第三章 行春散華(六)
結果は、全く、仲成の思うとおりに運んだ。
一月後、祐子は東宮御所に入った。薬子はその付き添いである。用意された部屋に入り、安殿がいつもの無作法さでずかずかと入ってきたとき、祐子は、
「お初にお目もじつかまつります」
と、緊張した声で深々と頭を下げた。
しかし、部屋に入って一同を見回した瞬間、安殿の目は薬子に釘付けになっていた。
「お前は―――」
安殿は我を忘れた様子で早足で薬子に歩み寄った。祐子を始め、皆が呆然とする。
「お前は、誰だ」
張りのある柔らかい声が、それに答えた。
「母の、薬子でございます」
「顔を上げて見せろ」
「はい」
すっと、彼女は顔を上げた。
白い顔と、涼やかな切れ長の眼。ふっくらとした、朱い唇。
安殿の顔が、わずかに紅潮したようだった。
「母? ということは、縄主の妻だな」
「御意にございます」
安殿は立ち上がる。それから強い口調で命令するように言った。
「薬子」
「はい」
「滞在を許す。娘付きの女房として、この東宮御所に留まるように」
薬子は安殿が立ち上がってから再び顔を伏せていたが、その言葉にちらりと安殿の方を伺い見た。そして再び、視線を床に落とす。
「不服かっ」
安殿の声が上ずる。
「いいえ」
艶やかな声が答えた。
「ご命令とあれば、従います」
室内がざわめく。
「よし。―――皆、ご苦労だった。また来る。今はくつろいでくれ」
言い捨てると、安殿は踵を返し、部屋を出て行った。
そしてその夜、安殿が忍んで行ったのは、祐子ではなく、薬子の寝所だったのである。
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