達は全員研究所に居ます。マイケルさんも一緒です]

[恭介達は気象塔で待機。敵が来たら応戦。アタシと霊幻が来るまで時間を稼いで]

[了解]


 恭介は来客用ソファから立ち上がる。一つ席を空けて座っていたホムラとココミも習う様に続いた。どうやら状況は伝わっている様だ。

 ドタドタと研究所の奥からマイケルが走ってきた。


「おいおい! 敵が来るのか!? 恭介、カメラ持ってけ! データ収集よろしく!」

「何言ってんるですか! そんな余裕あるわけないでしょう!?」


 手渡された球体系カメラに恭介はいやいやいやと首を振る。非常時に何を言っているのだろうこの狸腹は。

 只ならぬ恭介達の様子に研究所の主任が歩いてきた。


『何があったのかね?』

『うちのメイドと執事がアネモイと一緒にキョンシー達から襲われてる。で、今、そいつらは気象塔目指して爆走中。ここも危険だろうな』


 恭介達が居る研究所は気象塔から目と鼻の先にある。安全とは言い難い。

 主任達の顔が強張った。ここに居るのは非戦闘員ばかり。護衛用のキョンシーは数体配置されているが、万全である保証は無い。


『ここで戦闘行為を許可するわけにはいかない。申し訳ないが、そこのココミを連れて外に行ってくれたまえ』


──くそっ。


「ホムラ、ココミ、外に出るよ。ヤマダさん達をサポートして清金先輩達が来るのを待つ」

「嫌よ、ここに居る方がココミは安全でしょ? わざわざ愛しいココミを危険な場所へ──、ええ、分かった行くわよ」

「……」


 ホムラは否定の言葉を翻した。ココミとの間でやり取りがあったのだろう。


「ちっ」


 恭介は舌打ちし、ホムラとココミを連れて研究所を跳び出した。

 気象塔まで人間が走って一分弱。着いたらすぐに戦闘だ。


「恭介ー! 録画よろしくー! そのカメラ投げるだけで良いからー!」


 背後からマイケルの声が聞こえ、恭介はフレームレス眼鏡の奥で眉を顰めた。



 恭介達が気象塔に着いた時、ヤマダを抱えたセバスが走って来る姿が見えた。ヤマダの手でレインコートを掴まれているアネモイがニコニコと手を振っている。

 セバスチャンの体には液体状の赤い燕尾服の様な物が絡み付いて、そこから赤い触手が何本も伸びていた。そして、その背後、伸びた触手の先で黒スーツのキョンシー達がハンマーを振り回している。


──あれが敵か!


「ホムラ、ココミ、PSI発動を許可する!」

「燃やせ!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 追手のキョンシー達が突如として地面より発生した火柱に包まれる。

 火柱が消えた後、雪は円形に消失し、その円を挟んで、恭介達と敵のキョンシー達は向かい合った。


「ナイスタイミング。キョウスケ、褒めてあげマス」


 セバスに抱えられたヤマダがウフフと笑う。その顔は青白く、首元がはだけていた。


「清金先輩は後一分強で来ます」

「なら、それまでここで応戦デスカ」


 敵のキョンシーの装備は耐熱処理がされている様でその体にまともなダメージは入っていない。


「ちっ」


 ホムラが苛立たし気に舌打ちする。設置型のパイロキネシスは生者には有効だが、キョンシーを相手取るのは難しい。

 敵のキョンシー達は再び突撃体勢を取った。PSI力場が時空を歪め、周囲に合計九つのテレキネシスの球体が生まれる。


「キョウスケ、ホムラを前衛に出せマス?」

「無理です」

「なら、アネモイを持っていてくだサイ。ワタシとセバスが前衛デス」

「了解です」


 ダン! ダァン!

 セバスと敵のキョンシー達が石畳を蹴り飛ばし、互いへと突撃した!

 恭介は頭の中で試算する。ホムラとココミが後何回PSIを使えるのか。


──ホムラは大きいのを三つ、小さいのを五つ。ココミは使えて一回か。


「ホムラ! 左側のキョンシー!」


 恭介は最もヤマダ達へ近づいていた敵のキョンシーを指さした。

 既にそのキョンシーはハンマーを振り被っている。


「燃えろぉ!」


 直後、ホムラの蘇生符は再び輝き、小規模な火柱がそのキョンシーの足元へより吹き上がる。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 ガッキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 ホムラが生んだ炎は目くらましとなり、ヤマダ達がハンマーを紙一重でかわす。


 オオオオおおおオオオおおおオオ! オオオオおオオおおおおおオオオ! オオおおおオオオおおおおオオオ!


 直後、三つの力球が恭介達へと放たれた。破壊の力球。一発でもまともに食らえば、挽き肉に成ってしまう


「回避!」


 ホムラとココミへ命令を出し、恭介はなりふり構わず左側に跳んだ。

 ギリギリで力球達の直撃は避ける事ができたが、一つが右靴の踵部分に掠り、足首が引き攣る。だが、折れていない。捻挫でもない。まだ、動ける範囲だ。


 オオオオおおおオオオおおオおおおオオオ! オオオオおオオオおおおオおおおおおオオ!


 やはり、敵のキョンシー達の目的はアネモイ、もしくはココミの様だ。

 ヤマダとセバスの攻撃を対処しながら、敵のキョンシー達は恭介とココミへ力球を放ち続ける。


「ココミに何するのよ!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ホムラが激高し、道路一帯を包み込み巨大な火柱を敵のキョンシーへ浴びせる。

 だが、炎では決定打に成らない。屋内戦であれば話は別だが、ホムラの炎は耐熱設備をされた敵のキョンシーを壊せない。


「ホムラ! 無駄打ちするな!」


 ダダダダダ! 走り回りながら恭介はホムラへ指示を出す。

 必死だった。自身へ向けられるPSI。それは無機質的に命を壊そうとする力の塊だ。

 跳んで、転んで、伏せて、雪が残る道路でそんなことをしたから、服はもう雪と泥でぐちゃぐちゃだった。

 そんな人間の動きと連動するように左手で掴んでいたアネモイの体もグリングリンと動く。


『アハハハハハ!  すごいすごい! 今日はパーティーなのかな!』


 アネモイの声だけが場違いだった。

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