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〇〇六

 まだ、陽が昇っていない時間帯。彼らは殺戮をする為行動を開始していた。ヨルズとリリスは都市外へ。エイとマリアは都市の中心部へとやって来ている。


 そろそろ衛兵の交代時間で最も武器を持った者が現れる時間帯に彼らは行動を開始する手筈となっている。


「エイ。貴方達はこれからどうしようとするの」


 まだ、行動を実行に移す時間ではない為、暇潰しついでに疑問を心配事を尋ねる。

 主ならば知っている可能性はあるだろう。しかしながらマリアは知らない。知ってどうすると言う物ではないかも知れないが、もしもの時の為の備えなら早い事に越した事はない。


「それは主がお尋ねになったのか」


 マリアがそのような事を聞くなら『主』が望まれたという可能性がある。それならば答えても構わない。だが、それがそうではないなら彼が答える義務も権利もないのだ、決して。


「これはわたし一個人の疑問」


 マリアからそのような事を尋ねられるとは思っていなかった。暇つぶしとは言えどもそのような事を。


「なら、答える義務は無さそうだな」


 もし、これでエイが喋れば本国に帰還し、裁判を行った後に処罰を受けることになる。良くて『死刑』。死は免れない事態に陥ってしまう。


 わざわざ、そんな事は犯さない。


「主がお望みになれば教えてくれる?」


「勿論。主にはごまをすっておかねばならないようだからな」


 何故だか解らないが本国は主には教えても構わないと言っている。詳しい理由は教えてはくれないが教えても構わない、と。

 本国は——否、ヨルは何か知っているのだ。主の事を。この世界の事を。何か核心を知っているはず。


 そうエイは考えている。だからこそ、本国はこうも重要な情報を流しても構わないと言ってきている。


「そ、わかった」


「そろそろ、殺戮を実行するとするか」


 エイは陽を見る。

 仄かに太陽の光が差し込んで薄っすらと辺りを照らしている。携帯用の時計を所持していない為詳しい時間は不明ではあるが作戦を実行に移す時がやって来た。


「〈影の蔓延〉」


 マリアは魔導書より魔法を詠唱した。


〈影の蔓延〉。

 対象者の影を拡大し、そして影の世界へと誘う戦略魔法である。

 今回その対象者はエイにしている。エイの影が拡大していきこの都市全域を占める程の広さとなった。

 マリアの魔法は影を蔓延させるだけで止める。


 ここから先は己の特殊能力——奇跡と称されるそれを発動させる。

 エイの奇跡の固有名称は『陰』である。

 己の影を自由自在に操作し次々に殺戮を行っていく。


「美味いな」


 ふと、エイがそんな事を呟いた。彼のその発言にマリアの背筋に悪寒が走る。

 今、この都市に起こっている現象を魔法という手で視ている。何が起こっているか。一方的な殺戮である。


「不気味」


「そうか? これが俺の食事でもあるんだがな。吸血鬼が吸血するのと何も変わらないだろ」


 マリアは今、起こっている事を見て不気味と称した。エイが行わせている事は見るも無残な所業である。

 このような事は殺戮、虐殺。


 不死族の吸血鬼は生き血の求め血を啜っていく。そんな種族がいるというのに何故、エイは誹謗中傷されなければならないのか。そう、彼は疑問である。


 今、起こっている惨状は圧倒的な能力差による出来得る事である。


「……正しく悪魔、ね」


 マリアはそう言った。

 神霊種に分類されるそれは聖戦時に居た者である。エイと似たように影を喰らう悪魔が居た事がある。


 それを踏まえマリアはエイを『悪魔』と称したのだ。悪魔は言わば畏怖の象徴とされがちではあるが天使とどこが違うのだろうか。それが不明瞭である。


「ひどいな。俺が悪魔だと? ならお前らは何だ?」


「悪魔種」


 悪魔と悪魔種同一視されやすいが、全くの別種。悪魔は神霊種。悪魔種はそのまま悪魔種である。

 能力的にも違う。悪魔種と称されるそれは主がお創りになった存在。そういった面からも違う。


「ふーん、話変わるが良いか。聖戦時にいた神霊種は今も居るのか」


 殺戮に勤しむのは好きではない。エイは人を殺すのは好きではない。彼が好きなのは影である。他の物は二の次。

 なので現状を把握する気はない。殺戮にはまだ時間が掛かる為質問した。


「居る。でも、殆どが休眠状態」


 神霊種は息絶えたと語られてはいる。それは噂の域であったようだ。しかし休眠状態というのは少し可笑しい。


「? 殆どって言う事は今も活動しているのか」


「もちろん。ゴッドスレイヤーになろうとしてる?」


 神殺しの称号は一体でも殺せば今は貰える物である。

 聖戦時には神霊種を一体殺したとしても貰えなかった物である。昔は多くいた。しかし今は数が少なく強力な故容易に与えられる。


「まさか、俺なんかが神を殺せたら神なんて存在してないだろ」


 今、活動をしているのは強力過ぎる。全てが世界級以上の魔法を使用する事が出来る。そんなものを魔法適性のないエイにはどうすれば良いのか。


 それが命令だとするなら全てを賭してでも果たすであろうが。


「そうだね……」


 マリアは内心でエイならば彼の英雄にも後れを取らないと考えている。そう、神を殺せる、と。確かに彼の能力を以てすれば行えない訳ではない。『陰』の最終形態でならば為せる技がある。


「さて、もう魔法を切って良いぞ」


「え、良いの」


 エイの作戦上まだ、魔法は継続させるべきだとマリアは思っている。

 敵兵にゆっくりじっくりと恐怖を与えるにはまだ、時間を要するはずだというのに本当に良いのか。マリアには分からない。


「ああ、後は引く時に終わらせる」


 魔法を切っても直ぐに元に戻る訳ではない。少しずつ縮小していくのだ。その為そういう事も含めもう、魔法に頼らなくても己の能力で十分であると判断した。


 しかし本当にそれを行えるのかマリアには解らない。情報が少な過ぎるという訳では無い。今まで見てきたエイの『陰』ではそれは行えないと思われている。


 だが、エイが使用してきたのは『陰』の機能縮小型『影』と呼ばれている特殊能力である。

 今回は本気で事を為そうとしているという意思の表れである。



 冒険者が都市に来たという報告を受け兵達は夜間の警備を増やさなければならない事であり不満だらけである。


「あーあ、なんで冒険者はこんなにも」


 夜間の警備を増やさなければならないのは全て冒険者の性であるのだ。戦争中の相手をホームにしている冒険者がこの時に来るのは何かしらの理由がある。


 もしもの時に備えておかねばならない。


「軍隊長に聞かれたら軍法会議にしょっぴられるぞ」


「良いだろ別……なんだ?」


 彼はふと、気づいた。

 周りが照らされているのに足元には光がない。建物などは太陽の光により明るくなっている。それだというのにも関わらず足元は。


「一体どうなってる」


 異変に気付き槍を構える。

 この都市は何者からの攻撃を受けている。しかしそれがどのような攻撃かは分からない。


 足元より黒いモノが次々に生まれて来る。


「おいおいどうなってる」


 黒いそれに槍で攻撃していく。しかしそれらの攻撃は幾らやっても効果が見えてこない。


「建物に上がれ」


 そのような声が遠くの方から聞こえて来た。その声に従い建物に上がっていく。黒いそれらは下の方に居る。


 建物には登って来ない。


「一体あれは何なんだ」


 この建物の屋上に居るのは合計一六人の兵士である。一人を除き他の者は練度が低く雑兵である。


「軍隊長! 一体何が」


「解らんっ。だが、これは魔法だ」


 今分かっている事はこれくらいであるう。もし、これが魔法と断定するならば最も可能性が高い者はあの者しかいない。


「図ったな、糞狂信者がッ」


 叫びたくもある。軍隊長とてあの者達を都市内に入れようとは思っていなかった。こういう事も起こる可能性があった。


 軍隊長は彼らにはこのような事が起こらぬようになるべく望まれた物は用意した。


「どうしますか」


「無理だ。勝てる訳が無い」


 司教という存在は異教徒にとっては畏怖の象徴。王女が国教として『正墳教』を推奨した時から国が二分している。今現在も起こっている。


 王国が二分にした元凶は王城内に籠っていると風の噂になっている。


「司教が敵なんだぞ。勝てる訳が無いだろ」


 他の建物を見るとそこより身を投げている者が居る。自殺している。

 と、作戦本部がある辺りが炎に包まれている。


「それが狙いかっ」


 司教は一体何を企んでいるか分からなかった。ただ、気が向くままにこれを行っている可能性があった。しかし恐らく作戦本部が燃えているのだ。それが狙いと見て間違えないだろう。

 しかしどうだろうか。


 目下に居る黒いそれらはまだ、活動をしている。


「どうなってる。奴らは目的を果たしたんじゃないのか」


 と、建物が動き出した。

 地震かと思われたが違った。ならば下にいる者共か。それも違うならば。


「沈んでいる?」


 そう沈んでいるのだ。

 建物が影の中へと入って行っている。何故そのような事が起きているのか解らない。その為、魔法の性と考えるのが妥当であろう。


「もう、終わりか」


 絶望。

 都市内ある殆どの建物が地の底へと向かっている。そんな状況下希望など持てる訳が無い。


 死。

 それが迫ってきている。逃れぬ事の出来ないそれを前に神に祈り出す者共が現れ出す。神に頼るなど愚の骨頂だと思っている軍隊長であろうとも今は助かるなら神だろうが悪魔でも頼るだろう。


 そして世界が暗転した。


 世界に光が差し込んだのは日の出より数分後の事であった。

 建物は無傷であり、作戦本部の外に居た者達は身体のどこか一部を欠損しており、生命に別状はない状態で照らされた。


 出血などは起こっておらず一体どのようにそのような状態に陥らさせたのか些か疑問の余地があるがこの際はどうでも良い。

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