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灰雪のベルクレア  作者: 村井 世那
灰雪のベルクレア
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プロローグ

 

 こんな所で、僕は死ぬのか?


「最悪だ。くっそぉ...」


 小声でそんなことを呟きながら、僕は部屋の片隅で膝を抱えて座っていた。

 まだ少年と呼ばれる年齢のはずなのに、ここ数日でずいぶん老け込んだ気がした。


 盗みなんて、最初は妹のためだったのに。

 今となって、それが違うことに気がついた。

 

 腹を満たすために始めた行為を、いつしか僕は楽しむようになっていた。

 盗みが当たり前だと思い始めてたんだ。


 その報いが、これだ。


「アリーシャ...」


 呼んだところで、返事があるわけもない。

 鉄格子の向こうは暗く、空も見えないんだから。


 ややあって、廊下の奥から一つの足音が聞こえてきた。

 おそらく、僕を捕らえた騎士団のやつだ。


 僕はまだ十五歳!


 人を殺したわけでもないのに、どうしてこんな場所に閉じ込められなきゃいけないんだ。


 僕は、近づいてくる騎士に声をかけた。

 もちろん、話の通じる相手じゃないということは理解しているつもりだ。

  

 「おーい。俺をここから出せぇ!」


 そう言ってみたが、返事はなかった。

 それどころか、こちらに視線すら向けようとしない。


 「......」


 ただいつも通り、食事を届けにくるだけだった。

 

           ***


 その騎士がこの場を去ってから、数十分は過ぎた


         ――そのとき。


 廊下の奥から、重いものを引きずる音がしたのだ。


 がしゃり、がしゃり。


 この足音が、妹のものじゃないというのはすぐに理解できた。とはいえ、人のものですらない。

 似てるところがあるとすれば、歩幅だけ。


 僕が顔を上げ、灯りの届かない通路の奥を眺めていると、一つの影がこちらに近づいてきてることに気づいた。だが、それが何なのかまだ分からなかった。


 ソイツは人の形をしているが、人とは到底呼べない外見をしている。

 全身は黒鉄で覆われており、その継ぎ目や隙間には、白い線が嵌め込まれるように走り、血管のように全身へと張り巡らされていた。


 ソイツは鉄格子の前で歩くのを止め、微かに震える指先を持ち上げた。

 すると、黒い砂のようなものが床にこぼれ落ちた


          ――砂鉄だ。


 その砂鉄は、意志を持っているみたいに床を()い、ゆっくりと文字を描きはじめる。

 

 やがて、床にひとつの言葉が浮かんだ。


 『久しぶりだな』

 

 なんでこんなことに...。

 僕は、嫌になるほどコイツを知っている。


「......ウェイン、なのか?」


 だが、ソイツは答えなかった。

 おそらく、喉を潰されていたからだ。


 けれど、その瞳だけは確かに言っていた


        『間違えるなと』


 お前の盗人相棒だった、あのウェインなのだと。


 しかしこの再会を前にして、笑えばいいのか、泣けばいいのか分からなかった。


 つい先日まで、一緒に盗みをしていたんだぞ。

 信じられるわけがない。いや、信じたくない。


 たけど、一つだけ確かなことがある。それは、僕たちの『物語』がまだ、終わっていないということだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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