② 未知のPSI
「おお、京香お前も終わったか!」
「うん。アンタもお疲れ」
シュタッと紫マントを翻しながら霊幻は京香の前へと着地する。
京香は穿頭教の人間達をロープで拘束し二号館の壁近くで寝かせていた。
「霊幻、アンタが戦ってたキョンシーは?」
「壊した。頭を潰して屋上に放ってある」
「……そう。後で回収しとかないとね」
京香はチラッと穿頭教徒から離れた場所に寝かせた四体のキョンシーを見た。
比較的損傷は無いが、蘇生符を壊してしまったのだから脳の劣化は食い止められない。もうこのキョンシー達は腐るだけだ。
「……」
一瞬京香は手を合わせようか悩んで、上げかけた手を止める。
京香の露出していた手と顔は火傷を負い、赤くなっていた。ジリジリとした熱さがジクジクとした痛みに変わりつつある。帰ったら医務室に寄らなければ成らない。
結局穿頭教のお目当てはワトソンだったのだろう。サイコメトリー等の精神感応系のPSIは発現しただけで論文に乗るレベルの特異性を持っている。
「もうちょい敵が多いと思ったけど」
「吾輩だけでなくお前が居ると言う情報を知らなかったのだろうな。吾輩達一体と一人を相手取るにはそれなりの準備が要る」
「買い被りすぎよ。アタシは簡単に死ぬ人間だもの」
苦笑した後、京香は「んー」と伸びをした。
ヤマダからの連絡に京香が気付いたのはそれからすぐ後だった。
「霊幻、ヤマダとセバスさんがあの野良キョンシー達と戦ったって」
「ほう。それでどうなったのだ? ヤマダくん達ならば負けたとは思えないが」
「大丈夫、二人とも無事。ただ逃げられたらしいわ」
京香はスマートフォンをスクロールし、第六課用のグループトーク画面を見る。
詳しい情報は京香が帰ったら話すとあるが、ヤマダから重要な情報が送られて来ていた。
「……糸の力場、か」
「聞いた事の無いタイプの力場だな。脳内のデータベースを漁っても該当例が出て来ない」
「流石ヤマダね。事前情報無しだと、下手したらやられてたわ」
頭を狙ってくるとは十中八九一撃必殺のPSIであり、ヤマダもそう判断していた。
パイロキネシスやエアロキネシスなどの目に見えるPSI相手ならば京香でも勝負が出来るだろうが、見えないのならそもそも勝負に成る前に詰まされる可能性が高い。
一度霊幻との会話を止めて京香は思考する。
二体の野良キョンシー。一体はパイロキネシスト。一体は糸の力場を操るサイキッカー。
この力場を電子機器やらに当ててジャミングしたのはほぼ確定だろう。
では、このPSIをヤマダの頭に向けた意味は何だ?




