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① 顛末

「以上が今回、ココミとホムラをモーバに奪われた経緯に成ります」


 ココミとホムラを奪われて一週間が経った。京香はハカモリ本部ビル七階の局長室にて水瀬へ今回の戦いについて報告していた。


 部屋には今外国を飛び回っている第四課主任の関口を除いて各課の主任が集まっていた。


「……黒木、今回の被害は?」


「第一課、第二課、第四課、第五課の捜査官が合計十二名殉職。戦闘用キョンシーが二十体破壊です」


「少ないな。あの攻撃だ。もっと被害が出ると思ったが」


 水瀬の言葉へ長谷川とアリシアが続く。


「僕が戦ったヨシツネとベンケイは明らかに時間稼ぎを目的としていました。第六課だけを狙い撃ちした攻撃だったんだと思います」


「第一課の方も同じだ。第六課に付けていた捜査官達は全員死んだが、他の捜査官とキョンシー達への被害は少ない」


「第六課への、もしくは第六課からの通信だけが妨害されていましたからね」


 後で知ったことだが、戦いの中あった通信妨害は第六課にだけ仕掛けられた物だった。


「今回のモーバの作戦は一から十まで博打だった。まず、戦いの開始からがそうだった」


「ココミと遭遇するまでカケルをシカバネ町でランダムに歩かせるという物でしたね。しかもわざわざミチルに人格を変えてまで」


 カケルの名前が出てきて、京香は少し目を伏せた。


 今回の戦いでカケルの死体が回収され、その脳が解析された。


 まず、モーバが考えたのはいかにして気付かれずにココミに接近するかだった。


 ココミは普段から自動的にテレパシーを発動している。これは結果として広範囲の索敵に成っていた。


 例えば、今回空に坐していたアネモイが高速で近づいたとしてもその接近をココミは察知できる。常にココミの周囲には恭介筆頭とした護衛が付いている。となると、そう簡単にココミを奪うのは難しい。


 けれど、ただの通行人であれば話は別だ。害意の無い思考の相手をココミは敵として認識しない。


「カケルがミチルの人格になるトリガーは〝頭に何かを付けること〟だったな?」


「より正確には頭の穴を塞ぐこと、ですけどね」


 カケルは、京香達が良く知るミチルとしてシカバネ町を歩いていた。京香達とハカモリで過ごした記憶は無くなっていた様だが、それでもミチルの人格としてただひたすらに徘徊していた。


 確率論の話だ。シカバネ町は広い。ランダムに歩いていてそうそう目的の人物とキョンシーに会えるものではない。だが、無限に歩いていればいつかどこかで必ず遭遇する。それに敵は賭けたのだ。


「そして、一つ目の賭けは成功した。アタシ達はまんまとカケルの接近を許し、敵の攻撃を許してしまった」


「ああ、だが、それだけならば問題ない。敵は後三つ博打を仕掛け、それに勝った」


 水瀬が眉根を揉み、黒木に続きを促した。


「二つ目の賭けは、異形のキョンシーの言語をハカモリが解析しきる事。三つ目の賭けは異形のキョンシーの言語化パッチがココミに届く事。そして最後、四つ目の賭けは言語化パッチが適用された状態で清金京香がココミと接近することです」


「聞けば聞くほど馬鹿らしいですね。カズキ、ケイ、キョウカ、戦う人間としてのあなた達に聞きますが、こんなこと作戦と呼べるのですか?」


 アリシアの言葉に京香達は首を横に振った。


「第一課の感覚で言うが、あんな作戦正気ではない。全ての行動に運を絡め、その全てに勝たなければ成功しない。俺ならばそんな作戦立てないぞ」


 モーバの今回の行動はただの大博打だ。作戦などではない。確かにこれらの博打に全て勝てばココミとホムラを奪える。


「こんな作戦で来るなんて無謀も良いところだわ。モーバはキョンシーの組織なんでしょう? こんな合理性の無い行動をする?」


「ええ、キョウカの言う通り、集団としてはありえません。ですから、個体もしくは個人の判断なのでしょうね」


 これは、マイケルとも一致している見解です。そう短く付け加えられた言葉を受け、京香の脳裏にシロガネの顔が浮かんだ。


――シロガネの暴走だ。


 何故だか確信があった。自分をネエサマと呼ぶあの真っ白なキョンシーが今回の作戦を立てたのだ。


 シロガネの執着はおそらくだがクロガネに関係している。クロガネに尽くすことそのものなのか、クロガネの望みを叶えることなのか、詳細は分からないけれど、今まで相対してきた記憶からそう考えられた。


「――とにかく、だ」


 パン、と水瀬が手で机を小さく叩き、京香達の視線を集めた。


「我々はココミを奪われた。世界で唯一のテレパシストをだ。考えるべきはこの先どうするかだ。黒木、敵からはまだ何の要求も来ていないんだな?」


「はい。今のところは、ですが」


「敵の場所も掴めていないままか?」


「第三課と第二課の総力を上げていますが、手掛かりも見つかっていません」


 念願のテレパシスト奪還が叶ったというのにモーバからは何の音沙汰も無かった。


 今、オーストラリアに居るという関口の方でも協力者とココミの居場所を探しているが、進展は今の所無かった。


「アリシア、マイケルとメアリーを呼べ。テレパシストのキョンシーを使ってモーバが何をしようとしているのか、もう一度議論させろ」


「ここ数日ずっとですね。承知しました」


「……桑原、長谷川、清金、お前達は下がれ。体を休める様に。特に清金、お前、まだ傷が治っていないだろう」


 京香と長谷川は頭を下げ、局長室を出て行く。ここから先はキョンシー技師達の領分だ。戦闘専門の捜査官が居ても邪魔に成るだけである。


 コツ、コツ、コツ。長谷川と並んで京香はエレベーターに向かう。


「桑原さんと長谷川もお疲れ。一課と五課の被害はどれくらいだった?」


「一課の死亡者はココミの護衛に付けていた者達だけだ。キョンシーの破壊も数体。もう補充が終わっている」


「五課はベンケイにひき殺されたのが四名。汎用型キョンシーが十数体破壊ですね。ただ、イルカはまだ使えるくらいの消耗で済みましたよ」


――きっと見た事のある人間とキョンシーが死んじゃったんだろうな。


 頭に浮かぶいくつかの顔を京香は考えない。そのような場合ではないからだ。


「清金、長谷川、この後お前達はどうするんだ? 俺は一課の階に戻るが」


「僕も同じです。五課のみんなの様子を見に行きます」


「アタシはちょっと葉隠邸に行ってくるわ」


 京香が出した言葉に、桑原の眼が僅かに陰った。


「……葉隠スズメの容態は?」


「あんまり良くないみたい。無理をさせ過ぎちゃったから」


 今回の戦いの中で一番最初にモーバの作戦を見抜いたのはスズメだった。


 そして、スズメは自分にできる全てを使って京香を助けようとし、最後にはバツの所へ自ら赴くまでしたのだ。


 大人達の前に出れないスズメにとってそれは精神的な自殺行為の様な物だ。


 その無理が祟り、スズメは今葉隠邸で絶対安静状態に成っている。


「アタシの所為で無理をしちゃったから。お見舞いに行かないと」


「そうか」

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