1-54 磁界の女王が支配する
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「霊幻!」
「おうとも!」
京香は霊幻に抱えられて跳び上がった。直後、先ほどまで立っていた居た場所に火柱が上がる。
グルグルグルグル! 京香の右手を中心に鉄球が回った。
「放て」
着地と同時に右手をピストルの形にして鉄球をパイロキネシスト達に放つ。
前方へと続く磁場のレール。京香にしか見えていない不可視のライン。
それに沿って、八つの鉄球はパイロキネシスト達へ吸い込まれていく。
「ちっ!」
パイロキネシストがテレパシストを抱えて左に飛んだ。
「曲がれ」
京香は即座に磁場を変形させた。鉄球の軌道は瞬時に捻じ曲げられ、敵へと届く。
「ココミ!」
最早回避は叶わぬと、パイロキネシストはテレパシストを庇う様に鉄球達へ背を向けた。
ド、ドドドド、ドドド! 八の鉄球がパイロキネシストの小さな背中へと衝突し、骨を砕く鈍い音を周囲へ響かせた。
──背骨は砕けなかったか。
ゴロゴロとパイロキネシストはテレパシストを抱えたまま転がった。京香ア手応えからダメージ量を判断する。追撃の手は緩めない。新たな磁場のラインを引き、鉄球を放った。
「舐めるな!」
ゴオオオオオオオオオ! ゴオオオオオオオオオ! ゴオオオオオオオオオ!
三つの火柱が京香達の周りに生え、視界が塞がれた。
ガンガンガン! 鉄球が屋上の床に激突する音がした。どうやら鉄球は避けられたらしい。
「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
裂帛とした叫び声を上げ、火柱からパイロキネシストが現れた。
戦装束たる炎のドレスは猛々しく、激烈な勢いを持っている。
「広がれ」
京香は新たに磁場の膜を作り、左側の周囲に漂っていた砂鉄の雲をシャルロットの前方に貼り付ける。黒い薔薇の形をした盾は強度を増し、パイロキネシストの拳と衝突した。
バキィ! 砕けたのは攻撃をしてきた側の拳だった。
「蹴り飛ばして」
「ハハハハハハ!」
京香の命令通り、霊幻の蹴りがパイロキネシストの腹へと突き刺さる。
「ぐっ!」
宙へ飛ぶパイロキネシストをエアロキネシストが受け止めた。
続いて、エアロキネシストとエレクトロキネシストが力球と炎を放ちながら跳んで来る。
──遅い。
「霊幻、後ろ」
「ああ」
霊幻を使って一歩後ろに跳ぶだけで放たれたPSIを回避し、京香は反撃を放った。
「薙ぎ払え」
作り出す磁場のレールが屋上に散らばせていた鉄球へ引力を与える。高速で集まった鉄球達はたった今攻撃をしていたはずのキョンシー達の全身を破壊した。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド! ボキバキボキボキバキバキバキボキボキ!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド! バキボキボキボキバキボキボキバキバキ!
「ッ」
錐揉み回転しながら屋上より落下する二体のキョンシーへテレパシストが小さく眉根を歪めた。
鉄球を集め、再び右手のピストルの周囲へ京香は周回させる。
大勢は決した。京香がPSIを発動して僅か一分強。戦況は一変していた。テレパシストが使役していたキョンシー達は全て消え、パイロキネシストの身体へのダメージも深刻だ。
「投降しなさい。アタシにテレパシーは通じない。パイロキネシスも霊幻が居れば避けられる。あんた達に勝ち目は無いわ」
「い、や、よ!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 京香は霊幻に抱えられて火柱を避ける。
「ねえ、そこのテレパシスト、あんたなら分かっていたでしょう? テレパシーがエレクトロキネシスの一種である時点で、アタシ相手に勝ち目は無いのよ」
京香のPSIはマグネトロキネシス。固有名は『アクティブマグネット』。任意の磁場を作り出すことで、任意の磁力を与え、任意の対象を操作する。それが京香の磁力を操る力だ。
磁場中において、電子にはその運動方向に対して直角の力ベクトルが働く。
磁力の壁を突き破るのにはテレパシーの糸はか細過ぎた。
「テレパシーはPSI発動中のアタシには通じない。霊幻の考えを読み取っても無駄よ。もうこいつには考えさせない。アタシの命令通りにだけ動いてもらうから」
「業腹だがな! ハハハハハハハ!」
腰を霊幻の右腕に抱かれながら、京香は命令を続ける。
勅令を受けたキョンシーはキョンシー使いの命令以外の動作が出来なくなる。京香はあまりその姿を見たく無かった。
姉妹のキョンシー達はフェンスに背を預けていた。二人は手を繋いでいて、キッとした瞳と、ボウッとした瞳の対称的な四つの瞳が京香を見つめている。
京香は在りし日の兄弟姉妹を思い出した。キョンシーの愛は、キョンシーの恋は、場合によっては人間よりも遥かに純粋で激烈だ。
「わたし達はあなた達には絶対に従わない。あなた達にココミを渡さない。わたし達を引き離させない。そこをどきなさい。わたし達は帰るのよ」
何処へ? とは、京香は聞かなかった。パイロキネシストの眼は不規則に揺らいでいる。足は覚束なく、フェンスに体を預けなければ立つことも難しいのだろう。
「それはできない。許されないのよ。この社会でキョンシーに自由は認められていない。誰かの所有物じゃければ存在を許されない」
本心を京香は語らない。この場で語るべき内容ではない。取る行動は変わらないのだから、この感情はどうでも良いことだ。
「私達は、二人きりで、居たい、だけ」
テレパシストの言葉は短く途切れ途切れだ。
「……きっと、あんた達は誰にも何処にも迷惑をかけないんでしょうね」
二体のキョンシーの感情は互いに向いて、強固に結び付いていた。
「そうよ! 何で静かにしておいてくれないの!? わたし達が何かしたの!? ただ二人で居たいだけなのに! ここに来れば幸せに成れるって思ったのに!」
ハハッ! 京香は笑った。そういう勘違いだったのか、と理解したからだ。
「うん。偶に、偶にね、勘違いするやつが居るのよ。シカバネ町はキョンシーのための町って。でもね、それはキョンシーを生産するためであって、キョンシーが幸せに暮らす為ではないの」
「ッ! 何よそれ!」
怒りは何に向けた物なのだろう。理解しようとはしない。理解したからと言ってその想いを汲み取りはしないのだから。
しばしの時間が経った。呼吸にして五つ分。
京香と霊幻の第六課の最終兵器、そしてキョンシーの姉妹が向き合った。
何の偶然か、動き出しは全くの同時だった。
「放て」
「燃えろ!」
磁力と炎が交差する。
勝敗はすぐに着いた。




