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② 心音




「おお、京香、克則との話は終わったか。」


 京香が本部ビルの一階に降りた時、霊幻と恭介達がこちらへ手を振った。


「お疲れ。アンタ達の方はどう? 霊幻とフレデリカは調整で、恭介と治療だったよね?」


「ハハハハ。吾輩は問題ない。今回あまり損壊しなかったからな。既にもう万全だとも」


「僕はまだ火傷が残ってますけど、培養皮膚が残ってましたし、一週間もすれば治ります」


「フレデリカは全く問題無いわ! 少しPSIを使い過ぎて疲れたくらいだもの!」


 三者共致命的な怪我はしていない様だ。


 霊幻達を連れ、京香はそのまま本部ビルを出る。このまま恭介の車に乗り葉隠邸に向かう事に成っていた。


「恭介、シラユキの調子は? マイケルの所で調整中よね?」


「そっちもあまり問題無いみたいです。明日には脳や体の調整が終わりますよ」


「リコリスについては何て言ってた?」


「脳へのダメージは問題ないです。ただ、体の損壊が深刻だと言ってました。今リペアカプセルで細胞を復元中です」


「アネモイの攻撃を受けて体が残ってるだけマシよね」


 助手席に乗り込み、運転席の恭介からの返答を聞きながら京香は第六課が受けた被害を考える。


 最も損傷が酷かったのはリコリスだ。解析したログによれば、彼女はアネモイからの攻撃を直に受けたらしい。それにより、脊椎や四肢の骨の大半が砕けてしまった。


 リコリスのボディは不知火あかねの意向でほとんどが元の素体のままだ。マイケルとアリシアが技術の粋を決して改造した特別品である。他に代替が無い。


「リコリスの修理にはどれくらいかかるか言ってた?」


「完全に直すのには一か月。とりあえず動けるようにするのに一週間だと言ってました」


 他の第六課のメンバーが受けた被害は軽微だった。恭介の火傷が重いと言えば重かったが、それでも命や体の動きに問題は無い。


「ホムラとココミ、何処に居るんでしょうね?」


「今の所手がかり無いのよねぇ」


 恭介の運転に揺られながら京香はため息を吐いた。第二課と第三課が総力を挙げて調査しているが、ホムラとココミの行方は分かっていない。


「モーバの目的が分からないのが不気味であるな」


「テレパシーを使って何をしようとしているのかしらね」


 モーバはずっとココミに執着し、どうにか奪おうとしてきた。ココミが必要な理由はモーバが掲げているエンバルディアの達成のためだろう。


 キョンシーのための世界を作るというエンバルディア。そんな馬鹿げた目的のためにテレパシーが必要なのだ。


 テレパシーの可能性はこの現代社会においてほとんど無限に等しい。それが敵の手に渡ってしまった。


「恐ろしいわね」


「ええ、本当に」







「スズメ、来たわよ」


「う、ん」


「あ、いい。起き上がらないで。アタシがそっちに行くから」


 葉隠邸に到着し、京香はサルカに連れられスズメの部屋まで来た。


――酷いわね。


 スズメの有様は悪化していた。血が通っているのかと疑いたくなるほどに肌は白く、また体が細くなってしまっていた。


 周りでは残った給仕のキョンシー達が忙しなく動いていて、どうにか主を治すのだとインストールされた治療プログラムを実践している。


「調子は?」


「京香が来てくれたからかんぺきー。毎日会えてるから嬉しいぞー」


「なら来た甲斐があったわね」


 スズメの隣に座り、彼女が喜ぶからと布団の中の手を握る。


 冷たい手だ。体温が上がっていないらしい。


「今日は何をしてたの?」


「水瀬局長と主任達で反省会。ホムラとココミが奪われちゃったからね。それと今後の対応とかを話してたわ」


「そっか」


 この数日、京香は毎日スズメの見舞いに来て、簡単な雑談をしていた。


「ごめん、ね。私達がもっと早く、モーバの目的に気付いていたら」


「スズメは何にも悪くないわ。むしろ、アタシを助けようとしてくれてありがとうね」


 見舞いの度にスズメは謝罪する。


 ホムラとココミが奪われてごめん。役に立てなくてごめん。そう謝ってくる。


 それはおかしな話だった。確かに京香はスズメを協力者として扱ってきたけれど、そもそもスズメはキョンシー犯罪の被害者であり、ハカモリの人員ではない。


 ホムラとココミが奪われた責はハカモリにあって、スズメには無いのだ。


 だけど、そう言ってもスズメには通じない。彼女は京香を助けるために動いたのだ。そこにあるのは責任などではなく執着と言った感情の発露である。


「本当にスズメは何にも悪くないから」


「でも、私がもっと早くカケルを見つけたりできていれば」


 そう言っても通じない。分かっていても京香は同じ言葉を繰り返す。


 感情は体調を変えてしまう。今のスズメはとてもまずい状態だ。ネガティブなことを考えないで欲しい。


――言っても駄目だろうけど。


 人に言われてどうにかできる物ではない。自己嫌悪とはそう言う物だ。


「……スズメ、ちょっと布団に入っても良い?」


「良いの?」


「うん。今日はもうこの後何の予定も無いから。一緒に寝てあげる」


 衣服を緩め、布団に潜り込み、京香はスズメを片手でスズメを抱きしめる。


「わぁ、京香の匂いだ」


 嬉しそうにスズメが僅かにこちらへ身じろぎする。京香の腕に伝わる感触はとても脆い。


「ほら、嫌な事とかは考えないで。今は体を治すことだけ考えなさい」


 腕からスズメの心音が伝わる。か細く、少し不規則で、いつ止まってもおかしくない様な僅かな音だ。


 視線を動かし、京香は部屋の時計を見る。霊幻と恭介達は別の部屋に居させているが、後二時間程度はこうしていても良かった。


「また、一緒にゲームとかしましょう。だから、今は休んでね」


 京香は理解している。スズメはもう駄目だ。きっともうすぐ死んでしまうだろう。


 スズメの体からは命の重さが無い。失われてしまった。


 失わせてしまったのは他らなぬ自分だった。


「じゃあ、ちょっと一緒に寝ても良い?」


「ええ」


 京香がしているのはただの延命措置だ。それも劇的に伸びる訳ではない。


 小さな心音を手で感じながら、京香は眼を閉じるスズメを見守った。

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