55.帰りたくない思い
「晴日さんって人そんなにすごい人なんだ。」
確かに、部下らしき人は数人いたけど団長だなんて。
じゃあなんで、
目が合ったのに見逃したのかな。
「この前あった第2騎士団のリーダーぽい人も団長なのか?」
蓮が、言った。
あの男は、見るからに自分偉ですよアピールを放っていた。
「いや、あいつの顔は見たことあるようないような」
司は、曖昧な答え方をしていた。
「多分違うだろ」
「右胸にバッチをしていなかったからな」
司は、あと緊迫した空気の中でもよく敵を見ているのだな。
「そんなんでいいのかよ」
「お前、仮にもこの国の勇者だろ?」
直人が、呆れるように言った。
「まぁ、仕方ないかもしれませんね」
慎さんが、司のことを庇うようにして言った。
「騎士団のメンバーはとても変わりやすいのですよ。」
「えっ?」
透が、思わず声を発した。
そんなことがあっていいのだろうか。
個々で国を守るのであれば問題は無いだろうが、騎士団という程だから団体でこの国を守るのだろう。
そんな騎士団のメンバーがよく変わるとなると国民は不安ではないのだろうか。
「なんで国民は何も言わないんですか?」
未来が、慎さんに質問した。
「しないのではなく出来ないのでしょうね」
慎さんのその言葉でみんなは、この国の現状を思い出した。
「国民の皆さんは知らないふりをしていますが」
「騎士団を辞めさせられた方のその後はよく分からなくなっています。」
その話を聞き陽葵たちの頭の中では良くない妄想が膨らんだ。
「やっぱり」
「この国から帰りたい」
夢描は、自分の腕を掴みながら言った。
震える手で、
「そうよね」
花も昔の自分を思い出しているのだろう。
自分の家族に突如会えなくなることの悲しさ、この後起こる試練。
「僕は、帰りたくない」
その意味のこもった声が妙なほど室内に広がった。
「何言ってんだよね大輝」
楓が言った。
帰りたくないと言ったのは、
佐々木 大輝
「僕、この世界にいたい。」
まさかの言葉に陽葵たちは、呆気にとられていた。
「どうしてか聞いてもいい?」
陽葵は、冷静さを取り戻しながら言った。
「僕」
「家族が好きじゃない」
大輝は、勇気を出しながら言った。
「そっか、」
陽葵は、何故か自分のことのような悲しい顔をしていた。
「お父さんに反抗すると」
「お腹を殴られる」
「お母さんに何か言うと」
「消えろって言われる」
大輝は、いつも明るくクラスを元気にさせてくれる存在だった。
そんな大輝が、こんな思いを抱きながら過ごしていたなんて。
「それは、辛いよね」
「もし、元の世界に帰ることになったら」
「大人に相談したいとは思ってる?」
慎さんは、大輝を座られて暖かいお茶を出してくれた。
「話したい」
「でも、話せない」
きっと、家族という縁が壊れるのが大輝にとって怖いのかもしれない。
「私もね」
陽葵が、そっと呟いた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次回も、少しだけこの世界に付き合ってもらえたら嬉しいです。




