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① 入院生活

 穿頭教との戦いから一夜明け、京香はシカバネ町東部のヴァイオレットクリニックのベッドで横に成っていた。その顔と腕には包帯が巻かれている。


「……三日か。面倒ねぇ」


 露出していた腕と顔に中度の火傷。ヴァイオレットクリニックの医長、篠原(しのはら) (すみれ)が下した診断は完治三日だった。自然治癒ならば完治に一ヶ月は掛かるが、これもキョンシー開発技術の発展と共に発達した医療技術のおかげである。


 水ぶくれが酷いが、三日もすれば跡も残らず京香の肌は綺麗な物に戻るだろう。


 京香とすればさっさと退院したかったが、それは菫が許可しない。


 ヴァイオレットクリニックはハカモリと専属契約を結んでいる病院であり、この病院を利用する患者達は治療及び入院中、菫の言葉への絶対服従が義務付けられているのだ。


「京香、さっさと回復しないのか?」


 ベッドの脇に置かれた椅子では霊幻が腰掛けており、備え付けのテレビで、マントを付けたパンを配るヒーローの長編映画を見ている。


「生きている体はね、そう簡単には回復しないのよ。三日くらい休ませなさいな」


 あまり動く気にもならない京香は霊幻と共にヒーローの活躍をぼんやりと見ていた。


「それならば吾輩を巡回に行かせろ。外には未だ撲滅の対象が溢れているのだ」


「持ち主のアタシが動けないのにアンタみたいな暴走キョンシーを自由にさせたらリアルに職を失うわ」


「……やれやれ、面倒なことだ。お前の職と撲滅どちらが大事だと思っているのだ?」


「アタシの職」


「ふむ、そう断言されると吾輩は何も言えんな」


 霊幻は残念そうに愛と勇気が友達のヒーローへと目線を戻した。


「アンタは昔からこのヒーロー好きよねぇ」


「吾輩の目指すべき姿だからな。このマントも彼をリスペクトした物だ」


 実際の所、京香も三日間入院と言うのは暇だった。


――ヤマダからの情報でも見よ。


「イタタ」


 痛みで京香は顔を顰めながら京香は脇に置いていたタブレットへ右手を伸ばした。


 そして京香はベッドを左手のリモコンで少しだけ起き上がらせ、タブレットを起動する。


「さてさて、ヤマダの考えはどんなのかしらね?」


 ヤマダからの報告は主に三つの情報で纏まっていた。


① パイロキネシストのPSIの特徴。


② パイロキネシストの身体の改造の程度、怪我の具合、そしてPSIの挙動の異常。


③ 正体不明の糸の力場。


 ①について、これは霊幻の見解と同じ、設置型のパイロキネシスという結論をヤマダは出していた。PSI力場を設置し、任意のタイミングで発動させるというのが特徴である。


――正直、前線向きのタイプじゃないわね。


 設置型のPSIは後方支援に向いている。激しい戦闘中、いちいち設置からの発動と言う無駄なステップを踏んでいる暇が無い。


 ラプラスの瞳に記録された映像を見てもそれは明らかだ。ヤマダがラプラスの瞳を使った未来予測を使ったとはいえ、一度たりともまともな反撃ができていない。


 ②について、このキョンシーの身体改造は一般的な戦闘用キョンシーと同程度らしい。


――セバスさんとの改造具合は五分五分。


 戦闘IQがこのパイロキネシストは高く無いのだろう。身体に不具合も出ているのだ。右腕の運動回路は壊れ、脚の腱が切れかかり、左膝の関節が半分割れている。


 この状態で近距離戦を得意とするヤマダとセバス相手に勝てるはずが無い。


 設置型のパイロキネシスの本領は長期決戦で特に家屋内での防衛戦であり、そのためには何より万全の脳状態が必要である。


 PSIは脳細胞を磨り減らす。このキョンシーのパイロキネシスの出力が不安定に成っている。高出力と低出力がランダムに出てくると記述があった。壊れかけのキョンシーのPSIに良く見られる挙動。ヤマダ相手にこの不安定さは致命的だ。


 このキョンシーの今の状態は霊幻やヤマダ達から逃げ切れる物ではない。にも関わらず、ハカモリ第六課は二度に渡り、この野良キョンシーを取り逃がしている。


 ③について、これが逃げ切れた理由だろう。糸の力場、その様な力場の形をしたPSIを京香は知らない。現存する大抵のPSIについてデータをインストールしてある霊幻も知らないと言っていた未知の力場。しかも、この糸はヤマダの頭を狙った。


――エレクトロキネシスじゃない?


 京香達は二体目の野良キョンシーはエレクトロキネシストだと思っていた。だが、頭を狙うPSIということは精神感応系の可能性が出てきた。


 京香は霊幻がパイロキネシストと交戦し、逃げられた時の映像を再生する。


 瞬間的に現れる火柱のサイズ、熱量、そのどれもがパイロキネシスとして一級品だ。設置型のPSIを此処まで上手く使えるキョンシーは世界でもそうは居まい。


――やっぱすごいわね。


「ふむ」


 京香は戦闘映像を眺める。そして、その映像の最後の方で、


「……ん?」


 と、眉を潜めた。


 京香は映像を一時停止し、十数秒だけ戻す。画面は霊幻が壁面へ跳び、着地した直後に火柱が生まれた時から再生される。壁面へ着地した直後の絶対に避けられないタイミングでの火柱。一瞬で火達磨に成った霊幻は全身へ紫電を纏い、炎を剥がす。


 京香の眼に留まったのはその直後だ。


『ちっ!』


 ガタッ! 霊幻が炎をはがした直後、奥に居たのであろう野良キョンシーは舌打ちした。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 このキョンシーは千平方メートル強あるフロア全体をパイロキネシスで燃やしたのだ。


「霊幻、このキョンシーは何でフロア全体を燃やしたのか分かる?」


「吾輩から逃げるためだろう」


 霊幻の回答は正しい様に思えた。


――それじゃあ、何で


 京香は件のシーンをもう一度再生する。


『ちっ!』


 ガタッ!


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「何で初めから逃げなかった?」

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