↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/92

第三章 行春散華(六)

 結果は、全く、仲成の思うとおりに運んだ。

 一月後、祐子は東宮御所に入った。薬子はその付き添いである。用意された部屋に入り、安殿がいつもの無作法さでずかずかと入ってきたとき、祐子は、

「お初にお目もじつかまつります」

と、緊張した声で深々と頭を下げた。

 しかし、部屋に入って一同を見回した瞬間、安殿の目は薬子に釘付けになっていた。

「お前は―――」

 安殿は我を忘れた様子で早足で薬子に歩み寄った。祐子を始め、皆が呆然とする。

「お前は、誰だ」

 張りのある柔らかい声が、それに答えた。

「母の、薬子でございます」

「顔を上げて見せろ」

「はい」

 すっと、彼女は顔を上げた。

 白い顔と、涼やかな切れ長の眼。ふっくらとした、朱い唇。

 安殿の顔が、わずかに紅潮したようだった。

「母? ということは、縄主の妻だな」

「御意にございます」

 安殿は立ち上がる。それから強い口調で命令するように言った。

「薬子」

「はい」

「滞在を許す。娘付きの女房として、この東宮御所に留まるように」

 薬子は安殿が立ち上がってから再び顔を伏せていたが、その言葉にちらりと安殿の方を伺い見た。そして再び、視線を床に落とす。

「不服かっ」

 安殿の声が上ずる。

「いいえ」

 艶やかな声が答えた。

「ご命令とあれば、従います」

 室内がざわめく。

「よし。―――皆、ご苦労だった。また来る。今はくつろいでくれ」

 言い捨てると、安殿は踵を返し、部屋を出て行った。

 そしてその夜、安殿が忍んで行ったのは、祐子ではなく、薬子の寝所だったのである。


     ☆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。