S1-7 メイドと老紳士
「動きがやかましいデスネ。店長サン、オススメの家具ハ?」
「剣山が敷き詰められた折り畳み式の机はどうだ? 俺の自信作だ!」
「もしくは、全部歯車の衣装棚はどうだ? ちゃんと歯車が回転するぞ! 俺の自信作だ!」
「どちらも却下デス。ワタシの手をズタズタにする気ですカ?」
虹村兄弟がドタドタと持ってきた品物を即座に却下した。見た目は面白かったが、実用性は皆無どころか危険である。
「「どれ、次のオススメは!」」
声をハモらせながらアフロの二人は次の家具を取り出していく。
「どれもこれも前衛芸術と見分けが付きませんネ」
率直な感想を見せながらヤマダはウフフと笑った。訳の分からない物は面白い。
「小物が欲しいデス。見せてくださイ」
「「かっしこまりましたー! こちらお越しくださーい!」」
モッサモッサモッサ! アフロを小気味良く揺らし、虹村兄弟がヤマダ達を店の奥の小物コーナーへ連れて行く。
小物コーナーもカオスに満ちていた。オルゴールらしき物、貯金箱らしき物、包丁らしき物、まな板らしき物、……etc。まあ、とにかく、どれもこれも、〝らしき〟という三字が付く見た目をしていて、一見では何が何だか分からない。
「ワタシ達は物色するのデ、しばらく放っておいてくださいナ」
「「承知いったしましたー!」」
眼に痛い色のアフロを揺らして虹村兄弟達はヤマダ達の傍から離れ、店の奥に戻っていく。そして、すぐに何やら工作する音が微かに聞こえてきた。どうやらこれらの現代アート的家具はハンドメイドらしい。
「セバス、あなたも選びなサイ。後で見せ合いっこしましょウ」
「仰せのままに、お嬢様」
ヤマダはさてさてと棚へと眼を向けて、カオス的な小グッズ達を手に取った。
*
「「ありがとうごっざいましたー!」」
アフロ達の声を背中に受け、ヤマダとセバスは虹村ファニチャーから出た。セバスが持っていた荷物には新たに二つの小さな木箱が入った手提げビニール袋が加わっている。
結局、ヤマダが選んだのはドクロ型の香水入れだった。人間工学に真っ向から反逆したデザインが気に入ったのだ。
「セバス、あなたが選んだ物もセンスがありましタ。さすがワタシのキョンシー」
「いえいえ、お嬢様には敵いません」
セバスが選んだのはペンギンの形をしたペーパーナイフだった。見た目は可愛らしく、比較的デザインもうるさくない。ヤマダ達の部屋にあっても調和できなくはないデザインである。
「あラ? もうお昼の時間ですネ。セバス、帰りましょウ。ワタシは満足しましタ」
「それはそれは重畳でございます」
トテトテトテ。ヤマダは上機嫌に有楽天の階段を下りていく。時刻は十二時を回ろうとし、レストランやカフェが俄かに活気出してきていた。
何処かの食事処に寄ってから帰るのも選択肢の一つであったが、ヤマダはこのまま帰って、自宅で食事を取る事にした。既に外出に満足している。これ以上の外出の刺激は過分であり、満足を損なう物だ。
一階に到着し、丁度有楽天の出口が見えた時、ヤマダの視界、右前方十五メートルの店、スイーツシャングリラから見知った同僚、木下恭介とそのキョンシー、ホムラとココミが出てきた。
恭介は「うっ」と口元と腹に手を抑えている。その後ろではホムラが満面の笑みでココミに抱き着きながらワーキャー喋っていた。
どうやら一行は、というか恭介はそこからまだ動く気に成らない様で、スイーツシャングリラから少し離れたベンチに座り込んでいる。
──放っておきますか。
恭介に話しかけたとして、ホムラが騒ぐだろう。『ココミとわたしの邪魔をしないで。燃やすわよ』と、開口一番言うに違いない。
トテトテトテ。故に、ヤマダは恭介達に何も話しかけず、彼らの目の前を通り過ぎ、有楽天を出て行った。
有楽天を出て、日光を浴びる。本日は晴天なり。
自宅のベランダで本でも読みながらアフタヌーンティーをしよう。とびっきりに美味しいスイーツも添えて。
午後の魅力的な予定を立てる。
「セバス、本日の昼食は家で食べまス。美味しいものを作てくださイ」
「トマトパスタは如何でしょう?」
「エクセレント」
好々爺を引き連れて、ヤマダは鼻歌を奏でながら、トテトテトテと歩いていく。
メイド服のスカートがヒラヒラと揺れ、満足の行く休日をこのメイドと老執事は過ごすのだ。




