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⑤ 落とし前




 コチョウの体はできる限りの肉抜きがされ、胸から下は針金の様なほとんど骨組みのパーツだけである


 今、関口の二色爆弾でコチョウの下半身は千切れ飛び、腕も壊れていた。


 これでは羽ばたくことなどできはしない。


「……ちっ」


 京香は舌打ちした。コチョウのすぐ近くと一階北側の大穴の近くに、エレクトロキネシストの残骸を見つけたからだ。


 関口の隣で残った一体も体の全面が焦げ、皮膚の下の肉片が露出している。


 そのすぐ近くでは、原型を留めていないテレキネシストの肉塊が壁に貼り付いていた。


 クネクネクネクネ! バチ、バチ。


 糸の力場から関口を守る様に放たれる電流も弱々しい。あのキョンシーはすぐに壊れるだろう。


 吐き気がするくらいちゃんとした、キョンシーの使い方だった。


「霊幻、周囲を警戒していて。糸は撃ち落としなさい」


 軽く命令を残して京香は関口へ近付いていく。


「コチョウはまだ直せそう?」


「頭は無事だ。最悪パーツを全部作り直せば行けるだろ」


「そ。一応聞いとくけど他のエレクトロキネシストは?」


「二号以外は壊れた。コチョウのエアロキネシスに勝つのには出し惜しみできなかったからな。全壊か半壊か、五分五分の賭けだったけどよ、とりあえず勝てたっぽいぜ」


 コチョウが関口に持ち上げられ、腕がぷらーんと揺れた。


「ま、とりあえず水瀬さん所に戻ろうぜ。一階は制圧できたってな」


 関口は何てことの無い様に京香へと振り返り、研究棟の一階から出て行こうとする。


「まあ、待ちなさいよ」


 その顔に向かって京香はトレーシーを向けた。


「……何のつもりだ?」


「……」


 コチョウは何も言わず京香へ眼を向け、時折その腕が動こうとする。


「関口、何でキョンシーを自爆させたの?」


「コチョウに勝つためだ。生半可な爆発を利用されて終わりだ。霊幻への対応にリソースを割いたタイミングで出来る限り近距離での大爆発。一番勝率が高かったからだ」


「へぇ、なるほど。代わりにあんたが連れて来たエレクトロキネシストは全員お釈迦に成ったわよ。見なよ、あんたの隣のその子の姿。肺も内蔵も首も脊髄も全部無茶苦茶」


 京香の言葉に、全壊したエレクトロキネシストへ関口は眼をむけるどころか、やれやれと呆れた様に息を吐く。


「コチョウとこいつらじゃ価値が違えよ。コチョウのエアロキネシスが帰って来るなら汎用エレクトロキネシストなんて百体壊しても釣りが出る」


「あんたの意見は正しいわ。どこまでも正しくて涙が出そうよ。オーケー、納得してあげる。エレクトロキネシスト五体、テレキネシスト三体を壊したことに正当性も根拠もあるって頷いてあげる」


「おお、お前にしては物分りが良いじゃねえか」


 関口はわざとらしく笑った。京香もわざと笑い声を出す。


 ハハハハハハハハハ。アハハハハハハハハ。


 京香はトレーシーへの引き金へ指を掛けた。サングラスの奥で、関口が眼を細めた。


「……おい、やる気か?」


「あんたがあんたのキョンシーを壊すのは納得してあげる」


 引き金へ力を込めていく。関口からは笑みが消え、京香の唇には笑みが残っていた。


「でも、霊幻を傷つけたことは許さない。あいつはアタシのキョンシーよ」


 関口は右手をスーツの懐へと入れた。


 カチッ。後一押しでトレーシーの弾丸が射出される。


「さあ、関口、答えなさいな。あんたはどうやってアタシに償うの?」


「……………………霊幻の修理に掛かる費用は第四課が受け持つ。お前に対してなら、正式に謝罪もしよう。望むなら俺の腕を一本折ってやる」


 関口の声に澱みは無い。やると言ったらやる男だと京香は知っている。


 故に京香は銃口を下げ、引き金から指を外す。


「……良いわ。この場は引いてあげる」


「おう」






「一階を制圧できたか?」


「ああ、交代で入った奴らがヘマしてなければだけどな」


 コチョウを第四課の部隊に回収させ、集中修理へ運ばせた後、研究棟の南側で京香と関口達は水瀬へ一階での顛末を報告していた。


 京香の後方で霊幻が第三課から応急修理を受けていた。代わりの左腕は無いが、露出した電線やワイヤーなどを補肉材で埋めている。


「で、だ、水瀬さん。これからどうする? コチョウの修理を考えると今日明日中には研究棟、つーか俺達のキョンシー技師を取り返したいんだが」


「焦るな。一階は確保できた。エレクトロキネシストをかわるがわる投入して少しずつ階を上げていくぞ。まあ、お前が大体の備品を爆弾で吹き飛ばしてしまったが」


「研究棟に残ってるキョンシーは第四課のエアロキネシストが二体、第五課のパイロキネシストが五体、他は共同利用のエレクトロキネシストが二体、で、テレキネシストが五体ね。パイロキネシストが厄介だわ」


 屋内へ攻め込む立場に立った時、相手にパイロキネシストが居るのは面倒な状況だ。無酸素でも動けるキョンシー相手に、火の海の中で人間では戦える術が無い。


「火でも放たれたら研究員達が死んじまうしな」


『耐火設備はされているはずですけど、確実では無いでしょう。幸い放出型のキョンシーしかあそこに居るという情報はありません。設置型パイロキネシストの野良キョンシーを除けばですけどね』


 長谷川が言葉に京香達は全員考え込んだ。


「どちらにせよ、二階より上に居る研究員達が何処に集められているのか、まだ生きているのか。その情報が必要だ。関口、長谷川、清金、案は無いか?」


 ハカモリの研究棟は二階以上が研究員達の居る仕事スペースである。二階と三階を一課から三課までが、四、五、六を一階ずつ四課から六課までが保有している。


「俺の爆弾で一階の天井が少し砕けたけどよ、そこから人間の声とかは聞こえなかったぜ」


 各フロアそれぞれ防弾防塵防炎防風とあらゆる処置が為されており、先程の関口の爆弾を受けたとしても天井の一部だけが崩落するに留まっていた。


「そうね。眠らされてるのか、死んでるのか、三階以上に居るのか、さあ、どれかしら?」


『最悪の想像は後にしときましょう。まずはどうやって研究員達の状況を知るかです』

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