第53話 『初めての武器』
受付まで辿り着いたところで、クルエルは外套の内ポケットに手を入れた。
そして、一つの巻紙を取り出す。
「討伐証の換金を頼みたいんだが...」
そう言って、クルエルはギルドの受付嬢へ討伐証を差し出した。
僕とティエラは、二人のやり取りをじっと見守った。
「討伐証の換金ですね。かしこまりました!」
そう言い、受付嬢は討伐証を広げ中身を確認する。
中央に描かれたナシランハイエナの絵。
その下に記された魔物の説明。
刻まれている【C】の文字。
受付嬢は慣れた手つきで視線を走らせ、すぐ頷いた。
「確認いたしました。討伐型Cランク。こちらは、ナシランハイエナの討伐証でお間違いありません」
そう言いながら、受付嬢が討伐証を『クルクルッ』と巻いていると、クルエルがそれを指差して尋ねる。
「この討伐証一枚で、どのくらいだ?」
「はい。ナシランハイエナの討伐証ですと、持ち込み数が比較的多いものになりますので、銀貨三枚に銅貨十枚といったところになります」
「やっぱり、そんくらいか」
提示額が気に入らなかったのか、クルエルはほんの少しだけ天井を見上げた。
もう少しだけ、高値で買い取って貰えると思っていたのだろうか。
ややあって、クルエルは納得したように頷いた。
「よし、ならそれでいい。換金を頼む」
「かしこまりました! 少々お待ちください」
受付嬢は笑顔でそう言うと、討伐証を持って、後ろにある階段を駆け上がっていった。
その間に僕は、お金について尋ねた。
「なぁクルエル。金貨と銀貨、銅貨ってどのくらい価値が違うんだ? 俺、そこんとこだいぶ曖昧でさぁ...」
「お前盗人だったろ。盗った金使ったことないのか?」
「使ったことないわけじゃないが、あんま価値の差を知らずに使っていたんだ」
そう言うと、クルエルは腕を組んで考え込むような表情を見せた。
「そうだなぁ。例えるなら...」
「金貨一枚あれば、質を選ばれなければ武具一式。銀貨一枚なら、二人ほどが宿で一晩休めるくらい。銅貨一枚なら、一般的な食料や雑貨を少し買えるくらいだ」
「そんなにも違うのか...」
「あぁ違う。だから、金貨を普段から持ち歩く奴なんてのは、よっぽどの金持ちか不用心なバカだけだ」
Cランクの討伐証で、得られる銀貨はたったの三枚。
ダンジョン難易度が低いから、仕方ないか。
でもナシランハイエナの討伐証は、持ち込み数が比較的多いと言っていたから、持ち込み数が比較的少ないものであれば、銀貨十枚や金貨だって得られるのかもな。
とはいえ、確実に金貨一枚を手に入れたいなら、最低でもBランク以上のダンジョンで、魔物の討伐証を得る必要があるのかもしれない。
きっと、そうに違いない。
そんなことを考えていると、階段から先ほどの受付嬢が降りてきた。
両手には小さな巾着袋を持っており、袋の中で硬貨が触れ合う音が、微かに鳴っていた。
「お待たせいたしました! こちらが討伐証の換金額、銀貨三枚と銅貨十枚になります。ご確認ください」
クルエルは巾着袋を受け取り、中身を軽く確かめる。
それから「どうも」とだけ言って、袋をしまった。
それを見て、受付嬢は丁寧に頭を下げた。
「またのご利用をお待ちしております!」
この受付嬢は、終始とても愛想が良かった。
それに比べ、周囲の視線は相変わらず冷たいまま!
だから僕たちは、すぐさまギルドを後にした。
外へ出ると、朝の空気がやけに澄んで感じられた。
おそらく、ギルドの中に溜まっていた敵意と嫌悪から解放され、息がしやすくなったからだろう。
締め付けられていた胸が緩んだことで、酸素が肺の奥深くまで流れ込んでいくようだった。
とたん、胸の高鳴りが表に漏れ出るような顔つきで、ティエラは言う。
「これから、鍛冶屋に向かうのよね!」
その顔は、ギルドでの緊張を忘れたみたいに明るかった。
そんなティエラを見て、クルエルは口の端を上げた。
「楽しみか?」
その問いに、ティエラはすぐに言葉を返した。
「もちろんよ! 私初めての武器なのよ!」
その言葉で、ドロームでのティエラが頭を過った。
ティエラが抱えるように持っていた大きな剣。
あれは、彼女自身のものではなかったのかなと。
「ドロームで抱えるように持っていたあの大剣。あれは、ティエラのじゃなかったのか?」
「あー、あれは私のじゃないわよ。店主から借りたの」
彼女は、僕にそう言った。
たしかにあんな重たそうな剣を、小柄な彼女が振り回すことなんて出来ないだろう。
それを考えれば、彼女自身のものではないと分かる。
「お前たち、ここがさっき話した鍛冶屋だ」
突然そう言って、クルエルが急に足を止めた。
僕たちの目の前にある建物は、さっきのギルドと比べれば然程大きくはない
――けれど。
通りに面したその建物からは、ただならぬ存在感が漂っていた。
粗く削った石を積み上げた外観。
入口の上には、槌と剣を交差させた鉄の看板。
煤に黒ずんだ煙突。
そして、そこから立ち上る細い煙。
『カンカンカンカンッ!』
『カンッカンッ!』
(ここで、武器が作られているのか...)
人を守るため、魔物を殺すための武器が。
ティエラは、鍛冶屋から聞こえるその音に、耳を澄ましながら目を輝かせていた。
でもなんだか、彼女がそんな表情になってしまう気持ちが、僕にも少しだけ分かる気がする。
今から僕たち冒険者にとって、欠かすことのできないものを手にするのだから。
彼女にとって初めての、自分だけの武器を。
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