〇〇五
翌日未明。
正確にいうと陽は登っておらず、しかし後二、三時間すれば陽が上がってしまう時間帯である。
四人は朝早くから本日行動する内容の最終確認を行っている。
「──包囲網の崩壊させるともなれば懐に入り内側の崩壊は簡単だが」
「その後だな」
口を挟まれた事は意を返さずにヨルズが言った事に頷く。
まさしくその通りである。この作戦を行うにあたっての肝心な箇所そこである。
「ああ、指揮系統の失った烏合の衆の対処だ」
指揮系統を失ってしまっては本来獣と変わらぬその種族は暴れてしまうという最悪の事態になり兼ねない。エイが考えた作戦というのは死人が必要最低限のそれとされている。元々彼は最小限の殺傷しかしようと考えていない。それに殺戮に興味などない。
彼は己を常人のそれというかもしれないが彼がいた周りの者達の中では平均的な方である。彼が知っている中では人を一人殺すのに麻薬や回復系の物を使って少しずつ殺して行こうとする者だっている。
それらと比較すると勿論の事、彼は常識人、一般人の類となってしまう。しかし対象する相手が可笑しい。
世界と比較すれば彼は狂人の類へとなってしまうが。
「そこはわたしの戦術級魔法で」
切り分けられたショートケーキを口に運びながらリリスが言った。
皆の前にショートケーキが配られており、エイには珈琲、他の者達には紅茶が置かれている。
因みにショートケーキ、珈琲、紅茶はエイが作った物である。
彼のオリジナルブランドである。味は言うまでもない。完璧だ。完璧主義を自称する彼は料理も完璧へと至っている。
「アナタは聖職者でしょ。ここはワタシに。いいでしょ、エイ」
マリアはまた可笑しな事を言った。こうも容易く戦略級魔法を使うなどありえない。世界に『正憤教』以外の者では両手で数えられる程しかいない。いつかバレてしまうが直ぐは避けた方が良い。
昨日、エイに必要ないと言われたにも関わらずここに来てリリスは自分がやると言い出した。諦めが悪い。
「急にどうしたの。多寡だか下級魔法しか使えない身の」
「────」
「決めるのはエイだから。アナタじゃないから」
「……まあ、うん、二人でね」
マリアは主の御命令に従順であり、主の期待に添えれるように行動する。そしてリリスはと言えば好意を寄せている相手の役に立つ為の行為。やろうと思えば一人でやれる。
しかし、成功確率が低くなってしまう。が、マリアの手を借りれば作戦成功率は格段に上昇する。
頭痛がやって来る中、マリアを一人だけ取り、行うはずのない残敵掃討などという物の為に待機と言うのも後々問題になって来るかも知れない。そう考えると頭痛がより一層迫って来る。
どのようにして上手く、リリスを丸め込むか。難題を前にして逃げ出したいと本気で思うエイである。
「──内部に戦略級魔法──〈影の蔓延〉を使用。その後自分の『陰』を使用。敵、本部の面々を暗殺。その他の者は範囲内に居る者の行動を阻害と戦線離脱をさせる為、腕又は足の破壊をしました」
エイは休めの態勢で淡々と語った。行った事はどんなに悪辣な行為であろうとも彼は顔色を変えずに語えてしまう。
それを聞きヨルは頷いた。
「オーダー通りだな」
命令を完璧に実行する。それが軍人として生まれ、育てられたエイが行わなければならない事である。
今も一応は彼は軍人である。
「はい。とは言いましても敵の戦力を考慮すれば簡単でした。しかしたった一つの敵主力を消すだけで宜しかったんでしょうか」
エイには分からない事である。彼としてはもう一、二都市の奪還をした方が良いと考えている。勿論それはエイが得ている情報だけを視ればの話である。
もし、それを命じられて入れば容易に任務を達成する事が出来ていただろう。
自重している訳ではない。彼の能力を以てすれば後一、二都市陥落させるなら移動時間を入れなければ一時間も掛からないだろう。
「良いんだよ。この戦争は言わば『拠点』の取得だからな。それに本格的にフィオリ王国を潰す気は無いからな」
はて、ヨルは『本国』によりどのような密命を受けているのだろうか。それは『本国』と彼しか知らない事である。
いや、それに加えると後は正憤教の主だろうか。正憤教とは同盟関係であるのだ。
「まあ、兄さんがそう言うなら」
ヨルは勝利を目指していない。この戦争で勝とうなんて思っていない。彼はただ、拠点を得ようとしているだけであるのだ。
しかしヨルは『本格的』に潰そうとはしていないだけであって潰さないという訳ではない。全戦力を以ては行わない。何かの拍子に潰したり、序に潰す機会があればやってしまうかもしれない。
「これからはどうするか」
「地下資源の採取及び領地の維持では」
ヨルが漏らした声に反応する。エイはそう聞いている。『本国』がそれを望まれているのだ。こちらに来ている全員に共通して行う内容。
地下資源の採取はウランを入手。そして領地の維持は兵を『本国』より送られて来る手筈となっている為それまで防衛に励めばよい。
「それもある。が、どの国からお近づきになるか。考えなくちゃならない」
ヨルの指揮の下エイは行動をしている。目標及び目的の統一は必須の事である。
「次の御命令は何でしょうか」
エイは命令に忠実である。どのような命令であろうともやれと命じられれば行う。根っからの軍人である。
「急を要する事はないな。ま、明日までは休暇だ。明後日〇八〇〇にここに出頭せよ」
「了解しました」
敬礼して終わった。
休暇と言われても一日しかないならやる事はない。短い時間しかない。それならば前倒しにして行う事にする。
「暇だし付き合うか」
明日の予定は決まった。明日は忙しい日となるであろうが行わなければならない事、と自分に言い聞かせる。休日にも仕事を行うという彼の仕事への勤労意欲はそれ程までにも積極的なのか。
いつかやらねばならない事であるのなら早めに行った方が良いとただ思っているだけである。
「一つ、お願い事があります」
もし、明日に今まで出来なかった事をするのなら許可が必要である。それは通常では出来ない事であるのだ。それも上官に対する願い事。
それ程までに行う事にはリスクが掛かる事であるのだ。
「ああ、良いとも。お前の願いだ。おれから言う事といえば失望させるなよ」
内容を聞くような野暮は行わない。この新しい国王が誕生する今、エイは今までに出来なかった事を可能とする。
今回の要請はエイの本業である。彼の本業は闇の部分の物である。
「はっ、ありがとうございます」
今回は敬礼ではなく頭を下げた。これは正式な命令ではない。故に答える方法を変えただけである。彼にはこういう面もある。エイは仕事と私情を分けている。
仕事人間ではない。ただ、命令に忠実であろうとする彼は区別をして事に当たっているだけである。
用事の無くなったエイは退出した。それと入れ替わるかのように書記官のヤミが入って来た。
「話は聞いてたか?」
「はい」
エイとの話をドアの外に待機していたヤミの耳に届いていた。一言一句聞き漏らす事はない。彼女の特殊能力がそれを可能とさしている。
半径五キロ内なら声を拾う事が出来、三キロ以内であるのなら声をはっきりくっきり聴きとる事が出来る。これにはどのような遮蔽物を意味を為さない。
「じゃあ、頼むわ」
お辞儀と共に肯定の声がやって来ると思っていたが違った。ヤミは手元にある書類から顔を上げる。今回行う事は残念な事にヨルがするような事ではない。
彼が受け持っている仕事は他の誰にやらせるような物ではない。
「よろしいのでしょうか」
「何が?」
「エイに自由を与えても」
ヤミが反論するのもしょうがない事であるのだ。エイはルールの下に生きている。そんな者に自由を与えて何か起こしてからではヨルがどのような処罰を受けるか見当がつく。
一度の失敗をヨルには赦されていない。いや、ヨルだけではない。この星にやってきた彼らは『本国』に失敗などいう物は望まれてなどいない。
「ふーん、嫉妬でもしてるのか」
半笑いの状態。ヨルはそう考えが至った。
『嫉妬』と。ヤミが嫉妬をしている為にそんな事を言っている。そう彼は本気で思っている。
「えっ!? そんな事ありませんっ。仕事と私情を挟むようプログラムされていませんからっ」
そのように作られてなどいない。兵器たるモノ本来なら心など必要などなかった。それなのに何故あるのか。
偶発的に出来てしまいそれを消すと何かと不便になってしまう、と理由から消さずに作成され続けられている。
「はいはい。自由を与えて暴走しないか、と心配してるのか」
「はい。後輩を心配してます」
ヤミは少し、多少はエイを心配している。彼以上にヨルの身を心配している。
「私情を混合してる時点でお前も」
「──この際は良いじゃないですかっ」
ヤミは思う。ヨルとのこういう会話をずっとしていたいと。しかしそれはいけない事である。何故ならヨルがそれを望んでいないからである。
どれ程冀おうともそれは不可能なのだ。元より兵器として作られた彼らはこうしている方が可笑しいのだ。
「分かってる。でもな。次に出す命令を考慮すれば情報を得ておいた方が何かと良いだろ」
「……はい。ではそのように手配しておきます」
情報を入手するにもこのように失う物、可能性が高い物は成功確率を高めてから行っても無理ではない。ならばそちらを選んでも良いはずである。




