1-55 紫銀の輝き
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屋上を包み込みんだ炎の柱は京香と霊幻の頭から煙を出す結果だけを残した。
京香が放った鉄球がパイロキネシストの全身へと撃ち込まれ、その内の一つが額の蘇生符を捉え、その表面に罅を入れたのだ。
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
パイロキネシストがフェンスへと叩き付けられ、その体からダランと力が抜ける。
妹を守ろうとしたのだろう。パイロキネシストは鉄球が当たる直前テレパシストの体を押し飛ばした。結果、鉄球は全て彼女の体へ吸い込まれたのだ。
罅の入った蘇生符は性能を歪め、パイロキネシストの体がキョンシーと死体の二つを行き来する。
「ぐっ……がっ」
瞬きの意識の中でパイロキネシストはまだ戦おうとしていた。
「おねえちゃん」
未だ外的損傷の無いテレパシストが立ち上がり、姉へと駆け寄る。
姉妹のキョンシーの距離は再び零と成り、妹の手が姉の頬に触れた。
その光景を京香は黙って見つめる。既に鉄球はこちらに戻ってきていた。
京香達の勝ちだった。何をどうやっても前方の姉妹のキョンシー達に勝ち目は無い。
彼女達の敗北は決定し、撲滅は約束されていた。
「……ねえ、テレパシスト、聞きたいことがあるの」
質問にテレパシストは首だけを向けた。ずっと聞きたかったことが京香にはあった。
「何で誰も殺さなかったの?」
この二体がシカバネ町に来て決して短くない時間が経ち、少なくない戦闘があった。
にも関わらず、ただの一人でさえ、このキョンシー達は殺してない。
それは意識しなければ不可能で、意識していても難しい。パイロキネシスを発現しているなら尚更だ。
テレパシストはすぐには答えた。言葉を選んでいる様子は無い。瞳は無機質的だ。
「おねえちゃんが、駄目だって、思っていたから」
「それだけ?」
テレパシストは首を戻し、パイロキネシストを見つめた。
「私は、おねえちゃんさえ居れば、他はどうでも良い」
「そう」
「殺しても、壊しても、構わなかった」
「……そう」
──アンタの執着は、それ、か。
京香は目を細める。
このキョンシー達は二人きりの世界を望んでいる。
ただ、妹の欲しい物と姉が与えたい物がほんの少しズレていたのだ。
「ねえ、最後に、本当に最後に言うわ」
返答が分かっている問いを京香は聞く。
「投降しなさい。壊れないようにしてあげるから」
テレパシストはゆっくりと首を横に振り、姉の体を抱き締めた。
「おねえちゃん、行こう」
直後、パイロキネシストがガァン! とフェンスへ折れた腕を叩きつける。
戦闘の余波で歪んでいたフェンスの金具はパイロキネシストが与えた衝撃で外れ、グラリと屋上の外へと倒れる。
「待っ──」
姉妹のキョンシー達は屋上より落下する。
その時、京香の胸の中で、何かが撲滅した。
「追いかけて霊幻!」
「ああ!」
バチバチバチバチバチバチ! 京香は霊幻と共に全力で姉妹の下へと跳ぶ!
シャルロットを捨て、砂鉄と鉄球だけを周囲に纏わせた。
そして、倒れたフェンスから躊躇う事無くダイブする!
下方、三メートル先に、落下し、抱き締め合う姉妹の姿が見えた。
自由落下同士では追い付けない。
「アタシを撃ち落とせ!」
ドド、ドドドドドド! 京香は世界へと命令する。
できる限りの磁力を用いて、落下する自分の背へ鉄球を撃ち落としていく!
バキ、ボキ、バキボキバキ! 肋骨が砕ける。肩が砕ける。背骨以外の全ての部分へ鉄球を衝突させた。
「ッア!」
グン、グングングン! 鉄球がぶつかる度、京香の体が加速し、姉妹のキョンシー達との距離が縮まっていく。
二メートル、一メートル!
「捕まえろ!」
無我夢中で砂鉄へ命じる。ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン! 左腕から放射線状の砂鉄の網が広がり、姉妹へと掴んだ。
「引っ張れ!」
ギュン! 鉄の網へ一気に磁力を流し、京香は姉妹達を引っ張り上げる。
ガキッ! 京香の左肩が外れた。たが、その体が姉妹のキョンシー達に届く!
落下まで後八メートル!
「止まれ!」
次に求められるのは減速だ。網全体で自分達を包み、鉄球も全部使って体を研究棟外壁へと押し付ける。外壁へ磁場を貼り付ける余裕は無い。摩擦と空気抵抗だけが減速力だ。
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ!
火花が舞う! 首に頬に火花が落ちて、痛みが京香の意識を保たせた。
重力と摩擦の力比べは、ギリギリで減速という解を出す。
京香の蘇生符が銀色に輝いた。
「止まれええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
ジュウウウウウウウウウウウウウウウウ! 砂鉄の温度が摩擦で急速に上昇し、酸化鉄へと変わっていく!
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
相棒の笑い声が響く。離れない様に勅令したからだろう。霊幻も落下していた。
紫電を使って霊幻も加速して落下している。だが、このままでは京香達の落下が先だ。
「助けて霊幻!」
知ったことか。京香は相棒に限界を超えるよう命令を出した。
「任せろ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ!
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!
火花と紫電の音が京香の鼓膜を痛めつける。
霊幻との距離は四メートル! 落下まで後六メートル!
「止まれ止まれ止まれ止まれ!」
霊幻との距離は二メートル! 落下まで後三メートル!
──!
京香の頭に稲妻の如き一瞬の閃きが落ちた。ギリギリで右手を上に向け、砂鉄の一部を霊幻へと伸ばす!
「スポット!」
「了解!」
瞬間、霊幻の紫電が京香の伸ばした避雷針へと落ちる。
ビリビリビリビリビリビビリビリビリビビリビリビリビビリビリ!
磁場を制御し、ほとんどの電流が電気伝導度の高い鉄へと流れた。
体へ通る電流量は微量だ。それでも身体の自由は消失する。京香は脳だけをギリギリで動かしてマグネトロキネシスを制御する。
砂鉄の避雷針はスポットとなり、クーロン引力によって霊幻の体が更に加速した!
「ハハハハハハハ! 吾輩はお前達を助けよう!」
減速する京香達。加速する霊幻。迫り来る地面。
霊幻の体が、額の蘇生符が一際強く発光する!
「止まれええええええええええええええええええええええ!」
京香の蘇生符も更に強く輝いた!
「何でかって!?」
紫と銀の光が交差する! 落下まで後一メートル!
「スーパーヒーローだからさ!」
そして、霊幻の腕が京香達を抱き締めた!




