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カバ

「宰相、魔王の報告を聞いたか?」


「はい。にわかには信じられん事ですが……しかし虚偽の報告をする理由もなし。近衛第三部隊の報告ですからな。いくら不自然であっても真実かと」


 王城の一角。王の執務室でレイトン・ド・タウンゼンド四世とその宰相が、ひざを突き合わせて話し合っている。内容はもっぱら魔王こと、魔法使いコルマドの弟子の話だ。

 

 その報告とはこうだ。

 

 近衛騎士第三部隊隊長、副隊長、ともに弟子殿と楽しく食事と酒を楽しんだ。弟子殿は食事に大満足し、うめぇうめぇと破顔しながら肉をほおばり、酒を嗜んだ。そしてあろうことか、隊長、副隊長ともに食事と酒を飲む事を強要し、打ち解けたという。隊長も副隊長も、騎士に対する王命として、弟子殿の案内兼、警護を仰せつかっている手前、はっきりとは断れずこの事態になってしまったと言う。


 さらには、酔っぱらった隊長が夜の街に繰り出す事を大声で宣言し、しかも弟子殿も王都に乾杯などと言いながら王都の歓楽街を闊歩するという異常事態。いや、酔っぱらって頭のおかしくなったアホが歓楽街でハメをはずすのは珍しくない為、街自体が異常事態という訳ではないが、王と宰相の心象は異常事態であった。


「宰相よ……この度王都に連れてきた魔王は本当に件の魔王で相違ないか?」


「影武者、いえ、人違い、という事でありますか?」


「うむ。その可能性を考えてみてくれ」


「恐れながら……先代デュランス伯の言を信じるなら影武者、もしくは人違いの線は薄いかと」


「なぜだ?」


「先代デュランス伯は、魔王が住むという砦にはあの者以外いなかったと証言しています。さらに周囲には討伐隊や賞金稼ぎからはぎ取ったであろう装備品が散乱していたと。もちろん、魔王本人にも確認しております」


「ふむ……あの者が自ら魔王であると認めたか」


「いえ、彼の者が自ら魔王であるとは認めてはいません。ただ、魔法使いコルマドの弟子であり、領都を滅ぼした事に関してはたしかに自分であると」


「なるほど。魔王と呼んでいるのは我らのみ。自ら魔王と名乗った訳ではないと。そういう事だな」


「はい。しかしある意味で合点がいっている部分もあるのです。我らは彼の者の所業から魔王と断定し、討伐隊も帰ってこなかった事実から交渉も不可であると結論付けましたが……」


「そうではなく、話の通じる人である……と?」


「はっ、そのように愚考いたします」


「それならば此度の和睦、滞りなく完遂できるか」


「そうですな。この報告は悪い報告ではございませぬ。ただ、魔王たらしめた魔法は間違いないはず。まだ和睦が実現せぬ内から安心はできませぬ」


「そうだな。だが、話の通じる人であるなら、和睦のみならず王国として今後の関係も考えられるやもしれんな」


 翌日に控えた通称魔王との謁見と、その後の歓待としてのパーティを滞りなく終わらせるよう王と宰相の話し合いは遅くまで続く。



――――――――――



「魔法使いコルマド殿の弟子殿! 入場!」


 素晴らしい王都での1日が終わった次の日。昼前くらいに王城からの使いが来て、王との謁見の準備が完了したと通達していった。その後に豪華な馬車が宿の前まで来て、僕を乗せて王城まで行ってくれるという。すごいね。国賓待遇だよ。


 王城に着くと、使者としてうちに来たじいさんが待っていてくれた。謁見の間まで案内してくれるって事でまかせる。それにしても王城ってのはでかいし広いし、なんか高価そうな絵とか壺とか飾ってあって、さすが王城って感じだった。


「ささ、入場の合図がありましたぞ。王がお待ちです。弟子殿……和睦の件、どうぞよしなにお願いいたします」


 入場と言われたので、恐る恐る入ろうとしたけど……なんで僕がびびらなあかんねん、と関西弁で開き直った。和睦を求めてきたのは向こうだからね。スタスタと歩いて玉座に座る王の数メートル手前で止まる。なんとなく止まったけど、ここからどうしたら良いかわからないから突っ立っている。

 

 周りには兵士もいるけど、大半が普通の人っぽい。結構な人数だ。服装が豪華だから貴族ってやつかな。貴族と関わった事ないからわかんないけど、たぶん貴族。漫画やアニメでみるような服だから現代日本だったらコスプレ会場かなって思う。

 

「王の御前であるぞ! 頭をたれよ!」


 周りの兵士から怒声で飛んだ。

 

「良い。控えよ。魔法使いコルマド殿の弟子殿、此度はご足労願って悪かった。余が、タウンゼンド王国国王、レイトン・ド・タウンゼンド四世である」


 すごい偉い感じの人が玉座から立ち上がり、こちらを見ながら名乗った。偉い感じじゃなかった。実際に偉い人だ。王様だからね。そりゃ偉いよ。この国一番でしょうよ。

 

「弟子殿、我が国の貴族であったクリストファー・オ・デュランス伯爵が行った、魔法使いコルマド殿と弟子殿への非道を、国王として心より謝罪する。そして弟子殿には相応の賠償金を支払わせてほしい。これは和睦とは別の話としたい。和睦がならずとも謝罪と賠償金、コルマド殿と弟子殿の名誉回復に尽力すると、王として約束しよう」


「そしてデュランス伯爵についてだが……残念ながらデュランス伯爵領はすでに壊滅しており、デュランス伯自身も行方不明であるが、恐らく死亡していると我々は考えている。なので当事者であるデュランス伯への罰は、弟子殿が行った制裁により償ったと思ってもらえないだろうか」


「最後に和睦に関してだが……弟子殿が住まわれているブリーデ砦を賠償金の一部として譲渡する。ブリーデ砦を弟子殿の所有地とし、ブリーデ砦とタウンゼンド王国とでの不可侵条約を締結したい。しかし、もし弟子殿が望むならば、王都に居を構え、タウンゼンド国民として暮らしてもらっても構わない。ただ、その場合は弟子殿の魔法に関して様々な取り決めをおこなってからとしたい。どうか?」


 国王は一息にそういうとこちらを見据えた。僕は浅く息を吸い、浅く吐き、そして少し深く息を吸った。

 

「うんちでるでる ぴーぴーでるでる われ こうもん げんかい しゃしゅつ すべてをのみこむ しんえんの つぼみ こいこがれるは こくかっしょくの うんち」


「は? うん……ち?」


 僕が詠唱をすると、周りがざわめく。中には詠唱だと思わずに、下品な言葉を王に吐いたとかいう兵士もいるくらいだ。この詠唱は僕の召喚の最終形態。その分長い。


 ドチャッ

 

 いつものように、なにもない空間からぬるぬると唐突に軟体物の塊が落ちてくる。

 

 その固まりは広がり、固まり、躍動し、形作る。

 

 僕の召喚最終形態は、それほど大きくない。大体130cmくらいかな。のっぺりとして、ぬるぬる黒光りしたこげ茶色、形はずんぐりむっくりした二足歩行のカバだ。手足はかなり短い。わかる人にはわかる説明をするなら、ムーミンだね。こげ茶色のムーミン。


「な、なん、なんの魔法だ! いや、魔法か!?」


「なんですの! あの醜悪な生き物は!」


「うんちって言った? あれうんちなの? でかくない?」


 方々で声があがる。近くにいる人には僕の召喚した相棒が見えるだろう。僕は相棒であるうんちカバに告げた。


「殺せ。まずは国王だ」


 バシュっ

 

 うんちカバは尖らせた指を伸ばし、国王の眉間を一突きした。

 

「ぁへッ」


「あとは手当たり次第だ。一人も生かして帰さないように」


 僕は相棒のうんちカバにそう言い、出口に向かってゆっくりと歩きだす。

 

「き、き、きさま! 止まれ! よくも、よくっ、ぱぇっ」


 兵士がなにか言おうとしていたが、最後まで言うことなく、僕のうんちカバに頭を潰されて死んだ。回りは地獄絵図だ。顎から頭にかけて貫かれた者、胴体を堺に上と下で分かれた者、首を飛ばされた者、脳天から股まで縦に引き裂かれた者。兵士も貴族も関係ない。男も女も関係ない。全てなくしてしまう。

 

「いや、相棒。ちょっと変更しよう。子どもは殺さなくていいよ」


 子どもは国の宝だからね。大事にしないと。まあ、この後で国があるかどうかはわかんないけど。それは仕方ない。強く生きてくれ。

 

 相棒は僕の言う事を忠実に実行してくれている。すでに王城に人の気配はない。数人子どもがいるくらいかな? 相棒は王城を出て、王都で暴れまわっているみたいだ。僕は血に濡れた王城の廊下を一人歩いていく。


「王都の観光楽しかったなあ。ご飯も美味しかったし。もうやる事なくなったから帰ろうかな」


 帰りは馬車がないから、徒歩で帰る事になりそうだ。王都では火の手が上がっている。相棒は火なんて出せないから、あれはどこかから燃え移ったのかな。僕の相棒に弱点はない。火は効かないし打撃も効かない。呼吸もしないから窒息とかもない。閉じ込めようにも、城を素の力で壊すレベルで怪力だ。


「相棒、もういいや。帰るよ」


 僕がそういうと最終形態の相棒は、ぬるぬるのスライム状になって消える。遠くに悲鳴と泣き声が聞こえるくらいだ。さすが王都。生きて帰さないためにはもっと時間が必要だったかな。でももういいや。これで十分。


「帰ってエアレーシングゲームでもしよっと」


~おしまい~

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